第46話 監視する瞳

 ◆◇◆


 ベッドに入り電気を消しても、なかなか寝付く事ができない。

 それは会社勤めを始めた頃からずっとである。

 今日やり残した事はなかったか、明日は何をすればいいのか、今の自分に足りていないのはなんなのか――そんな事が頭を巡り、思考のスイッチがオフにならない。その所為でうまく眠れない。


 が、今寝付けない理由は少し違う。

 とにかく、ずっと不安なのだ。


 自分が社会の歯車から外れてしまったような気がして。こうしている間に置いて行かれ、忘れ去られてしまう気がして。


 そんな不安から気を逸らすのに、SNSは丁度良かった。無数のアカウントが好き勝手にしゃべり散らかすタイムラインを見ていると、色々と考えなくて済むからだ。


 そうして延々、スクロールを繰り返す。社会問題、世界情勢、料理のレシピ、若者の自撮り、罵詈雑言、ペット自慢――そんなものを延々と。


 そして流れて来た一つの動画を、何の気なしにタップする。そして数秒後、大きく目を見開いた。そこに映っていたものに余りにも驚いて。


「なんだコレ……こいつ、何して……」


 思わずそんな呟きが漏れる。それから自分が酷くショックを受けている事に気付き。その後にやってきたのは、どうしようもない憤りだ。


――なんだコレ。

――なんだコレは。

――自分がこんなにも不安な時に、コイツは何をやっている……?


 画面の中では、見知った男が大勢の若者に囲まれて、楽し気に踊っていた。その姿と、惨めにベッドで臥せっている自らの対比が、痛烈に胃壁を焼く。


 一体何故こんな事が起きているのか。

 こいつは俺と一緒に苦しんでいるべきだろう?

 それなのに、何故こんなにも楽しそうに……


 そう考えると、怒りに一気に火が点いた。


 許せない。赦せない。


 その怒りは一気に加速し、思考の全てを埋め尽くした。

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