素敵な部活

「――あいっ!今日、何部に仮入部する?」

帰りのホームルーム後、リュックを背負いながら、マリンがそうたずねてくる。

「昨日行こうかなって思ってた部で、演劇部!」

「おっ、いいねっ、行こう!」

マリンは楽しそうにうなずいて、賛成してくれた。

「ありがと!」

「演劇部、どこでやってるんだっけ?」

「えっとねえ……」

彼女からの問いに、わたしは部活の活動場所とか、活動日など大まかな内容が書かれている『部活動一覧』の紙を広げる。

「あっ、あった、一階の会議室だって!」

「オッケー!」

教卓の書類を整理してた春川先生に、二人で「さようなら〜」とあいさつしながら教室を出た。

「演劇部……楽しみだねっ」

「うん!仮入部、何やるんだろ〜!」

そんなことを言いながら、演劇部の活動場所である一階の会議室へといそぐ。会議室は、東のはじっこにある。だから、いつもつかってる一年二組に近い中央階段ではなく、東階段をつかうんだ。

この時間は部活に行く先輩たち、仮入部に行く新一年生、それから普通に帰る生徒たちで廊下も階段もごった返している。騒ぎ声と生徒たちのすき間を通り抜けて階段をおりていく。

やっと四階に辿りついたとき、なにかの光が目をギラッと刺した。

「うわっ、まぶしっ」

マリンが顔をしかめる。

「なんだろう……」

不思議に思ってその光の方を見やる。

「「うわぁ……!」」


きれい。


わたしはそう思った。

金や銀色のうつくしいその輝き。

思わず見とれていると、宝石のようにつややかなそれを持った数人の生徒中の一人が、『吹奏楽部』と書かれた看板も持ってあわてたようにわたしたちの方へ駆けよってきた。

「ごっごめんねっ、楽器で光が反射しちゃったみたいで……大丈夫?」

「はっはいっ」

「大丈夫です!」

わたしたちも話しかけれられて急に緊張しながら、うわずった声で応答する。

「良かったぁ。あっ、その部活動一覧持ってるってことは一年生なんだね!」

「そうですっ」

マリンが答える声を聞きながら、わたしは何気なくその人が手に持つ金ぴかの細長い楽器を見て、あっと声をあげた。

「トロンボーンだ!」

自分の意識よりも楽器の名前を口走った唇に、わたしはすこし遅れて気づき、とんでもない早さでその口を両手でふさいだ。その瞬間、頬にカーッと熱が集まり出す。

「す、すみません……」

思いがけず口に強く手を当てすぎて、もごもごとした声であやまる。

そんなわたしをきょとんとした顔で見てたトロンボーンの人は、優しくにっこりと笑ってくれた。

「いや、いいのいいの。」

「あっありがとうございます…」

隣でマリンも頭を下げてくれている。

「ホントに、気にしないで。それより、あなたトロンボーン知ってるんだ!」

「あっ、はいっ」

一気にはずんだ声音のその人。わたしは急いでうなずく。

「嬉しいなぁ。もしかして、小学校で金管バンドに入ってたの?」

「はいっ、入ってました!」

わたしはまたうなずいた。

ちなみに、金管バンドというのは、小学校などに設置されている基本的に参加自由なクラブのこと。その名の通り、トロンボーンや、コルネット(トランペットに似てる楽器。小学校ではトランペットに代わりコルネットがよく使われるみたい)、チューバ……そんなたくさんの金管楽器と、パーカッションと呼ばれる打楽器の、主に二つの楽器グループで構成されているバンドだ。わたしが通ってた小学校では、金管バンドには小三から入れたから、わたしもそこでコルネットをやってたんだ。ただ、小四の途中でやめちゃったんだけどね……。

