第12話 蘇生と復元



ついに、キールと再会したリアン一行。


キールはリアン達と別れた後、ヒデオタークにたどり着いたこと、シルネという少女のこと、ザガーロのこと、そして…ザガーロの自爆のことについて話した。


壮絶な内容に言葉を失う3人。特にアントーンは自身の督不行き届きのために招いてしまった悲劇だと思い、ザガーロを止められなかった自分を責めた。


「すまない、キール…俺がもっとしっかりしていれば…」

「いや、アントーンのせいではないよ。ザガーロという男は放おっておいても、同じ悲劇を起こしていた。むしろ悪いのはわたしだ。あの男を止められなかった。わたしがここに来なければ、こんなことにはならなかったんだ…。」


悔いるキール、その傍らには、銀髪の少女シルネが横たわっていた。少女は目をつぶり二度と目覚めることはない。


「キール、その子は知り合いか?」アントーンが気づき尋ねる。

「ああ、シルネという名前の子だ。わたしがこの町に来たばかりのときによくしてくれたんだ。わたしのせいでこの戦いに巻き込んでしまい命を落とすことになってしまった。」

「キールさん…」

「さっきまで、どうしようもなく落ち込んでいたが、君達のおかげで心が持ち堪えられたよ。ありがとう。」


キールが感謝を述べた後、先程の魔力が気になったアントーンは質問する。


「キール、さっきの魔法は…?」

「ああ…やはりアントーンには分かってしまったようだね。わたしが発動させようとしたのは反則魔法『自害』だ。さっきまでのわたしはどうしようもないくらい血迷っていた。まだ悲しい気持ちはおさまらないがね…。」


