第14話

 新たに現れた金髪の少年。彼の顔には見覚えがあった。

 えっと何処だっけ?記憶を遡ると。


 あっ。あの時の!


 思い出したぞ。

 クレアさんを尾行していた際に裏道で衝突した少年。

 間違いなく彼だった。


 よく覚えているものだな〜。


 自分の記憶力に感心する。

 まぁ。それだけ彼の容姿が印象的だったという事だろう。


 改めて少年のを見る。

 綺麗な金髪に碧眼の瞳。そして整った顔立ち。

 以前、出会った際は貧相な服装だったが今は当時と異なり質の良い艶やかな服を身に付けている。

 恐らくコレが彼の本来の姿なのだろう。

 とても様になっている。


 彼はこの家の主だろうか?


 身嗜みから考えて使用人の可能性はないだろう。

 となると残る選択肢は一つだ。


 まぁ。状況確認も含めて直接聞いてみるか。

 そんな訳で早速。声を掛ける事にした。



「初めまして。私はリリィと申します」



 あくまで初めましてを強調し、挨拶をする。


 前回出会ったのは一瞬の出来事。

 彼の容姿が印象的だった為、俺自身は彼の事を覚えていたが彼が同じく覚えている可能性は低いだろうという判断だ。

 それに当時は男装もしていた。

 今の俺ーー少女の姿と結び付く可能性もまずないだろう。


 実際には拾われた際に男装姿も見られていたんだけどね。

 この時の俺は知らなかった事だ。



「倒れていた所を助けて頂いたのでしょうか?でしたらどうもありがとうございます。ただ眠る前の記憶がない為、その事を覚えていなくて、、、。良かったら今の状況を教えて頂けませんか?」



 なるべく言葉を選び、丁寧に問い掛ける。

 状況証拠的にも、彼が恩人の可能性も全然ある。

 なるべく無礼がない様、言葉に気を付けなければ。


 そんな思いを胸に問い掛けてみた訳だが。


 ?


 何の反応もなく。

 ただ無言のまま此方を黙って見つめる少年。

 そしてメイド。


 なんで?

 その反応の理由が分からなかった。


 先程も同じ事を思ったけど。

 なにか粗相でもしているのだろうか?

 そう思い自分の言動を振り返ってみるが、特におかしな点や失礼な点はないと思う。


 何故?

 謎は深まるばかり。全く分からない。



「あの、、。何か失礼な事をしましたでしょうか?」



 このままでは埒が開かない為、直接聞いてみるが。



『、、、。』



 尚も無言のまま。


 なんだろう。

 ここまで来ると流石におかしい。


 先程のメイドさんの反応もそうだったけど。

 どうにも何かが噛み合っていない気がする。

 だけど返事がない以上。その事実確認もできない。


 どうしたものか。


 そんな感じで。

 進展しない状況に頭を悩ませていると。



『ごめんね。君の言葉が分からないんだ』



 遂に少年が重く閉ざしていた口を開く。

 そして心配そうな表情で、此方へと歩み寄るのだった。


 おっ!なになに!

 やっとお返事があったぞ!


 初めてのお返事に思わず嬉しくなる。



「お返事ありがとうございます!改めてお名前を伺っても良いですか?」



 早速、嬉々として名前を聞く。

 だが。



『、、、』



 困った様な表情のまま固まる少年。


 えっ?なんで?

 どうにも腑に落ちない。


 まさか。


 嬉しさの余りスルーしてしまったが。

 そういえば先程。彼はなんと言ったんだ?


 冷静になり思い出してみる。


 やっぱりそうだ。

 彼は先程。数口程度の言葉を口にしたが。


 


 間違いない。たった今確信した。

 恐らくメイドさんも含めて。


 彼らとは言葉が通じないんだ。

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