「へぇ〜!おとなりのあなたも、金管バンド、入ってた?」

話題がとなりで固まってたマリンにうつる。

「い、いえ、あたしは……」

今まであまり声を出していなかったからか、若干かすれた声で否定する彼女。

「そうなんだぁ」

その返答を聞いても、その人はあったかい笑顔であいづちを打ってくれた。

「あっ、自己紹介がまだだったね。あたし、安間 沙耶実あま さやみ。吹奏楽部の部長やってます!」

肩まで伸びた外ハネの髪とおだやかな笑顔の先輩――安間先輩がトロンボーンと吹奏楽部の看板をすこし持ち上げながらそう言った。

「あっ、あたし、加賀屋 マリンです!」

「わたしは坂口 藍梨ですっ」

わたしたちも自分の名前を安間先輩に伝える。

「加賀屋さんと、坂口さんね。……あの、二人とも」

わたしたちを交互に見たあと、急に声をちっちゃくして改まった声で言う先輩。

「「は、はい」」

わたしたちもいくらか真剣になって身構える。

「これも何かの縁だし、最終日だけど良ければうちの吹奏楽部、見てってくれると嬉しいなぁって……」

なんと、部長直々のおさそい。

なんて答えようかとアワアワしていると、となりの口が開いた。

「いやぁ、すみません。あたしたちこれから演劇部に仮入部しようと思ってたところなんです。なのでほんっっとうに申し訳ないんですがそっちの部活に行かせてください……!」

マリンが申し訳なさそうに頭を下げる。先輩はその姿を見て、眉を下げ笑った。

「そうだよね…他に行きたい部活あるよね。引き止とめちゃって、ごめんね。」

頭下げないで、とマリンに優しい声で言ってくれる安間先輩。

「あっ、ありがとうございます!」

「じゃあ、またどこかでねっ」

「はいっ、本当にありがとうございますっ」

安心したような声が遠くに聞こえる。


……どうしよう。


マリンはわたしのことを百パーセント思ってああ言ってくれたけど……。

わたし。

……わたし、仮入部したい。吹奏楽部に。

演劇部も、もちろん興味があった。

演者も観客も涙が出るような演技も、周りに急に風が吹いたような、そんな新感覚な脚本を書くことも。

どれもこれもやってみたかったことだ。

だけど、わたしは、見てしまったんだ。

安間先輩を含む楽器を持って廊下に立つ先輩たちのきらきらしていた顔を――。

だから。

「……あい?」

けげんな顔をしてすこし離れた先でわたしを待つマリン。

「どうしたの?」

安間先輩も不思議そうだ。

わたしは息を吸い込んだ。

「わがまま言って悪いけど、わたし、わたしっ。吹奏楽部に仮入部したい……っ」

「っ!」

マリンと安間先輩が驚いたように目を見開く。

「安間先輩。話が二転三転してすみません。仮入部、させてください」

安間先輩にも、向き直って、頭を下げる。

「……そっか」

マリンが遠くで声をこぼした。

足音が、ゆっくり、カツン、と聞こえ、だんだんはやくなってくる。

ばっと顔をあげた瞬間、目の前に空がパッと晴れたようなマリンの笑顔があった。

「――良かった!」

「……え?」

今度はわたしがけげんな顔をする番だ。

「あたしだけかと思った!」

マリンがわたしの両肩をがっちり掴む。

「そこで楽器持ってる先輩方の顔、ちょーきらきらしててほんとに楽しそうで!あたし、ちょっと仮入部したいなって思っちゃったんだよねっ。でも、あいの唯一の希望の演劇部は何がなんでも仮入部出来るようにしなきゃって思ったからさ。」