今のキールは計り知れないほどの悲しみを抱えている。それをグッと堪える姿に3人は何も言うことができなかった。そして、キールは決心する。


「……わたしは、もう誰にも負けない。折れない。そして、誰も犠牲にはしない。そして、必ずリトナミにたどり着く。」


キールの目にもう迷いはない。鋭い眼光は戻り、自身の目的のため全力を尽くすことを胸に誓う。


「…だから、もう少しだけ一緒に来てくれるかい?リアンくん?」


キールは優しくリアンを見つめる。

リアンの心はすでに決まっている。


「当然です!次は何があろうと離れません!!」


そして、それを聞きアントーンも口を開く。


「キール、俺も同行させてくれないだろうか?軍を辞め、サンカエル王国から脱国するつもりだ。俺の感知魔法も何かの役に立つと思う。」

「もちろんだ。アントーンはわたしよりも強いから、頼りにさせてもらうよ。」

「いや、お前のほうが強いだろ。」


真面目にツッコミを入れるアントーン。そして、キールの目は紫色の髪の青年に向く。


「それで…君も着いて来てくれるのかい?魔神オルスロンくん?君の足場魔法は、移動に便利だ。来てもらえると助かるよ。」


オルスロンの目には、以前のようにキールに対する敵意はない。彼もキールを助けたくて駆けつけたのだ。


「…ったくしょーがねーなー。力を貸してやるぜ、キール!リトナミまで逃げようぜ!」

「ありがとう。」


『ありがとうはこちらのセリフだ。』…とは、照れくさくて言えないオルスロンだった。


そんなオルスロンを見て、『素直じゃないな』と思うリアン。

3人の心強い仲間を得て、キールが口を開く。


「さて、そうと決まればやることは1つだな。」

「何です?キールさん?」

「反則魔法だよ。リアンくん。」

「反則魔法…まさか…!」


リアンは、キールが何の魔法を使おうとしているか察しがついた。


「そのまさかさ。ずっと使わず取っておいたこの魔法を使う時が来たな。」

「とうとう使ってしまうんですね。」

「もちろんだ。この魔法を使わなければ、わたしの旅は再会できない。


………反則魔法『蘇生』発動!ザガーロに殺された人間を蘇らせろ!」


キールの魔力が町を包み込む。膨大な魔力が住民達の亡骸に注ぎ込まれる。

次の瞬間、住民達の身体がみるみる修復されていく。傷は塞がり、骨はくっつき、血液は流れ、心臓が動き出す。


キールは続けて魔法を発動させる。


「反則魔法『復元』発動!」

爆風で吹き飛んだ家が元の状態に戻っていく。ひび割れた道路は亀裂が塞がり、折れた柵や街灯も元通りになっていく。

キールの魔法で町全体が元の状態に戻っていく。


「すげぇ…これが反則魔法。本当に反則だろ。」

オルスロンが眼の前の信じられないような光景に思わず声を漏らす。


町はものの数分で、爆風で吹き飛ばされる前の状態に戻った。

修復が終わると同時にキールの姿が見えなくなっていた。


「あれっ…キールさんがいない!」

3人の前からキールの姿が消えた。銀髪の少女の姿もない。


「キールなら大丈夫だ。銀髪の少女と共に、西の家屋の方にいる。」

アントーンは感知魔法でキールの場所が分かったため、それをリアンに伝える。


リアンは、キールの行動を察して、それ以上は何も言わなかった。



キールはシルネの家に来ていた。まだ目を覚まさないシルネをお姫様抱っこで寝室へ運ぶ。

シルネをベッドに降ろし、キールは立ち去ろうとした。


その時後ろからシルネの声がした。シルネは目を覚ましたのだ。


「キールさんありがとう。またいつでも来てね。」


キールは振り返り、「また来るよ。次はわたしがご飯をご馳走しよう。」と言い、シルネの家を出た。


リトナミに逃げ、ほとぼりが冷めたら、必ずまたここに来よう。キールは心のなかで固く誓った。


また1つ生きる目的ができたな。


そんなことを思い、リアン達のもとに戻っていく。


そのままヒデオタークを後にし、さらに東に進んでいく。

ヒデオタークから20kmほど進んだところが国境だ。一行は国境を越え、隣接国であるキャクシバフ王国へと入っていく。


キャクシバフ王国は、サンカエル王国と同じ規模の国で、サンカエルとは同盟を結んでいる。

キャクシバフはサンカエルと違い、軍を所有していない。

キャクシバフは資源が豊富な国で、それを同盟国のサンカエルへ供給している。代わりにサンカエルは軍事力を提供し、補い合っている。

キャクシバフには最低限の軍は配備されているが、国将や次将レベルの者はいないため、キャクシバフの兵に襲われることはまずないし、襲われてもキール達にとっては脅威ではない。

脅威となるのは、やはりサンカエルの国将や次将達である。


キール一行は、キャクシバフ王国のアオという町に入る。ここはサンカエルから来る観光客向けの町となっており、飲食店や宿泊施設で賑わっている。

そんな町の様子にやや観光気分になるオルスロン。


「あの食べ物なんだろ?ちょっと見てきていいか?」

「ダメだよ、人が多いし迷子になっちゃうよ。それに早く次の町に行きたいし…」

「いいんじゃないか、リアンくん。我々はずっと歩き通しだし、腹ごしらえも必要だろう?わたしもあの店の『激辛マムシ飯』というのが気になる。」


激辛!?マムシ!?キールさん…前から食べ物の嗜好がおかしいと思ってたけど、これはついていけそうにないな…


キールもオルスロンも各々食べたい物がある方向に進んでいく。


「みんな待ってよ!はぐれちゃうよ!」人波に消えていくキールとオルスロンに向かって叫ぶ。


するとそれに答えるかのように遠くからキールの叫ぶ声が聞こえる。


「リアンくん、大丈夫だ!我々には感知魔法がある。感知魔法のスペシャリストもいるしな。それに君の『飲み会幹事魔法』もある。なんとかなるさ!」


そう聞こえた後、キールもオルスロンも完全に見えなくなった。


「行っちゃった…」

「君も大変だな。」

「分かってくれるのはアントーンさんだけですよ。」


その後、一行は近くの宿に集合し食事をとる。


キールは激辛マムシ飯を買ってご満悦だった。

オルスロンも見たことがない料理を買ってきた。オルスロンが持ってきた茶色いチョコレートのような物体は、グルメリウスという牛のような生き物の糞らしい。オルスロンは糞を食べていた。

アントーンとリアンは宿で出される料理を食べる。


「これからもひたすら東に向かうんだよな?リアン。」糞を食べながらオルスロンが話す。

「そうだね。特に迂回する必要とかもないから東に一直線に進む感じになるね。」

「オッサン、敵は追ってきてるか?」

「そうだな。詳しい位置までは分からないが、ゆっくりとこちらに近づいてる奴がいる。恐らく国将レベルだ。」

「……ネイシャルアーツかな?」


マムシを食べているキールが確信したように答える。激辛らしいが、辛そうな素振りは見せない。


「よくわかったな。ネイシャルだ。それと、遅れて誰かがサンカエルを出発した。多分俺達を追うためだと思うが、距離が遠いから誰だかはまだ分からない。強い魔力を感じるとしか今は言えない。」


