第3話 反則魔法と伝達魔法
キールとリアンはキールの家を出発すると、人目につかない路地や森を通りながら、ひたすら東へ進む。顔が見えないようにフード付きのマントを羽織り、最小限の荷物だけを持ち、人が多い町を避けて移動する。
歩きながら、キールがリアンに話しかける。
「今更なんだが、リアンくん。君はなんでわたしを助けるためにここまでしてくれるんだい?平穏に生きてきた君がわたしのせいで一夜にして犯罪者になってしまったね。」
リアンにとってキールを助けることは、何一つメリットはない。自分の人生を棒に振り、犯罪者が逃げることに協力しているのだ。もう帰る場所もなく、捕まればキールと共に処刑されてしまう。それなのに、なぜリアンはキールが逃げることにここまで協力的なのか、不思議でならなかった。
「そうですね。勢いで『逃げましょう!』って言ってしまったところもあるのですが、やっぱり自分の知ってる人に死んでほしくないというのが一番の理由でしょうか。特にキールさんは大事な同僚です。僕の唯一の同期ですし。」
キールとリアンは5年前にミアーネ魔法学校に新米教師として着任した。学生から社会人として学校に就職したリアンに対し、軍人から教師に転職してきたキールの存在は周りから浮いており、職場で話しかける者はリアン以外にいなかった。
サンカエル王国の最高戦力である国将といことで周りが気を使っていたのに加え、キールの性格もやや高圧的であるというところもあり、魔法学校の他の教師達の中には嫌っている者もいた。
対してリアンは誰に対しても優しく気さくに話しかける性格で、職場や町のみんなから好かれる存在だった。出会った当初は冷たい態度を取っていたキールも、リアンが積極的にコミュニケーションを取っていたため、徐々に心を開いてくようになっていった。とは言っても、リアンのことをいじりがいのあるオモチャくらいにしか思っていないかもしれないが…。
「自分に協力してくれている人間にこんなことを言うのは失礼だと分かっているが、本当に君は変わっているね。だが、感謝しているよ。」
キールの感謝の言葉に胸が踊るリアン。
「……キールさん、気にしないで下さい。必ず逃げ切って生き残りましょう!僕達が今向かっているリトナミ国は、他国からの移民を積極的に受け入れている国で、サンカエル王国とも交流がほとんど無いみたいなので、亡命してもバレにくいかと思います。」
「リトナミか。始めて行くから楽しみだよ。」
「ちなみに…質問なんですが、キールさんの反則魔法(はんそくまほう)でこの状況どうにかなったりします?一瞬でリトナミまで移動するとか?」
今更ながら名案を思いついたので、キールに尋ねてみる。キールとの付き合いは5年になるが、キールの固有魔法(こゆうまほう)である反則魔法についてはよく分かってないところがある。リアンの認識では、『何でもできる万能な魔法』というイメージだ。魔法学校にいた頃は反則魔法を一度も見たことがなかった。
キールは少し申し訳なさそうな顔で答えた。
「瞬間移動かい?前はできたけど、今はできないよ。」
「そうなんですか!?ちなみに、なぜ今はできないんですか?」
「すでに使ってしまったから。」
「……?使ったから使えない?」
リアンは理解できてない様子だ。
「わたしの固有魔法の『反則魔法』は、どんな魔法も使うことができる。どんな魔法でもだよ。例えば、過去にタイムスリップしたり、他人を洗脳したり、大災害を起こしたり、思いつくことなら何でもだよ。」
想像以上の凄さにリアンは言葉を失う。
何でもありなら、こんな苦労しなくていいじゃないか。内心そう思っていると、キールが話を続けた。
「ただし、同じ魔法は二度使えない。君がさっき提案した瞬間移動だが、戦場にいた頃に使ってしまったよ。7年前スイタ国との戦いの中で、わたしがスイタ国を攻め込んでいる時に、自国のサンカエルが奇襲されてしまったんだ。その時は、ほとんどの兵がサンカエルを離れていたので、国王の命が危なかったんだ。だから、早急に自国へ帰還し国王を救うために、瞬間移動の魔法を使った。国王の奴め、あの時救わなければよかったよ。」
キールが当時のことを思い出し、かすかにイラついているように見えた。
リアンはそれを聞き、さらに提案してみる。
「ちなみに、その使用済みの魔法は『サンカエルへ瞬間移動する魔法』という認識にはできないですか?今から使うのは『リトナミ王国へ瞬間移動する魔法』だから同じ魔法ではない…というのはダメですか?」
「ダメだね。確かに目的地は違うが、『瞬間移動』というキーワードで認識されてしまうらしい。わたしもいろいろ試したが、瞬間移動系の魔法はその後全く使うことはできなかった。あの国王のせいでな。」
「わたしもまだ自分の魔法を完全に理解していないが、全く同じ魔法だけが使えなくなるのではなく、類似する魔法も使えなくなってしまうらしい。ちなみに、過去に戻って国王の息子に暴行するのを無しにしたり、洗脳して罪を取り下げることもできない。それらに類する魔法も既に使ってしまったからね。」
「便利な魔法に見えて、なかなかデメリットが大きいですね。」
「万能な魔法でなくて申し訳ないね。一応、生き返りの魔法はまだ使ってないから、いつでも死んでかまわないよ、リアンくん。一度だけなら復活させてあげられるから。」
「いやいや!縁起でもないこと言わないでくださいよ!死ぬ予定はありませんから!でも…そうなると、誰かに襲われた時に我々では戦えませんね。僕の魔法も戦闘では役にたたないので…。」
「ちなみに、戦闘に使える魔法も少し残してあるから、戦えなくはないよ。」
それを聞いてリアンは一安心した。これからの道のり、戦う機会は必ずある。そうなった場合、ほとんどキール頼みになってしまうからだ。
そして、キールが思い出したかのようにリアンに言った。意地悪な笑顔を浮かべながら。
「そう言えば…君の固有魔法ってあれだろ?『飲み会幹事魔法』。」
すかさず反論するリアン「いや違いますって!『伝達魔法(でんたつまほう)』です!」
伝達魔法とは、離れた相手にコンタクトをとる魔法である。リアンの魔法であれば、世界中の人間とリアンの魔力を介して通話することができる。ただし、通話はリアン側からしか呼びかけられないことや、相手側はリアンからのコンタクトを拒否することができる等の使い勝手の悪い面もある。
ちなみに、リアンは職場の同僚や友人と飲み会をする際にこの魔法を使って幹事として連絡をしており、そのせいでキールから伝達魔法をイジられている。
キールが戦えると知り一安心したが、それでも戦力に不安が残るため、キールに増員の相談をした。
「まだサンカエルにいる内に、仲間を募るのはどうでしょう?戦闘要因がもう一人欲しい気がします。僕の知り合いにこの逃亡に協力してくれそうな人がいます。」
「本当かい?まあ、君の知り合いならそういった変わった者もいるだろうな。」
「そいつも過去に国王軍から命を狙われていたんですが、戦争が激化して兵力をあまり割けなかったことと、そいつがあまりにも強すぎということで、王国側はそいつの処刑を諦めたんです。で、今はサンカエルのミアーネ工務店というところで大工として働いてます。協力してくれるかは分かりませんが、僕らの情報を王国に流したりはしないと思いますので、相談してみる価値はあります。」
「なるほど。王国から命を狙われていたなら、多少の恨みはあるはずだから協力してくれるかもしれないね。ちなみに、戦闘要因として協力を煽ぐというからには強いんだろうね?」
「強いですよ。そいつ『魔人』ですから。」
「『魔人オルスロン』、僕の友達で大工で魔人です。」
続く
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