「マリン……。」

呆然とマリンを見る。

「あたし、一人で突っ走りすぎた。あいの意見も変わるはずなのにさ。ごめん、あい」

ぽりぽりと頭をかきながら笑う彼女。

わたしもあわてて声を出す。

「う、ううんっ。マリンがわたしのために言ってくれて、嬉しかった」

「そうなら、言ったかいあったなぁ。良かった」

ニッとマリンは楽しそうに笑って、それから安間先輩の方に体を向けた。

「あたしも、吹奏楽部の仮入部したいです!」

二人でお願いします、と改めて頭を下げる。

「……」

しばらく声は降ってこなかったけど。

「嬉しい……!」

やっと状況を理解したみたいに、花が開いたような言葉がつむがれた。

「二人とも、顔をあげてっ。むしろこっちからさそったんだから、断るなんてことはないよ。じゃあ、案内するね!」

顔をあげた先、安間先輩は本当に素敵な笑顔だった。

「「あっ、ありがとうございます!」」

すこし遅れて、二人声を揃えてお礼を言う。

「うちの吹奏楽部の部室はね、この四階の東音楽室と、となりの空き教室の二つなんだ」

歩きながら説明してくれる安間先輩。

「ミーティングとか、基本的に集まる場所は東音楽室。仮入部も基本ここで。さあ、どうぞ」

何だかすこし重そうな音楽室のドアを開けて、安間先輩はわたしたちを先に通してくれた。

「失礼します……」

「失礼しますっ」

入った先には仮入部の先客一年生と、ぴかぴか光る楽器を持つ先輩たちがズラリ!そして部室のはじっこの棚やそのあたりには、楽器が入ってる楽器ケースがきれいに並べてあるっ。なんだか、ケースから楽器が出てないのに、楽器ケースでさえもきらきら輝いて見えちゃう。

「おお……っ」

思わず声をあげる。

「あと三分くらいで仮入部開始だから、二、三年は準備しといてー!」

安間先輩が見かけによらない空間にはっきり通る声を出す。

「はい!」

二十人くらいの先輩たちのパリッとした大音量の返事に、わたしとマリンを含めその場にいた一年生は「わっ」とみじろぎした。

「一年生がいるところに座っていてね」と東音楽室の出口に向かう安間先輩に言われ、この場からすこし離れた言いつけの場所へ向かう。

にしてもこの楽器の数、すごいなぁ……!

わたしは小学校で使った金管楽器のことしか知らないから、トロンボーンよりも細長くてちっちゃい笛のような木管楽器に目を輝かせる。

しばらくそうしていると、さっきのわたしたちと同じようにして東音楽室に入ってきた一年生と、その後ろに楽器を持った先輩たちが続いた。そして、安間先輩をのぞく先輩全員が席に着く。

その様子を確認して、先輩は両手を胸のあたりまであげた。何をするんだろう、そう思っていると、

――ぱちぱちぱちぱちっ。

安間先輩はなぜか拍手をした。そのとたん、今の今まで聞こえていたざわめきが、一瞬にして消え失せる。

――そして、安間先輩は明るい表情でパッと口を開いた。

「……では!時間になったので吹奏楽部の仮入部を始めようと思います!」

力強いその声のあと、ザッと先輩たちが席を立つ。

「仮入部の最終日である今日に、吹奏楽部を選んでくれてありがとうございます!」

「ありがとうございます!!」

一人だけでも十分大きい安間先輩の声に続いて、数十名でありがとうございますの復唱。

おおっ……とわたしは固まった。

見ると、となりのマリンも、そのとなりの男の子も、カチーンと固まっている。

「今日は楽しんでいってくださいね!」

安間先輩はそう、とびきりの笑顔で始まりのあいさつを締めくくった。

「まず、最初に、この曲をお送りします。」

そう言って、先輩は席に着く。

それを見届けたらしい打楽器の人が、タイミングを見計らってカンカンカンッと太鼓の細いバチを打つ。

……!

何もない静かな空間から、音が溢れ出した。

その瞬間、わたしたちはすぐにその演奏に聴きほれる。楽器だけじゃなくて、音色もちゃんときれい。

それにこの曲、今年流行った曲だ!

