第33話 憎めない後輩
「あれ? 砂川さんちょっと体型変わりました?」
「っ! そ、そうか⁉」
午前の配達から戻り車を降りると、同じタイミングで戻って来たらしい沢田に言われ、拓実はパッと表情を明るくした。
「実は自分でもそうかなって思ってたんだ……え、沢田からもそう見えるか?」
「見えるッス見えるッス! なんか筋肉ついた感じスよね! いやー前までは歳の割にくたびれて見えたけど、今はちょっといい感じッスよ!」
「ってお前……褒めてくれるのは嬉しいけど、先輩相手にくたびれてるとか言うのはなぁ……」
そう注意しようとするのだが、しかしどうにも厳しい顔ができなかった。努力の成果に気付いてもらえたのが嬉しくて、つい顔が緩んでしまう。拓実が怒らないのをいい事に、沢田はのびのび話し続ける。
「それに最近、砂川さんよく食べるようになりましたよね。前まではダイエットしてんのかなってくらい小食だったのに。やっぱり狩谷さんが不在の分、気が楽になってるとか?」
「おい、馬鹿な事言うな。そうじゃなくて、ただちょっと生活に変化があったから。そのお陰で食べれるようになったってだけだよ」
そう、これもダンスの影響か、最近の拓実は健康的だ。胃が痛む事がない為に、前よりも食欲が旺盛なのだ。そうすると顔色も良くなるし、なんだか寝起きもすっきりしている。筋肉もつき、心なしか背筋も伸び、少し前までの自分とは別人のようになってきた。
――というか……元気って、今みたいな状態の事だったよな。
しみじみと、そう思う。拓実はずっと明るく元気に振舞っているつもりだった。特に職場では暗い顔をしないようにと心掛けて。だが今になって振り返れば、それが空元気だったとよくわかる。どれだけ笑顔を作っても、全く覇気がなかったのだから。そりゃくたびれてると言われたって仕方がない。
「まぁーなんにせよ、元気ならいいッスわ! やっぱ人間、健康なのが一番ッスから!」
「うわ、痛い、痛いって!」
沢田がバンバン背中を叩いてくるので、その力強さに拓実は思わず悲鳴を上げた。
全くこの後輩は、目上の人間相手でもコミュニケーションが無遠慮だから困りものだ。この馴れ馴れしく軽い態度が、狩谷には大変受けが悪い。教育を任される立場として、拓実も頭が痛いのだが……
しかし実のところ、拓実は彼の事が嫌いじゃなかった。こうして何気ない事に気が付いて声を掛けてくれるというのは、先輩からすると嬉しいものだ。基本的には後輩達と礼節を守って接しようと考えている拓実だが、沢田は入社当初からこの感じの為、こちらもついフランクになる。そりゃ上司や先輩を立てようとしないのは問題だが、それでもこの愛嬌は大きな魅力だ。
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