第6話 はじめての夜

 メルシュを潰したあと、私は小さな街を訪れて、そのまま宿を取ることにした。

 私だって女。できれば野宿はしたくない。


 受付で相応の硬貨を出す。


「一人部屋で」


「えぇ!! 私はぁ!?」


 ラミュが吠えてきた。


「知らん。自分で部屋を取れ」


「しょんな……。私、お金ないですぅ」


 受付の男が告げる。

 二人でも一部屋なら料金は一緒らしい。


「はぁ、しょうがないな」


「やった〜〜っ!! ありがとうございますっ!! ははは〜、っぱり、っぱりそうなんですねぇ、薄々感じてたんですよぉ、フユリンさんは私のこと好きすぎるって♡」


「ただし、ベッドは私。お前は床だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結局同じベッドで眠ることになってしまった。

 だって、寝づらそうだったから。

 まったくシングルサイズだから狭くてしょうがない。 


「フユリンさんの魔法って凄いですよねぇ。あんな強い魔法をバンバンバンバン。魔法の天才なんですねぇ」


「いいや。ただ魔女と契約しただけさ」


「魔女!? あの世界に六人しかいないとされている、魔法の天才たちですか!?」


 浮浪者や捨てられた子供などが集まる貧民街、ダスト地区。

 親戚にも見放された私はそこで暮らし、魔女に出会った。

 三〇代前半くらいの美貌であった。


「ど、どんな契約を?」


「悪役令嬢とその協力者に対し、私は最強になれる。代償としてまず、私は笑顔を失った」


「え」


「楽しいとか、笑うということができなくなった。どのみち、楽しくも笑えもしない人生だし、構わなかったが」


「こちょこちょこちょこちょ!! くすぐり攻撃〜!!」


「…………ろすぞ」


「ごめんなさい」


 話す気がなくなったな。

 契約の代償は、もうひとつある。


 パニッシュメント系魔法を使うたび、私は寿命が縮む。

 魔法にもよるが、バインドなら半日、メタモルフォーゼなら一週間程度の寿命が縮む。


 そもそも、自分があとどれくらい生きられるかなんて知らないのだが。


「なんで魔女さんは、フユリンさんと契約してくれたんですか? 肩を揉んであげたとか?」


「さあな。ただ私が会った魔女も、悪役令嬢協会に対し思うところがあるらしい」


「ふーん」


 そういえば、魔女はこんなことを呟いていた。

 『私はつくられたままでいいのに』と。

 意味はわからない。創られたとは、何を差している言葉なのかも不明だ。


「もう寝ろ」


「は〜い」


 目を閉じて、心を無にしていく。

 全身が沈んでいくようなイメージで、力を抜いていく。


 もう少しで眠れる。その予兆を感じた直後、私はハッと起き上がって扉の方へ逃げた。


 小窓から、ガラスをぶち破って何かが投げ込まれた。

 黒く、丸い……。


「爆弾!?」


 黒い物体が破裂した。


「ラミュ!!」


「うぎゃああああ!!!! 死ぬうううう!!!! 死んだああああッッ!!!! 私、死にました!! 死んじゃいましたあぁぁぁん!! お葬式は盛大にやってください!!!! 楽団とか呼んでッッ!!」


 無事らしい。


 しかし何事だ。

 まさかどこかの悪役令嬢からの追手や刺客か。

 たまにいるのだ、そういうの。


 爆破の煙が晴れる。

 窓から、誰かが入ってきた。

 一応ここは二階なのだが。


「生きているみたいね」


 長い金髪の女だった。

 白いマントにミニスカートの、強気な顔つきの女。


「ようやく、見つけたわ」


 ラミュが咳払いをする。


「うー、ケホケホ。何者か知りませんけど、フユリンさんを捕まえようなんて無駄ですよ。返り討ちです」


「ようやく見つけたわ、ラミュ・メチャカワイイ!!」


「って私ですかー!?」





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※あとがき


めちゃ可愛いですね。

最初ラミュは内気で大人しい性格にする予定でしたが、フユリンとの会話が続かなさすぎるのでこうなっちゃいました。


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