第18話 諦めるにはまだ早い

『――いや、無茶言うなよ。利用客の連絡先なんて教えられるわけねぇだろうが』


 仕事を終えて会社を出るなり、拓実は昨日のスタジオに電話を掛けた。受付のブルと呼ばれている男は、かつてのダンス仲間である。


 知り合い特権でなんとかあの二人の連絡先を聞き出せないかと思ったのだが、取り付く島もなく断られてしまった。いや当然だ。考えればわかる事だが、個人情報の横流しなんて許されるはずがない。


「あっ、でもお前から彼らに連絡するのはアリなんじゃないか⁉ 〝タック〟が連絡取りたがってるって、俺の連絡先教えてもらって……」

『なんで俺がそんな面倒な事しなきゃなんねぇんだよ。お断りだ』


 ブルは素っ気無く言うと容赦なく通話を切った。終話画面を映すスマホを拓実は愕然として見詰める。全く、なんと友達甲斐のない奴だろう!


 だが食い下がってもきっと無駄だ。ブルは極端な面倒くさがりで、更に昨日拓実のせいで清史に羽交い絞めにされた事を怒っているのだ。それなのに頼みなんて聞いてくれるはずもない。


「でも……じゃぁ、どうしよう……」


 拓実はとぼとぼと駅へ歩き出しながら弱く零す。が、どうしようも何も、どうしようもなかった。頼みの綱だったブルに断られてしまえば万事休すだ。あの二人に連絡を取る手段はない。大会への参加は諦めるより仕方がない。そう己を納得させようとしたが――……いや。


 拓実は今一度、頭をフルに回転させる。


 だってこれは、人生できっと最後のチャンスである。自分でも参加できるような希有な大会が開催され、そのタイミングで狩谷が不在になるなんて、二度目があるとは思えない。


 拓実は必死に考える。何か彼らとコンタクトを取る手段はないかと、あらゆる方法を脳内に並べ立て……やがて有効だと思えるものが閃いた。


――そうだ、その手なら可能性があるかもしれない……!


 思うが早いか、拓実は駅に向かって勢いよく駆け出そうとし、だがズキリと膝が痛んで立ち止まった。


――嗚呼そうだ、無茶なダッシュは厳禁だった……!


 膝を摩り、拓実は自分に呆れ返る。そんな事すら忘れる程、前のめりになっているとは。


 だが結局は、そんな自分を許してやる。

 というか今は、兎にも角にも急がねばならないのだ。

 そうして拓実は膝の許す限りの全速力で、駅への道を駆け始めた。


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