第17話

 衝撃の事実を知ってしまった。


 どうやらこの世界にもが存在するらしい。



『えっ!?食べたい!』


「わっ。待って待って!」



 その事実が嬉しくて。

 思わず顔をユリウスくんに寄せると、混乱した様子で一歩距離を置かれた。


 ごめんごめん。


 内心で謝りながらも舞い上がった気持ちを落ち着かせる。

 なんせ甘い物。前世ではクレープが大好物だったのだ。


 その為、思わず言葉も魔族の言語になっていた。

 ふぅ。

 危ない危ない。これで大丈夫だ。



「ごめんなたい」


「いや謝らないで。それよりもクレープが好きなのかい?」


「?」


「えっと。クレープは?」



 手でハートを描く仕草。

 お〜成程。分かったぞ。

 多分クレープが好きかどうか聞かれているらしい。



「すき!」


「そっか。好きなんだね」


「うん!」



 どうやら正解だった様で、無事に意思疎通が成立する。


 こんな感じで。

 少しずつだが、人族の単語を覚え始めた事で、徐々に意思疎通がスムーズになってきた。



「それじゃあ。今日は食べに行こっか」


「うん!」



 こうしてユリウスくんと共に、初めて街へ向かう事になったのだった。



 数時間後。

 変装したユリウスくんと共に街へと到着。

 そして。



『わぁ〜。凄い広いね』



 目の前に広がる光景に自然と感想が漏れるのだった。


 大きな通りを埋め尽くす様に並ぶ多くのお店。

 規模感は魔族領の帝都と同じくらいだろうか。

 だが何より人通りが凄い。

 帝都も人は多かったが、これ程ではなかった。


 まるで前世の東京を見ている様だ。

 なんか迷子になっちゃいそうだな。

 あっ、そうだ。


 えいっ!



「っ!えっなに?」



 彼の手を掴むと凄く驚かれた。



「えーっと、、、とおく、はなれた、危険」


「あ〜なるほど。離れたら危ないから手を繋ぐって事ね」


「そう」


「うん。分かったよ」



 恥ずかしそうにしながらも受け入れるユリウスくん。

 心なしか。顔も少し赤い気がする。


 緊張してるのかな?

 まぁ。なんでも良いか。



「よし。じゃあ行こうか」


「うん」



 そんな訳で早速。

 手を繋いだまま人混みに飛び込むのだった。


 そして数分後。

 目的のクレープ屋さんは割と近い場所だった様で。

 特に問題も起きる事なく無事に到着した。



『わぁ〜!すごい人だね〜』



 そして到着して直ぐ。

 思わぬ行列に驚く。


 基本的には、何処のお店も人気の為、店の前に列ができているのだが、その中でも群を抜いて長蛇の列ができていた。



「ひと!おおい!」


「そうだね。凄い行列だね。取り敢えず並ぼうか」


「うん!」



 ユリウスくんと共に最後尾に並ぶ。



「先にメニューを見て、食べたい物を決めるんだって」


「?」


「どれが良い?」



 そう言って待機列の入り口にあったメニュー表を手に取るユリウスくん。

 見ると様々なクレープのイラストが載っていた。

 成程。この中から選ぶって事ね。

 う〜んと。どれにしようかな〜。



「あっ!」



 食い入る様に見ていると、メニュー表の中で一際目を引くクレープを発見した。

 それは茶色のソースが特徴的な前世ではお馴染みの代物。



「これ!」


「わかった。このチョコクレープね」



 そう。チョコクレープだ。

 元々暮らしていた魔族の国では、前世:日本ほど技術が発達していなかった事もあり、チョコレートなどの加工食品は殆どなかった。

 その為、前世で大好物だったチョコレートに、それはもう焦がれていた訳だが。


 まさか人族の国にあるとは!



「何やら嬉しそうだね」


「うん!」



 予想もしていなかった出会いに気分は最高潮。

 なんだかニヤニヤが止まらないぜ〜。


 そんなこんなであっという間に時間は過ぎ。



「はいコレ」


「あいがとう!」



 店員のおばちゃんから念願のクレープを受け取る。

 絵で見た通り。それは完璧なまでにチョコレートクレープだった。


 お〜!本当にチョコレートだ!



「凄く嬉しそうだね」


「うん!」


「食べてもいいんだよ」


「あいがと!」



 買って貰ったお礼を述べて、早速口に含む。

 瞬間。口内全体に広がるチョコレートの甘味。



「おいちい!」


「うん。それは良かった」



 想像していた通りの味だ。

 コレコレ。コレを求めていたんだよ〜。

 甘くて頬が落ちそうだぜ〜。



「それじゃあ僕も食べてみようかな」



 そう言って。自らのクレープに口を付けるユリウスくん。

 因みに彼は赤い果物がメインのクレープだ。



「ん〜。美味しいね。僕も初めて食べたけど人気な理由が分かったよ」



 どうやらユリウスくんもご満悦の様だ。

 だよね。だって凄く美味しそうだもん。

 俺のクレープに引けを取らない見た目。


 じー。


 それに何だろう。

 見ていると徐々に食べたくなってきたぞ。


 じー。


 自分のクレープに口を付けながら徐々にユリウスくんへと擦り寄っていく。

 美味しそうだな〜。食べたいな〜。



「んっ?なに?」



 困惑した様子のユリウスくん。

 だがそんな彼の反応を無視し、更にすり寄る。

 そして。


 えいっ!



「っ!」



 ユリウスくんのクレープに思い切りかぶり付くのだった。


 ん〜!

 その瞬間。口内に広がる果物の甘味。

 最高だぜ!



「おいちい!」



 感想を伝える為、ユリウスくんは目線を向けると。


 、、、?


 何故か顔を真っ赤に染め上げ。

 驚いた表情のまま固まるユリウスくん。


 えっ?どうしたの?



「どちた?」


「い、いや!なんでもないよ!」


「?」



 挙動不審な反応。

 本当にどうしたんだろう?


 変なユリウスくん。

 まぁ、考えても仕方ないか。


 そんな事よりも勝手とは言え、一口貰ったからにはお返しした方が良いよね。



「ん」



 てな訳で早速。チョコクレープを彼の前に差し出す。



「えっ?」


「たべて」


「えっ!?」


「いいから」


「えーーっ!!」



 更に混乱するユリウスくん。

 んー。なんでだろう?


 別におかしな事もない。

 



「いいのかい?」


「うん」



 おずおずといった様子で口を付ける。

 よく見ると耳まで真っ赤だ。


 うん。なんで?



「おいちい?」


「うん、、、美味しいよ、、、」



 顔を背けながら応えるユリウスくん。

 本当に一体どうしてしまったのだろうか。


 結局、最後まで分からなかった。

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