第15話

 彼らとは言葉が通じない。それは衝撃の事実だった。


 何故なら昔、聞いた事があるからだ。

 魔族は言語が統一されている為、何処に行っても会話には困らないと。

 にも関わらず全く知らない言語。


 それは即ち。彼らが魔族ではない可能性を示す。


 だとすれば、、、。


 ある予想を胸に彼らの額・に目を向けると。


 やっぱりね。


 予想通り。

 彼らの額には魔族の特徴となるツノがなかった。

 つまり彼らは魔族ではない。


 だとすると一体、、、。


 分からない。分からないが。

 その見た目から大凡の予想は付いた。


 恐らくだが彼らは人族だ。

 なにせ前世:日本人の俺からすれば、最も馴染みのある姿なのだから。


 十中八九。予想は的中しているだろう。


 人族がこの世界にも存在している事は知っていた。

 だが見るのは初めてだ。


 ゴクリ。


 緊張が走る。

 この世界の人族がどの様な文化/考えなのかは全く持って分からない。 


 ましてや自分は魔族だ。

 前世:日本の創作物の世界に於いては、魔族と人族は常に対立していた。


 彼らが悪い人に見えない。

 だがこの世界での人族と魔族の関係性が分からない以上。

 念の為、刺激しない方が良い。



「すみません。どうやら言葉が通じない様です。と言ってもこの言葉も伝わっていないと思いますが、、、」



 話していて無駄な事に気付く。

 意思疎通ができないのは凄く困る。

 なんせ良い事も悪い事も通じないのだ。


 さて。どうしたものか。

 様々な手段を模索する。


 やはりジェスチャーが最善だろうか?

 前世でも言葉が通じない外国に行けばジェスチャーばかりになると友人から聞いた事がある。


 だがどうやって自己紹介するんだ?

 よく聞く話だが、何の気なしにやった動作が此方では失礼に当たり、いきなり殺されるとかもあるんじゃないか?


 う〜ん。なにが良いのだろうか。


 そんな感じで。

 頭を抑えながら難しい顔で考えていると。



『頭が痛むのかい?』



 心配そうな表情で近付いてくる少年。

 そのまま俺の額を見つめると心配そうに呟くのだった。


 恐らく俺が難しい顔で頭を抑えていた為、頭が痛むと勘違いしたのだろう。


 違う違う。そうじゃないよ〜。


 心配を掛けるのも申し訳ない為、慌てて否定する。



「あ〜。違います。これは頭が痛む訳ではなくて、今後どうしようか悩んでいるだけであって」



 必死に頭を差しながら首を横に振る。

 決して頭が痛い訳ではないよ。というジェスチャーだ。

 う〜ん。どうかな、、、。


 伝わるかどうか不安だったが。



『うん。分かったよ』



 どうやら、その意図は少年にも伝わった様で。

 ホッとした表情に変わると胸を撫で下ろすのだった。


 おっ。伝わった様だ。


 無事に伝わった事に安堵する。

 それと同時に初めて意思疎通できた事が嬉しかった。

 やはりジェスチャーは偉大らしい。



「あっ!」



 そうだ!

 ジェスチャーの偉大さが再確認できたところで、ジェスチャーをしながら改めて自己紹介をしてみよう。

 もしかしたら伝わるかもしれない。



「改めまして。私の名前はリリィです。よろしくお願いします」



 名乗るまでは自分の事を指差しつつ最後は腰を折って挨拶する。

 どうだ?



『リリィ。君の名前はリリィと言うのかい?』



 すると俺の狙い通り、意図はしっかりと伝わった様で。

 俺の事を手で差しながら名前を数回呼ぶのだった。


 やった!伝わった!伝わったぞ!



「うん!そうだよ!リリィだよ!」



 その事実が嬉しくて。

 勢いよく彼の手を取ると、首を縦に振りながら、その場でピョンピョンと跳ねてしまう。


 いかんいかん。

 彼とは今回が正式な初対面なのだから。


 ふと見ると。困惑した表情の少年。


 だよね〜。ごめんね〜。

 急いで手を離す。


 コホン。


 咳払いをする少年。

 そして。



『改めまして僕の名前はユリウスです。こちらこそよろしくお願いします」



 反対に。

 今度は少年が自らを指差しながら、ユリウスと名乗るのだった。



「ユリウス?」


『そうです!ユリウスです!』


「ユリウス!」



 お〜。分かったぞ!

 彼の名前はユリウスと言うらしい!


 お互いに相手の名前が分かった事で自然と笑みが溢れる。

 やっぱり名前が分かると嬉しいよね。


 こうして距離を縮めた俺達は、どちらからともなく握手を交わすのだった。

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