第9話
突然の爆発。そして人々の悲鳴。
予期せぬ出来事の連続に何が起きてるのか。
全く状況が理解できない。
「うわっ!」
その間も新たな爆発音が轟く。
それも連続的に複数回。
同時に地鳴りが鳴り響き、人々の悲鳴が更に増す。
何がなんだか分からない。
だが只事ではない。それだけは理解できた。
音や悲鳴の出処は恐らく繁華街。
其処で何らか異常が発生したのは間違いないだろう。
爆発音の規模から考えると建物は倒壊。
同時に複数の死者も予想できる。
危険なのは間違いない。
どうしよう!
咄嗟の出来事で判断ができない。
逃げた方が良いのは分かる。
それは当然だ。
でも何処に?
状況が全く読めない今、何処が安全かも分からない。
逃げ先次第では状況が更に悪化する可能性だってある。
なら此処に留まり続けるか?
いや。それこそ危険だ。
爆発の衝撃により周辺建物の揺れも凄い。
下敷きになるのは時間の問題だ。
ではどうする?
必死に残された選択肢を考える。
やはり優先は状況の把握だろうか。
それが分からない限り。最善手を考えるのは無理だ。
そんな結論に至った訳だが。
怖い。とても怖いのだ。
いつ死ぬかわからない。
こんな経験は前世を含めても初めて。
どうしたって足が竦んでしまう。
でも。それでは駄目だ。
怯えているだけでは何も始まらない。
行動しなければ。
よし。
繁華街へ向かう覚悟を決める。
大丈夫。俺ならできる。
そして僅かな勇気を胸に一足を踏み出すのだった。
分かっていた事だが。
その道のりは険しかった。
くっ。
降り注ぐ瓦礫や粉塵を避けながら荒れた道を進む。
瓦礫や地割れにより足場は最悪。
踏み外したら最後。確実に足を捻るだろう。
慎重になる必要があるが、粉塵により視界が悪い。
クソ。
条件が悪すぎる。
だがそんな事は言ってられない。
進むしかないのだ。
ドンっ!
進むに連れて爆発音もかなり近くなった。
すでに繁華街は目と鼻の先だ。
そして。
ふぅ。
繁華街へ続く道へと到着。
一度立ち止まり、呼吸を整える。
この先で何が起きているのか。
恐らく悲惨な光景を目にする事になるだろう。
だがそれでも。必要な事なのだ。
念の為、ランタンの灯を消す。
暗闇の中では目立つからだ。
よし。
そして覚悟を決め。
繁華街へと足を踏み出すのだった。
その光景を目の当たりにした瞬間。
「うっ」
更なる絶望が俺を襲う。
視界に映る光景。
その全てが絶望だった。
瓦礫に押し潰された人。
胴体が真っ二つに切断された人。
手足が欠損した人
死体の横で泣き崩れる人。
ナンダコレ?
余りにも理不尽な光景に只々呆然とする。
何故こんな事になった?
先程まで全員楽しそうに騒いでいたじゃないか。
年に1度のお祭りで年齢性別も隔てなく。
なのに何故?言葉が出ない。
ゆっくり顔を動かすと。
その元凶共が目に入った。
人々を襲う鎧の集団。
剣を振り翳す者。魔道具を振るう者。飛竜に乗る者。
その全てが人々を蹂躙する。
なんだコイツらは。
疑問と同時に沸々と怒りが湧き上がる。
何故こんな事をするのか。
全く理解ができない。
街の人達が何をしたって言うんだ?
ただ普通に暮らしていただけじゃないか。
あまりの理不尽。そしてあまりの非道徳さ。
地獄絵図を前に立ち尽くす事しかできなかった。
そんな中。
ドンッ!
奴等の放った魔法が俺の頭上の建物に被弾。
ヤバい!
崩れて来た瓦礫を間一髪で躱す。
危なかった。
当たれば確実に死んでいた。
自分の反射神経に感謝する。
だが次。また避けれるとは限らない。
急いでこの場を離れないと。
当初の目的ーー現場の状況は把握できた。
此処に留まる理由はない。
恐らくだが奴等は人の多い場所を狙っている。
このまま裏道を抜けて街の外に出れば、無事に脱出できる確率も高いだろう。
よし。この後の動きは決まった。
なら善は急げだ。
こうして繁華街に別れを告げ、踵を返そうとした。
その時だった。
シクシク。
僅かだが。子供の泣き声が耳に入る。
なんだ?
慌てて足を止め、泣き声の先へ目線を移すと。
そこには1人の少年がいた。
恐らく歳は5つ程。
まだまだ小さい子供だ。
そんな子供が、瓦礫に潰された男性の腕を掴み、縋る様に泣いていた。
っ!
明確な事は分からないが。
何となく状況が理解できてしまう。
恐らく男性は少年の父。
先程の倒壊による瓦礫で押し潰されたのだろう。
惨い。惨すぎる。
だが感傷に浸る暇はない。時は一刻を争うのだ。
「逃げるよ!」
咄嗟に少年の腕を掴み、強引に連れて行く。
だって。こんなの放って置けないだろ。
「まってお父さんが!」
僅かに抵抗する少年。
父親の事が受け入れられないのだろう。
でも今はそんな事を言ってられない。
逃げる事が優先だ。
「待てない!そんな事言ってると君まで殺されちゃうよ!悲しいのは分かるけど今は逃げないと!」
「でも」
「でもじゃない!お父さんの分まで君が生きるの!分かった?」
「うん」
渋々といった様子で納得する少年。
よし。これで大丈夫だろう。
あとはひたすら逃げるだけだ。
「でも何処に逃げるの?」
「取り敢えず街を出て裏の森!」
先程の考察から。
人が密集して居らず、尚且つ隠れ易い場所が得策だと思う。
裏の森なら、その全ての条件に当て嵌まる。
逃げ場としてはベストだろう。
「分かった」
こうして少年と2人。
裏の森を目指して走り続けるのだった。
数分後。
何度か危険な場面もあったが、無事に目的の森へと辿り着く事ができた俺達。
膝に手を付き呼吸を整える。
到着して驚いたが、既に結構な人数が集まっていた。
やはり考える事が同じ人も多かった様だ。
ふぅ。
一息吐いた後、街を見る。
燃え盛る炎。崩れ行く建物の数々。
俺達の街が崩壊して行く。
本当に。何でこんな事に?
少し落ち着けたからこそ、その思いが再び芽生える。
鎧の集団。
奴らの正体はなんだ?それに本当の目的も。
考えてみるが見当も付かない。
だがそれも当然の事。
そもそも情勢や経済など。自分自身の知見が少な過ぎる。
お兄ちゃんやクレアさん。
屋敷の皆なら何か分かるかも知れないけど。
アレ?
そんな結論に至ったところで、ある事を思い出す。
それはクレアさんを初め。屋敷の皆んなについてだ。
屋敷の皆んなはどうなった?
自分の事に精一杯で完全に忘れていた。
まさか?
慌てて屋敷の方角を確認すると僅かだが火の手が見えた。
っ!
「おばさん!この子をお願い!」
「え、えぇ。分かったわ」
握っていた少年の手を近くのおばさんに預ける。
そして嫌な予感を胸に屋敷へ向けて走り出すのだった。
クレアさん!みんな!
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