第40話 公園でのバトル
即席バトルの会場に選ばれたのは、新宿の裏通りにあるこじんまりとした公園だ。あまり人目に付くような場所ではないが、近くに専門学校がある為か、街灯の灯りの元、其処此処に若者がたむろしている。
「つぅか……俺途中から全然記憶がねぇんだけど、どういうわけでこの展開なの?」
ようやく意識を回復した春親は、何故自分が公園にいるのかも、何故拓実と猿渡がバトルをするのかもわからずに、しきりに首を傾げていた。
「ねぇキヨ、マジで何がどうなってんの? つか、なんで俺じゃなくてタックなの?」
この問いに、拓実もストレッチに勤しみつつ「そうだそうだ」と頷いた。
本来、猿渡がライバル視していたのは春親なのだし、猿渡にキレたのも春親だ。だったら猿渡とのバトルに相応しいのは春親だろうに……なんとか話がそういう流れになりはしないかと、拓実は一縷の望みを掛けるが。
「まぁ確かに、強引な展開だったのは認めるけどな。でもお前、あのままタックが馬鹿にされてんの悔しくね?」
「え、悔しい」
「んで、お前だってタックのバトル見たくねぇ?」
「え、見たい」
あっさり話はまとまって、春親は拓実に向けて「ふぁいと!」と親指を立ててきた。そのご機嫌な顔たるや。猿渡に抱いていた激しい怒りも、拓実のバトルが見られるとあってすっかり吹き飛んでしまったようだ。
――って、二人とも簡単に言うけどな……
拓実は重たく溜息を吐く。確かにダンススキルは着実に戻ってきている、が、心の準備もないままにバトルだなんて……清史と春親、そして少し離れた場所でやる気満々にストレッチをしている猿渡が恨めしくなってくる。
だが、こうなったら前を向くより他にはなかった。ここまで来て「やっぱりやめよう」なんて、聞き入れてもらえるわけがない。それに実は拓実自身、自分には実戦経験が必要だと思っていたのだ。
だってブランク明けにぶっつけで大会に臨むのは無謀過ぎる。緊張で動けなくなる可能性が大いにあるのだ。しかも決勝戦、大きな会場、アワジの目まである、そんなプレッシャーの掛かった舞台なら猶更だ。練習でできていた事がステージ上でできなくなるのは実によくある話である。
事実、拓実は今、結構な緊張状態だ。春親と清史以外の前で踊るのだと思うと、心臓がバクバクとして落ち着かない。もし下手くそだと笑われたら……それ以前に、頭が真っ白になって振りが出てこないかも……そんな不安が渦を巻き、心拍数が上がってくる。
かつて「絶対王者」だった自分は、どうやってこの緊張をやり過ごしていたんだろう。過去の己が、今では見知らぬ他人のように遠く感じる――って、だからこそこれは貴重な機会なのだ。
バトルとは一体どういうものだったか。
どうやって戦えば良いのだったか。
その感覚をこの一戦で取り戻し、ダンスジャンクの本番に備えるのだ。
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