第10話
「そんな」
半壊した建物を前に膝から崩れ落ちる。
此処は自宅。つまりは最も慣れ親しんだ場所。
にも関わらず見慣れた筈の景観は何一つとしてなかった。
燃え盛る庭園。
木材が剥き出しとなった建物。
俺の安住の地が、完膚なきまでに破壊されている。
「なんで?」
うわ言の様に呟く。
到底、受け入れる事ができなかった。
ほんの数時間前までは何時も通りだったのに。
そうだ。皆はどうなった?
大事なのは人命の命だ。
細心の注意を払いながら、屋敷内へと足を踏み入れる。
数分後。
足を踏み入れて分かった事だが、不思議と屋敷内は静寂に包まれていた。
併せて人の気配も一切感じない。
「クレアさん?みんな?」
呼び掛けてみるが、やはり反応はない。
何故だ?
結局、屋敷内を全周するが、誰1人として出会う事はなかった。
皆んな何処に行ったんだ?
完全な想定外。状況が全く分からない。
街の異変を嗅ぎ付け、逃げたのだろうか?
だが無事な可能性は高いと思う。
建物や庭の損害が甚大なのにも関わらず、死体や手足の一部などは全く落ちていなかった。
上手く逃げれた可能性が高い。
良かった。その事実に先ずは一安心する。
だがこの後の行動。
それはどうする?
少しでも早く皆と合流したいのが本音。
だが探すにしても行き先が分からない。
手掛かりすらないのが現状。
なら此処で皆んなの戻りを待つのがベストか?
いや待てよ。
そもそも皆んなは此処に戻ってくるのか?
何処か別の避難先へ向かった可能性もある。
それに俺を探しに行った可能性はないのか?
頭の中でシュミレーションしてみる。
夜間に街の方角で爆発が発生。
避難の為、俺の部屋を訪れると蛻の殻。
屋敷の中は大騒ぎ。
総出で俺を探しに向かう。
可能性が高いのではないか?
仮にも俺はお姫様。
だとすれば皆んなの中での優先度は高いと思う。
絶対そうだ!
うわ〜俺のバカ〜。なんで1人で出ていったんだ〜。
今になって後悔ばかりが募る。
そんな中。
カタッ。
入り口の方角で物音が響いた。
誰か帰ってきたのだろうか。
だが敵の可能性も大いにある。
よし。
なるべく音を立てない様に移動。
そして物陰から慎重に入り口を確認すると。
「メリィさん!」
其処にはランプを片手にしたメイド服の人物。
この屋敷のメイドーーメリィさんがいた。
「姫様!」
メリィさんも此方に気付く。
良かった。漸くこの家の人に会えた。
少しだけ肩の荷が降りた気分だ。
まずは状況を確認しよう。
そんな思いでメリィさんの下へ向かおうとした。
その時だった。
ダンッ!
激しい衝撃音と共にメリィさんに落下した巨大な何か。
その何かに潰された事で血飛沫を撒き散らしながら、生き絶えるメリィさん。
え?
突然過ぎる出来事に全く理解が追い付かない。
メリィさんが、、、死んだ、、、?
唖然としながらもメリィさんを潰した何かを見上げる。
っ!
その何かの正体は巨大な飛龍だった。
なんだコイツは?
先程、街を襲っていた飛竜の倍以上の大きさ。
サイズだけで言えば恐らく飛竜の中でも最強クラスだろう。
何故こんな化け物が此処に?
只々疑問に思う。
そんな中。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
更に同じサイズの飛龍が3体も降り立った。
本当になんで?
分からない。完全に思考が停止する。
呆然としていると。
『やはり此処には誰も居ないか』
何かを呟きながら、飛竜から降りる人物。
全身鎧を着用しており、手甲部分がライトになっている。
フルアーマーの為、姿は一切見えないが、体格やその声質から男性だと言う事だけは分かった。
『そうみたいだな』
それに続き、次々と飛竜から降りる男達。
その全員が同じ鎧を着用している。
どうやら飛竜には一人づつ乗っている様だ。
『やっぱ街の中心。さっきユリウス様たちが攻め入ったあの屋敷の主人がこの街の領主。つまりはボスってところか?』
『恐らくはな』
『って事はコッチは外れか〜。つまんねぇの』
会話を続ける男達。
だが会話の内容は全く理解できない。
俺の知らない言語なのだ。
だが気になる。
それを無理に聞き取ろうとして。
コロッ。
思わず足元の瓦礫を蹴ってしまった。
『そこに誰か居るのか?』
ヤバい!
