閑章1
おまけ1
それはとある日の出来事。
「こ、、、これは、、、」
手に持った薄い本を前に、うわ言の様に呟くのだった。
何があったか説明しよう。
我が家には書庫が存在する。
歴史の本や勉学の教科書。
更には娯楽の本なんかも存在する。
中でも冒険記や恋愛小説なんかは普通に面白い。
最近は暑くなってきた事もあり日中は家に籠る事が多く。
必然的に書庫で暇を潰す時間も多くなってきた訳で。
今日も今日とて暇だったので書庫で時間を潰そうと思い、本の選定を行っていた訳だが。
「なんだコレ?」
思わず目を奪われる。とある書物を発見してしまった。
その本の特徴は、とにかく薄い。
それこそページ数にすれば20〜30ページ程度だろう。
分厚い書物達の中で明らかに目を引く存在。
引かれる様に手を伸ばす。
「う〜ん」
表紙のタイトルは『俺達の絡まり合う青春』
タイトルだけでは、どんな本なのか全く分からない。
まぁ。少し読んでみるか。
そんな訳で早速。本を開いてみた訳だが。
「えーっと。なになに。お前の熱いマグナムで俺の、、、」
パタン。
開いた直後。すぐに閉じるのだった。
、、、。
アレ?
今何か。見てはいけないモノを見てしまった気がする。
いやいや。そんな訳ないよね。
此処は前世とは異なる異世界。
そんな尖ったジャンルが存在している筈がない。
うん。何かの見間違いだろう。
そんな訳でもう一度、本を開き目を通す。
視界に映るのは上裸の男性同士の抱擁を描いた挿絵。
そして。
「えーっと。お前の熱いマグナムで俺の、、、」
パタン。
、、、。
見間違いではなかった。
その事実に思わず驚愕する。
これはアレだ。
前世:日本では、一部の腐女子と呼ばれる女性達が好んでいた熱い男性同士の絡みを描いたジャンル。
そう。それは間違いなくBLだった。
何故こんな場所に?
その事実にまずは困惑する。
俺自身。そう言うジャンル自体に抵抗がある訳ではない。
だが内容的には明らかな成人向け。
前世も含めて、成人に達していない俺には刺激が強すぎるのだ。
よし。一旦忘れよう。
本棚にそっと置き、ひと呼吸吐く。
それにしても意外だった。
まさか今世でコレを見る事になるとは。
想像もしていなかった。
それにしても一体誰のだろうか?
少し冷静になった事で我慢が浮かぶ。
此処に置いてあるって事は、この屋敷の誰かなんだろうけど。
誰だろう。全く分からない。
趣向的には多分女性。
なのだが。
それらしき素振りや雰囲気は一切感じた事がない。
いや。やっぱり探るのは辞めよう。
なんか触れてはいけない扉な気がする。
てな感じで。そんな結論に至った訳なんだけど。
ガチャリ。
っ!
書庫のドアが開いた事で、慌てて本棚の陰に隠れる。
いや。なんで隠れたんだ?
別に疚しい事などないし、堂々としていれば良かった。
でも咄嗟に隠れちゃったんだもん。
だが自分の行動を悔いても仕方がない。
取り敢えず自然な感じで姿を表せば別に普通だろう。
よし。
そんな訳で自然に姿を現すべく。
念の為、入室してきた人物を棚の隙間から除くと。
あっ。クレアさん。
その正体はクレアさんだった。
手に箒を持っている為、掃除に訪れたのだろう。
なら何も問題はないよね。
そんな訳で作戦通り。
自然に姿を現そうとしたところで。
げっ!
ある事に気付く。
それは先程まで俺が立っていた場所ーー例の本が置かれていた本棚について。
そう言えばあの本!置きっ放しだった!
慌てて隠れた為、棚の上に置いたままとなっていた。
綺麗に整列された本達の上に、雑破に置かれた例の本。
明らかに目立つぞ。
そして几帳面なクレアさんが、その違和感に気付かない筈がなく。
「ん?なんですかコレは?」
本棚の前で立ち止まると例の本を発見。
片手で持ち上げながら不思議そうに呟くのだった。
ですよね〜。
その様子を見て、急いで本棚の陰へと戻る。
本の状態は完全に読みかけ。
今見つかったら確実にあらぬ誤解を受けそうだからだ。
「なるほど。これはこれは」
内容を確認して面白そうに頷くクレアさん。
なんだか少し悪い顔もしてるんですけど!?
大方。面白いネタを見つけたとでも思っているのだろう。
娯楽の少ないこの世界では、そう言ったジャンルに対する理解もまだまだ低い。
全員が全員。同じ反応をする訳ではないが。
クレアさんは、こう言った話題が大好物。
「これは一体。誰のでしょうか?」
俺の大方予想通り。
嬉しそうに呟くと満面の笑みで周囲を見渡す。
完全に面白がっている!
いやだ〜。
見つかったらアウト。
絶対に碌な目には合わない。
よし。このまま隠れてやり過ごそう。
そう固く決意。
気配を完全に殺す為、更に部屋の奥へと移動しようとしたところで。
「そういえば姫様は何をやってるのですか?」
クレアさんとバッチリ目が合った。
アレ?
ニコニコ笑顔のクレアさん。
バレ、、てた、、の、、?
衝撃の事実に思考は停止。
そのまま数秒間。無言で見つめ合う。
そして数秒後。
嬉しそうに此方へ例の本を掲げるクレアさん。
「違うよ!」
誤解を解く為、勢い良く本棚の陰から飛び出して、急いで弁明を始める。
「何が違うのですか?」
「別にそう言うジャンルの本が好きな訳じゃないから。偶然中を見ちゃって混乱してたら人が入ってきたから咄嗟に隠れちゃっただけだから!」
「そうなのですか?」
「そうだよ!」
「ですが。そこまで早口で捲し立てられると言い訳の様に聞こえるのですが?」
「違うから!信じて!」
必死に訴える。
すると。
「ふふっ」
口に手を当て笑い出すクレアさん。
「何が面白いのさ」
「いえ。必死な姫様が可愛らしくて」
「なにそれ」
頬を膨らませて不満を訴える。
「それに。この本が姫様の趣向ではない事は認知しております」
「えっ?そうなの?」
「はい。なんせこの本は私のですから」
「えっ〜」
衝撃の展開なんですけど。
って事はクレアさんの趣味?
「これは私の友人が描いた本です。記念にという事で以前貰いました」
「そうなんだ」
なるほどね。
そういう経緯があった訳か。
「じゃあ何であんな態度をとったの?」
「書庫から物音がしたのでコッソリと覗いたら可愛らしい反応をする姫様が見えましたので。つい揶揄ってしまいました」
なんだそれ。
全部見られてたって事か。
って事は完全に弄ばれた!?
「とっても可愛らしかったですよ」
そう言って頭を撫でられた。
解せぬ。
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