第三章 いざバトルへ

第31話 プレッシャーと戦いつつ

『で? 今日はどんな感じだ。問題は起きてねぇか? 誰か弛んだ態度取ったりしてねぇだろうな?』

 電話越しでも、頭を押さえ付けられるかのような圧のある声。聞いている内、思わず首が竦んでしまう。

 通話相手は言わずもがな狩谷だ。現在入院中にも関わらず彼は仕事熱心で、毎日こうして業務の様子を把握せんと電話を掛けてくるのである。


「はい、今日も特に問題はなく……あ、いえ、注文数についてはまだ目標には……はい、申し訳ありません……引き続き営業を積極的に……」

 拓実は頭を下げつつ応対する。班長代理ともなると求められる事がぐんと増え、狩谷の指導も厳しくなった。特に今は一般の業績を追い抜けるかどうかという時期の為、狩谷は「あれはできてるか」「これはどうなってる」と細かく確認を繰り返した。そして最後には。


『いいか、今は一分一秒が勝負だと思えよ。二班がトップに立つチャンスなんて滅多にねぇんだ。下の奴らはどうせ期待できねぇから、お前がやるんだぞ砂川! これで半端な仕事なんてしてみろ、結果が出なかったら承知しねぇからな!』


 最早喝というよりも恫喝のような文言を吐いて電話を切る。ツーツーと鳴る受話器を戻すと、拓実はぐぅと呻いて突っ伏した。狩谷の電話を受けた後には毎度こうだ。



 狩谷が不在となって十日程。後輩達の思わぬ活躍のお陰で、想定していたより仕事に支障は出ていない。が、それでも拓実に掛かるプレッシャーは大きかった。一班の業績を追い抜けなかったら、狩谷からどれ程ドヤされる事になるのか……

 まさかクビにはならないだろうが、それでも彼が不機嫌になるのは間違いない。もしかしたら、あの“暗黒の一週間”以上の惨事になるかもしれない。考えると、初夏だというのに寒気がする。


――でも、縮こまってる暇はないな……


 拓実は己に言い聞かせると、気持ちを切り替え頭を上げた。ダンス練習の為に定時上がりの日を設けている分、時間は無駄にできないのだ。色々考えているよりも、手を動かし続けなければ。

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