「ネイシャルアーツさんは強いんですか?」とリアンが疑問をぶつける。

「ネイシャルアーツは最年少で国将になった実力者だよ。刀を使う魔女で、固有魔法は『睡眠魔法』というのを使う。」

「『睡眠魔法』?相手を眠らせる魔法ですか!?強そうですね…!」

「いや、眠るのはネイシャル自身だよ。」

「えっ?」


言ってる意味が分からず、間の抜けた声が出るリアン。


「自分が眠って…どうやって戦うんですか?」

「ネイシャルは居合の達人なんだ。寝ている間に魔力を溜め、起きた瞬間に斬りかかる。睡眠により得られる魔力は膨大らしく、その魔力を抜刀時のスピードと攻撃に配分している。彼女の寝起きの抜刀速度はわたしでも追えない。だから迂闊にネイシャルの間合いには入らないことだね。」

「普段から『睡眠魔法』を発動していて、1日のうち20時間くらいは寝ているらしい。だから奴は常に戦闘態勢なんだ。寝ている時が一番怖い。」と、アントーンが補足する。


「あと、ネイシャルは鼻と耳がいい。だから寝ていても匂いと音で敵の位置を常に把握してるんだ。」


そして、思い出したかのようにキールも補足する。


「それと、昔ネイシャルとわたしはいろいろあってね。ネイシャルはわたしのことを非常に恨んでいる。恐らくこの処刑命令で一番モチベーションが高いのはあの子だよ。」


「間違いないな。」アントーンも同意する。


「いろいろって何すか…面倒なのに追われちゃいましたね。」

「とりあえずネイシャルはわたしが相手をする。ネイシャルもわたししか狙わないだろうしね。あとはゴーマとサガラか。」

「サガラは戦地に残ったと聞いたぞ。だから今回のネイシャルのお付きはゴーマだ。」

「ゴーマか。奴の魔法はわたしもよく知らないんだ。戦場でもネイシャルの荷物持ちという印象しかないね。」

「だが奴は次将だ。何かしら優れた能力があるんだろ。」


国将トークについていけなくなったリアンとオルスロンは食事のほうに集中していた。


リアンは自分に何かできないだろうかと必死に考えた。次はキールの足手まといにならないように…



〜時は1日遡り〜


天星城にて…


血まみれで左顔面が膨れているホークスはノリエガに会うため、城の中を歩いていた。


ノリエガは軍議室で他の次将達と共にいた。


軍議室に入るとノリエガの前に行き、ホークスは自身の失態の謝罪をした。


「ノリエガ樣大変申し訳ありませんでした。リアンを取り逃がしてしまいました。恐らく奴はアントーンと共にリオサ森林地帯の方へと向かったと思われます。」

「…………。」ノリエガは何も答えない。

「どうか、わたしに挽回の機会をお与えください。今より奴らを追い、キールとアントーンとリアンを殺して参ります…!」

「…………、殺すぞ。ホークス。」


その瞬間、部屋の中は刺すような殺気に包まれた。

体中がまるで剣で切り刻まれたような錯覚を覚える。

他の次将達もノリエガの殺気にあてられ、痛みで顔が一瞬だけ歪む。ノリエガは言葉を続ける。


「アントーンに魔法を解除され、保管していた人と魔法武具の一部が外に出てしまったと聞いている。Cの番号の部屋は無事か?」

「…はい。Cの部屋だけは誰一人出しておりません。」

「そうか、ならよい。国王様の悲願である『千人魔法』には貴様の魔法が必要不可欠だ。今後は勝手なことをするな。」


胸部に剣で刺されたような痛みが走る。痛みの感覚はノリエガの殺気であり、実際は何も刺さっていない。


ノリエガは部下達をジロッと見て命令する。

「ホークスの代わりにお前が東へ向え。ペーラ。」


ペーラと呼ばれた長身の色黒の男は、ノリエガに異議を申し立てる。


「ノリエガ様〜、オイラ1人じゃ国将二人に勝てないよ。せめてもうひとり付けてくださいよ。」

「安心しろ。ネイシャルアーツも東に向かっている。ネイシャルの次将と合わせれば3人…いや、4人か。」

「それってオイラの『誕生魔法』込みでカウントしてるじゃないですか!でもまあ、それなら何とか勝てるかもしれません。俺と“ゾラゾ”の二人ならね。」


ペーラは、保管魔法によって武器を多く所有するホークスにお願いする。


「ホークス、武器をいくつか借りてくぞ。魔法武具じゃなくてもいいからな。オイラ使いこなせないから。」

「…分かった。」


「ペーラ、こちらも準備が整ったら、キールを処刑しに向かう。それまではネイシャルアーツと足止めをしていろ。」

「分かりやした。」

「それとネイシャルも曲者だから気をつけろ。気を抜いてるとお前が斬られるぞ。」

「分かりやした…。」


ノリエガ軍の次将ペーラ、そして国将ネイシャルアーツがキール達に迫る。


キャクシバフ王国で今まさに死闘が始まろうとしている…!


続く


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