第12話 語り合う夜
その日は野宿で夜を過ごすことにした。
偶然発見した洞穴で、適当に集めた枝や葉に、炎系の魔法で火を灯す。
「フユリンさんはどうして悪役令嬢を恨んでいるんですか?」
「いろいろあったから」
「そうですか〜。はぁ、私はいつ悪役令嬢に戻れるのでしょう。一秒でも早く戻らないと」
「諦めて普通の令嬢として過ごせばいいだろう。人間、身の丈にあった生活をするのが一番だ」
「そういうわけにもいかないんですよぉ。ほら私って、いろいろ背負うものがあるじゃないですかぁ?」
「……」
知らんが。
「悪役令嬢に戻れば家族も安心して、勘当を解いてくれるはずです。あ〜あ、神様が私の可愛さにメロメロになって、願いを叶えてくれないかなあ」
ついには神頼みか。
「マリアンヌ様に会いたがっていましたよね? 協会の本部とか行ったんですか?」
「もちろん。あいつがいそうな場所にはとっくに行っている。だがいなかった。あいつは常に世界中を渡っているんだ。どこかへ移動するときは、まったく痕跡を残さない。用心深いやつだ」
じゃなきゃ、いちいちあいつの居場所を聞いたりなぞしない。
「いっそ、マリアンヌ様がゴブリンになったら、代わりに私が悪役令嬢協会会長になるってのはどうですかぁ!? 我ながらナイスアイデアです!!」
「確かに」
「おぉ!! 珍しく私に同意してくれましたねぇ!!」
「お前が会長なら、協会もすぐに崩壊するだろ?」
「ムキーーッッ!! これだからフユリンさんって人はぁ!!」
バッグから干し肉を取り出し、半分に引き千切ってラミュに渡す。
空腹で騒がれても困るからな。
「ありがとうございますぅ。そういえば、私たちはいまどこに向かっているんですか?」
「もう二つほど山岳地帯を抜けると、魔法学校がある」
「おぉ〜!! まさかポイジョイ魔法学校ですかぁ? この国随一の魔法学校ですよね。私も入ろうとしました」
「しました?」
「落ちました」
「だろうな」
「そこに悪役令嬢がいるんですね」
「そういうことだ。とりあえずそいつを潰すのが当面の目標になる」
悪役令嬢の名は、フェイト・ハノーナ。
六年制の学校の、四年生。一六歳。
魔法の才能はイマイチだが、権力を振りかざして気に入らないものをイジメたり、金で学校のルールを捻じ曲げまくっているらしい。
つまり、悪役令嬢らしい性悪女というわけだ。
「私はあと何人、そんな女をゴブリンにすればいいのやら」
「悪役令嬢にも良い人がいたらいいですけどね、私みたいに」
「……そうだな」
面倒くさいので同意しておく。
「そんな人がいても、ゴブリンにするんですか? 何か事情があって悪役令嬢になった人だっているかもしれませんよ?」
「そいつを見て判断する」
「ちなみに私だったら?」
「五、六発殴ってからゴブリンにする」
「ひん!!」
明日は早い。
火を消して、横になる。
「魔法学校を過ぎたら、次は?」
「そうだな……そのまま西へ向かって、海の方へ行こうか」
「……」
「どうしてそんなことを聞く」
「いえ、別に」
「そういえば、お前の実家はどこにある」
「……」
「なぜお前の家族は、協会を追放されたぐらいでお前を勘当したのだ。悪役令嬢でなきゃいけない理由でもあるのか?」
「……」
「おい」
「ぐーぐー。すぴー」
まったく。
考えてみると、私はこいつのことをあまり知らない。
どんな家なのか。家族構成は?
悪役令嬢になって、それからどうするつもりなのか。
何も知らない。
こちらも過去を語らないのだし、お互い様だが。
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※あとがき
次回からぐーっと話が進む予定です。
たぶん。
おそらく。
メイビー。
応援よろしくお願いします。
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