第4話 メルシュ② フユリンには関係ない

※まえがき

一人称に戻ります。


三人称でゲストキャラを紹介し、フユリンの一人称で倒す、そういうスタイルです。



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 思いの外簡単にメルシュまでたどり着けた。

 ラミュとシャイニーを除いて、この学校にいる悪役令嬢はこいつだけ。


 メルシュが目を細めた。

 まるで汚物を目にして顔をしかめるように。


「小汚い。あなた誰? 警備兵はなにをしていたのかしら。……ん、そこにいるのは、ラミュさんかしら? シャイニーが街から追い出しにいったはずだけど」


「うぐっ!! ほらフユリンさん、脅してください。私を悪役令嬢に戻せーって」


 するわけないだろ。

 お前のために喉の潤いを1%でも下げる気はない。


「シャイニーとやらは私が潰した。人生をな。次はお前だ」


「まったく、庶民ってどうしてこう頭の悪い人ばかりなのかしら。私が悪役令嬢だとご存知でないの?」


 メルシュの視線が下半身裸の男たちへ向けられる。

 捕えろ、という合図だ。

 男たちはお互い顔を見合わせると、逃げていった。


「情けないやつら。アレでも男なのかしら。……いいわ、不審者さん。私をどうしたいの? 誘拐? 脅迫? やってごらんなさい」


「じゃあーー」


「私を捉えることができるのなら、だけど。ふふ、久々に悪役令嬢拳法をーー」


「おらっ!!」


「うぎゃ!!」


 簡単に殴れた。

 何なのだろう、悪役令嬢拳法って。


「まだ私の話が途中だったのに!! これだから下賤な者は!!」


「甘やかされて育ち過ぎだな。みんながお前に合わせて生きているわけじゃない」


「殺す!! 万死に値するわ!! 私の権威の恐ろしさを知るがいい、召喚魔法!!」


 彼女の周囲に無数の魔法陣が出現する。

 そこから鎧を身に纏った騎士や、金の掛かった服を着た男子、女子が召喚された。

 みんな、突然召喚されて戸惑っているようだ。


「フユリンさん、メルシュ様は自分に忠誠心を抱くものを呼び出す魔法が使えます」


「見ればわかる」


 メルシュが私を指差す。


「あなた達、いますぐこの二人を殺しなさい。殺した者はお父様に良く言って差し上げるわ!!」


 全員の眼が私を捉える。

 とりあえず、といった具合いに敵意を向けてくる。

 単純なやつらだ。


「フ、フユリンさん!! やばいですよ!! ここは貴族学校、魔法を覚えた生徒だって大勢います!!」


「お前みたいな落ちこぼれだっているはずだろう」


「たしかに!!」


「まあ、なんであれ私には関係ない」


 メルシュが叫ぶ。


「殺れ!!」


「パニッシュメント・バインド」


 魔法の縄がメルシュの手下ども全員を拘束した。

 しかし、拘束力が弱い。屈強な男ならばもう少しで引き千切ってしまいそうだ。

 バインドは複数の相手を捉えることが可能だが、数が多いと一つ一つの力が弱くなる性質がある。


「関係ないがな。パニッシュメント・エレクトリック」


 手下どもの肉体に電流が走る。

 なにも殺すつもりはない。気絶させるだけだ。


 思惑通り全員気を失い、地に伏した。


「これで、あとはお前だけだな。メルシュ」


「つ、使えない連中!! 私が散々面倒を見てやったのに!!」


 メルシュに歩み寄る。


「来るな!! このメルシュ・エッペンにそれ以上近づくんじゃないわッッ!!」


「近づかなきゃお前を潰せないだろう」


「こんのぉ……悪役令嬢けんぽーー」


「鬱陶しい」


 もう一発殴ってやる。

 前歯が折れ、鼻血まで流している。


「く、くぅ……」


「私に恐怖したな。発動条件は満たした……メタモルフォーゼ!!」


 メルシュの首から下が、ゴブリンへと変化した。

 小さく醜く、獣臭い、女として最底辺の姿。

 腕や腹の体毛が濃いあたり、こいつはもともと毛深いタイプだったのかもしれない。


「な、何なのこれ!! いやああああああ!!!!」


「お前はもう、悪役令嬢ではない。気味の悪いゴブリンモドキへと成り下がった」


「いや、いやよこんな!! 戻して、戻してよおおおお!!」


 メルシュが泣き縋ってくる。

 顔だけは人間のままなのが、中途半端で気持ち悪い。


「お願いだから。お願い。こんな姿……。そ、そうだ。何がほしいの? お金? 地位? 上げるわ。なんでも上げるから!!」


「いいもんだな、『持っている』やつは。差し出せるだけのものがあって。上級の人間らしい対処の仕方だ。……私には通用しないが」


「そんなこと言わないで!! ぜんぶ許すから!!」


 許す、か。

 この期に及んで上から目線。

 これだから悪役令嬢は。


「そうだな、じゃあ。教えてもらおうか、マリアンヌに接触する方法を」




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※あとがき

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