ライトで照らされた為、慌てて瓦礫の陰に隠れる。
奴等の正体は不明だが、敵だと言う事だけは間違いない。
メリィさんを殺した事。
そして街を襲っていた奴等と同じ飛竜や鎧。
更には飛竜のサイズや鎧の豪華さから、奴等の中でも上位の人間だと推測できる。
見つかったら最後。
殺されると思った方が良い。
『何か居たか?』
『いや何も。だが隠れただけかもしれん』
何回か言葉を交わした後、徐々に近付いてくる足音。
ヤバい!バレたか?
口に手を当て息を殺す。完全に気配を消すんだ。
『此処だな』
だが俺の努力虚しく、完全に気付かれている様で。
瓦礫で隔たれた僅か数メートル先まで接近される。
それと同時にカチャと言う音。
拳銃型の魔道具か何かを構えたのだろう。
ヤバいヤバい。
『出てこい!』
何かを叫ぶ男。
多分【出てこい】的な意味合いと思う。
どうしよう?最大のピンチだ。
素直に出て行っても間違いなく殺されるだけ。
出て行く理由は全くない。
かと言って此処に隠れ続けるのも時間の問題。
どうしたって殺される。
『まぁ、良いか』
何かを呟いた後、更に迫る足音。
どうしよう。
逃げるにしてもこの距離では直ぐに追いつかれてしまうだろう。もしくは魔道具の射程圏内ですぐに殺されるか。
抵抗するにも武器がない。
ヤバい。本当にヤバいぞ。
完全に八方塞がりだ。打開策も思い付かない。
どうする?どうする?どうする?
徐々に近づく足音。刻一刻と迫るその瞬間。
そして遂に俺の背後。
隠れていた瓦礫に手が掛かる。
もうダメだ〜。
『それでは念願の』
恐怖から目を逸らす様、思いっきり目を瞑る。
『ご対面!』
そして来たるべき衝撃に備えて、縮こまる様に頭を抱えるのだった。
、、、。
だが。
アレ?
恐れていたその瞬間は一向に訪れなかった。
どうなった?
恐る恐る目を開けると。
ひぃ〜。
頭甲冑の奥。此方を見つめる青色の瞳と目が合った。
しかし。
『誰も居ないな』
数回キョロキョロした後。
『まぁいいか』
去って行く鎧の人物。
アレ?
『敵は?』
『特に居なかった』
『そうか』
何が起きたんだ?
先程、確実に目が合った。
にも関わらず視線を右往左往した後、去って行った。
まるで俺の存在になど気付いていないかの如く。
『別の場所に移動するか?」
『あぁそうだな』
瓦礫から少しだけ顔を出し、入り口の方向を覗くと。
再び飛龍へ乗り、飛び去る鎧の人物達。
やり過ごせたのか?でも何故?
不思議に思いながらも、ふと足元に散乱したガラスを見る。
なんだコレ?
そこには予想外の光景があった。
本来であれば鏡面となり、俺自身を反射している筈。
にも関わらずそこには何も映っていなかった。
なんで?
慌てて手足を確認するが、しっかりと存在している。
何が起きてるんだ?
ふと。親指の指輪が光っている事に気付いた。
まさかこの指輪。魔道具なのか?
それも透明化の効力をを持つ。
だとしたらすごい驚きだ。
射的の際、この指輪を選んで良かった。
心からそう思う。
とにかく奴等が完全に去るまでは此処に隠れていよう。
てな訳で引き続き瓦礫に隠れながら奴等の動向を確認する為、僅かに顔を出すと。
奴等の1人が手に持つ魔道具に、光が灯った事に気付く。
まさか!
そして俺の嫌な予感は的中する。
『サンダーボルト!』
そのままこちらへ向けて高威力の魔法を放つのだった。
ヤバい!
魔法は建物へと直撃。一瞬にして崩れ始める。
後方へ向けて走り出すが間に合わず。
くそっ!
そのまま下敷きになるのだった。
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