楽器を吹いたり、叩いたりしてないときでも、横に揺れたりする人がいたり、よく聞こえる楽器の音の方へ向けて手をキラキラ〜ってさせたりする人がいて、とっても楽しそうだ。何より、わたしが、わたしたちがすっごく楽しい!

先輩たちが、わたしたちを楽しませようと一生けん命考えて、たくさん練習してくれたことが手に取るようにわかる。

演奏が終わると、無意識で先輩たちに大きな拍手を送っていた。もちろん一年生全員が目をまぶしいほどに輝かせて拍手している。

「ありがとうございますっ!」

すごいすごい!

息も忘れるくらいそのまま拍手していると、安間先輩が苦笑いで口を開いた。

「あ、ありがとうございますっ……。もう大丈夫ですよ。」

そして、先輩はぱんっと手を叩いて今度はにっこり笑顔に。

「次は、楽器紹介です!フルートパートの皆さん、お願いします!」

「はいっ!」

安間先輩が席まで移動する間に、どの楽器よりもほそなが〜い銀色の楽器と、それよりももっとちっちゃい黒色の楽器を持った先輩たちがパッと立った。

「えっと、これはフルートといって、この吹奏楽部にある楽器の中で二番目に高い音が出る楽器です。きれいではかない音を出すことが出来るんですよ。」

そう、一人の先輩が言うと、そのとなりの先輩が、楽器をおもむろにかまえる。あっ、笛を横にかまえるこの楽器、なんか見たことあるかも。

そして、先輩によって小さい穴に息が吹きこまれる。

「わぁ……」

きれいなドレミファソラシド。

小さな音で、なんだか消えていっちゃいそうだ。

その音を奏でた先輩がお辞儀をするとともに、わたしたちも拍手を送る。

「続いて、ピッコロです!」

さっきフルートを吹いてた先輩が、今度はピッコロを軽くかかげてにこっと笑う。

「この楽器は、フルートに似ているんですが、ボディが黒くて、フルートよりもちっちゃめです。そして、この中の楽器で一番高い音が出るんですよ。きれいというよりも可愛くて素敵な音を奏でることが出来るんです!」

ピッコロのドレミファソラシドは、小鳥のさえずりみたいでなんだかかわいい。

フルートパートが座って、おとなりのピッコロより大きくて黒いリコーダーみたいな楽器を持つ先輩たちがザッと立ち上がる。あ、反対側のはじっこにいる大きめの楽器を持った先輩も立った。

「私たち〜っ、」

「クラリネットパートで〜す!」

その楽器、クラリネットをにこにこ顔でブンブン振り回す先輩たち。おもしろくて、わたし、笑っちゃった。

「この楽器は、リコーダーに似てる〜ってよく言われるんですが、音色はぜんっぜん違うんですよ。」

先輩のうちひとりが説明したあと、最初に掛け声をした先輩が、楽器を口にくわえた。

わ、ほんとだぁ。リコーダーはどっちかっていうとピッコロみたいなかわいらしい音だけど、クラリネットは低い音はやさしくて、高い音は明るい独特な音だ。

「さらに、こんなことも出来るんです!」

もう一度、クラリネットを口にくわえると、先輩はものすごいはやさで指を動かし始めた。その指に連動して、音も一気にかけあがったり、かけおりたりする。

「木管楽器は、音を変えるために押すボタンが多いので、金管楽器と比べてこんなふうに指をはやくまわしやすいんです。ですが、クラリネットは、その木管楽器の中でもはやい動きが得意なんですよ!」

へぇ〜!木管楽器も、すごいんだなぁ。

「次はそこに立ってる人が持ってるあの楽器!」

そこに立ってる人、っていう表現がなんだかてきとうでおもしろい。笑い声があっちこっちから聞こえる。

「……なんだか失礼ですねぇ、あの先輩。……はい。これは、クラリネットの仲間のバスクラリネットという楽器です。あのクラリネットよりも、低い音が出るんです」

さっきのクラリネットと違って、大きくて、先っぽの方が銀色に光って曲がっている。なんだかそこだけ金管楽器みたいだなぁ。そんなことを考えていると、クラリネットの進化版みたいなバスクラリネットを、先輩が口にふくむ。

おお〜っ…!全身が包まれているような、そんなやさしい低音だ。でも、音と音がしっかり分かれていて、はっきり聞こえる。

「バスクラリネットは、吹奏楽ではベースとなる楽器のひとつです。みんなを支える役目をしているんですよ。」

クラリネットパートの紹介が終わり、先輩たちがお辞儀する。

「続いて、サクソフォンパートです!」

そう言って立ったのは、金ぴかに輝く三種類の大きさがある楽器を持つ先輩たち。バスクラリネットと同じで、こっちは全体的に金色だけど、先の方が曲がってる。と、その三つのサクソフォンの中で一番小さなサクソフォンを手に持つ先輩が、口を開いた。

「この楽器は、アルトサクソフォンといいます。ちなみに、サクソフォンは略してサックスの名で知られています。アルトサックスは、ここにあるサックスの中では一番高い音を出せる楽器なんですよ。サックスは、ここにある楽器の中で、一番テレビなどで見るんじゃないかな〜って思ってます」

そして、説明していた先輩のとなりの先輩が、楽器をかまえる。この楽器、芸能人がよく吹いてるから、音色もなんとなく知ってる気がする。

おおっ、フルートやクラリネットとはまた違って、大人っぽくってかっこいい音だなぁ。

「次は、テナーサックスです。アルトサックスより大きくて、少し低い音域を担当します。」

テナーサックスの先輩、一人なんだ。一人って心細かったりしないのかなぁ。金管バンドでは、楽器が金管楽器と打楽器しかなかったから、一つの楽器のパートに何人もいたことを思い出していると、その先輩が、楽器を口に含んだ。

わっ。アルトサックスよりも低い音だから、もっと大人っぽい艶やかな音にきこえる。

「サックスの最後は、バリトンサックスです。アルトサックスとテナーサックスと比べていちもくりょうぜんに大きい楽器ですね。」

そうして、またしてもバリトンサックスパートで一人の先輩は、なんだか他のサックスよりも断然重たそうなバリトンサックスをひょいと口元まで持ち上げた。

おお、アルトサックスやテナーサックスとは違う、厚みがあってしぶい音だ…!バスクラリネットと同じ音域なのかな?音がちょっと似てるかも。

「以上サックスパートでした!次は、木管楽器から金管楽器のパートにバトンタッチです!」

そう、バリトンサックスの先輩がいうと、一番後ろの席の左側がばっと立った。

あっ――あれは。私はその先輩たちが持つ楽器をぎょうしする。

「金管楽器のトップバッターは、私たち、トランペットパートでーす!」

クラリネットパートの真似なのか、トランペットをぶんぶん振り回すトランペットパートの先輩たち。そして案の定笑い声が。

「金管バンドに入っていた人は知ってると思われるコルネットに似ている楽器です!コルネットよりちょっと長めのボディですね。すこし音質が違うので金管バンドに入っていた人、特にコルネットパートだった人!よくきいてみてください!」

そうまくしたてた先輩のとなりの先輩が、楽器をかまえた。

……!

サックスとはまた違う、かっこよくてキレのある音。コルネットは、トランペットよりもうすこしまるい可愛い音をしている。若干の差なんだけどね。

トランペットパートの先輩たちがお辞儀をする。それと同時にその隣に座っていたパート――さっきわたしが名前を叫んだ楽器、トロンボーンパートの安間先輩たちが立った。

安間先輩ではなく、別の先輩が口を開く。

「この楽器はトロンボーンといって、トランペットよりもなが〜い楽器です。しかも、他の楽器はボタンを使って音程を変えられるのですが、トロンボーンは、この長い管を前後に動かして音程を変えることが出来るというとくちょうがあるんです!」

説明が終わったあと、安間先輩が楽器に口をつけた。

わー…!金管バンドにあった楽器だけど、やっぱり中学生の音はすごい。トランペットのちょっと低い版って感じでパリッとかっこいい音なんだけど、安間先輩の優しい性格も音に出てる気がする。

「続いて、ホルンパートです!」

あっ、金管バンドで見たことない楽器だ。でも、「ホルン」って名前はききなじみがある。「アルトホルン」っていう、コルネットを縦にしてすこし横幅を大きめにしたような楽器が、金管バンドにはあったんだよね。ホルンってついてるから、あの楽器と音が似ているのかも。

「ホルンは、ほかの楽器とは違うぐるぐる丸まったフォルムがとくちょうです。よく『カタツムリ』って表されるんですよ。」

そうして、ホルンを持った先輩が、後ろ向きにある音が出るところに、まさかまさかの右手を突っ込んで、楽器に口をつけた。

おお、やっぱり、ちょっとアルトホルンの音に似てるや。カタチと同じように丸くて柔らかい音だなぁ。

「次はユーフォニアムパートですっ」

トランペットの前のホルンパートが座って、そのとなりの一人だけのユーフォニアムパートの先輩が立った。

「この楽器は略してユーフォと呼ばれる楽器です。結構大きい楽器で、ボタンを押すのが大変なのですが、木管楽器と同じようなフレーズが出てくることもあるんですよ。」

ユーフォの先輩が、楽器を構える。

うわぁ……っ。この楽器も、金管バンドにもあったけど、小学生の音とは全然違う。音の低さとかはトロンボーンに近いんだけど、トロンボーンとは違い、優しくて、あったかくて、柔らかい周りを包み込むような音だ。フルートとはまた違うはかなさと美しさを持っている。

「金管楽器最後のパートは……」

安間先輩がそうためると。

ユーフォパートのとなりのパートの先輩がとても大きい楽器のかげから顔をのぞかせて手を振る。この楽器も金管バンドにあった。そう、名前は……

「チューバパートでーす!」

金管楽器最後のパートとあってかどのパートよりも元気だ。

「チューバは、ここにある金管楽器の中で一番低い音を出すことが出来ます。バスクラリネットや、バリトンサックスと一緒にみんなを支える土台となる楽器なんですよ!」

すでにチューバをかまえた先輩が、楽器に口をつける。

深みのある低い音が、音楽室に響きわたる。木管楽器と金管楽器で違うから、バスクラリネットとバリトンサックスのしんのしっかりした音ではなく、その音を包むようなもわんとした音だ。

「最後は、パーカッションです!」

声がした左の方を見ると、シャンシャンシャンとかパフパフとかキラキラ〜とか、そんな様々な音がきこえてきた。

「パーカッションは、別名打楽器ともいいます。鍵盤楽器や、タンブリン、トライアングルなどの小物楽器と様々な楽器があるんですよ〜!」

色々な種類の鉄琴や木琴のドレミファソラシドと、タンブリン、小学校で使ってたカタチと全然違うカスタネットの個性豊かな音たちがバラバラときこえる。なんだか宝箱を開けたみたいに音が輝いててステキだなぁ。

「長くなってしまいましたが、以上楽器紹介でした!」

トロンボーンパートの中から、安間先輩の声が飛び出る。

「最後は、楽器体験です!時間の関係で一つの楽器しか出来ませんが、一人ずつ何をやりたいかきいてまわるのでこの準備中に考えておいてください!」

安間先輩がそう伝え終わると、フルートパートの先輩が、ざわざわしだした先輩たちのほうに向かって、

「二、三年は一年生の体験に使う楽器の準備しといてー!」

安間先輩に負けず劣らずの大声を出す。

「はいっ」

そしてまた、大音量の返事が、わたしたちをおどろかせた。

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