第7話

 季節は夏。夏といえば海。


 そんな訳で今日は海に来た。



「うわっ〜。綺麗だねぇ〜」


「そうですね」



 雄大に広がる海を前に自然とそんな感想を述べる。

 此処は魔大陸の北西。

 真っ白な砂浜が人気の貴族/王族専用のプライベートビーチ。

 距離は馬車で1時間ほど。少々の長旅だった。



「本日はようこそお越しくださいました」



 腰を折って挨拶するのは、このビーチの管理人:ゼムロさん。

 この辺りの地域を治る領主様でもある。

 年齢は20歳。

 物腰低く感じるが、その実は若くして先代の跡を継いだ魔族切っての曲者だったりする。

 何でも敵と見做した相手には一切の容赦がないのだとか。



「ご招待頂きありがとうございました」



 そんな訳で真摯な対応を心掛ける。

 まぁ、忖度抜きにしても礼儀は大切だよね。



「ご丁寧にありがとうございます」



 柔和な笑みを浮かべるゼムロさん。

 うん。何だろう。その笑顔が不気味に感じるよ。



「では、本日は楽しんで行ってくださいね」


「はい」



 こうして。

 屋敷へ戻るゼムロさんを複雑な気持ちで見送るのだった。



 数分後。



「クレアさん!くらえ!」


「わっ。冷たいです姫様」



 早速、海へと移動した俺達は、浅瀬で水の掛け合いを行う。

 海と言えば定番中の定番だ。



「お返しです」


「わっ!やったな〜。この!」



 とても甘い時間が過ぎる。

 海で美女と2人。

 これぞ。前世では縁がなかった幻のリア充と言う奴ではないだろうか。


 改めてクレアさんを見る。本日は白ビキニだ。

 肌の露出面積が多く、とってもセクシー。


 そして何より目を引くのは、その大きな胸元。

 昼食用のスイカ(みたいなフルーツ)に引けを取らない大きさ。

 破壊力が凄まじく、男なら一撃で悩殺。


 女性的な魅力が凄い。


 前回、貴女の事を男かもと疑ってすみませんでした。


 対して俺は、全体的にフリルが施されたワンピース型の水着。

 露出が少なく全体的に可愛い印象。

 髪もなるべく濡れない様、お団子状に纏めてみた。

 これで海でも大丈夫。はい今日も可愛い。


 その後も水鉄砲やビーチボールなどで遊び。

 時刻はお昼を過ぎたところで。



「そろそろ昼食に致しましょうか」


「わかった!」



 休憩も兼ねて昼食とする事にした。



「本日は外出という事もあり、気合を入れて作って参りました」


「そうなの?ありがとう!」



 そう言われると楽しみだ。

 早速、クレアさんが用意したバスケット籠を開ける。



「わぁ。すごい!」



 中を確認してビックリ。

 そこには、サンドイッチや副菜など、様々な料理が隙間なく綺麗に並べられていた。



「どれも美味しそう!食べてもいい?」


「勿論です。お好きなのからどうぞ」


「わかった。じゃあコレ貰うね!」



 そう言って。

 卵と薄いお肉が挟まったサンドイッチを取り出し、口に含む。



「うん。美味しい!さすがクレアさん」


「お褒め頂きありがとうございます」



 どんな時でもクレアさんの料理は絶品だ。

 お世辞抜きで本当に美味しい。



「次はコレを食べてもいい?」


「はい。遠慮せずどうぞ」


「やった。貰うね〜」



 こうして次々と食べ進めていくのだった。



 そんな中。



「ん?」



 何やら視線を感じる事に気付いた。



「どうしました?」


「いや。何か視線を感じるな〜と思って」



 視線の正体を探る為、辺りを見渡すと。



「あっ。いた」



 生え揃った大きな木の陰に1人の少・女・を発見した。


 年は俺と同じくらいだろうか。

 肩口で切り揃えられたサラサラの髪に整った顔のパーツ。

 全体的に華奢な体格と色白な肌。


 かっ。可愛い。


 俺の可愛いセンサーが反応。

 すぐ様、令嬢スマイルを貼り付け接近する。



「何をしているのですか?」


「あっ、あ、あの」



 話し掛けられると思っていなかったのか。

 モジモジしながら慌てる少女。


 そんなところも可愛い。



「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」


「は、はい。すみません」


「ふふっ」



 緊張してるのかな?

 なんだか小動物みたいだ。ん〜可愛いな。


 って。そうじゃなくて。

 危うく話が逸れるところだったぜ。



「ところで貴女は?」



 てな訳で本題に移る。



「ぼ、僕はその、、」



 僕!?まさかの僕っ子だった。

 それは置いといて。


 俺の質問に対し自信がないのか尻窄みに声が小さくなる少女。


 声が小さくて上手く聞き取れない。

 ん?なんて言ってるんだ?



「ゼ、ゼムロ兄さんの、、その、、」


「あ〜。分かりました!」


「っ!」



 まだ言葉の途中だったが。

 ゼムロ兄さん。その単語で合点がいく。



「貴女はゼムロさんのご兄妹ですね?」


「は、はい。そうです」


「やっぱり!何となく似ていると思いましたわ!」



 予想が的中し、思わず嬉しくなる。


 やはり彼女はゼムロさんの妹さんだった。

 容姿も凄く似ているし、そうだと思ったんだよね〜。



「因みに年は幾つですか?」


「10歳です」


「では私と一緒ですね!」



 それも更に嬉しい。


 彼女の手を取り、思わずはしゃいでしまう。

 なんだか仲良く慣れる気配!



「良かったらこちらで一緒に食事しませんか?」



 てな訳で早速誘ってみた。



「い、いいんですか?」



 控えめに。だが嬉しそうに上目遣いで答える少女。



「勿論です!ねっ、クレアさん?」


「はい。勿論です」



 そんな訳で一緒に楽しく昼食を摂るのだった。


 昼食中、色々な話をした。


 因みに彼女の名はカイと言うらしい。

 意外と男っぽい名前だな〜と思う。


 昼食を機に仲良くなった事でその後も交流は続き。

 海やビーチで一通り遊んだ後。

 時刻は夜。



「本当に良いのですか?」


「えぇ、勿論です」



 カイちゃんの厚意でお風呂を借りる事になった。

 正直、海水や砂で汚れていた為、とても有り難い。



「こちらが脱衣所で奥が浴室となります」


「分かったわ。ありがとう」



 脱衣所の籠に着替えを入れる。



「では僕はこれで」


「あら?」



 ちょっと待って。

 出て行こうとするカイちゃんを慌てて止める。



「私が先に入っても良いのですか?」


「えぇ。勿論です」



 屈託のない笑顔で応えるカイちゃん。



「ですが此処はカイ様の私邸ですのに」


「構いません。むしろ客人を持て成すのは当然の事です」


「そうは仰りますが」



 気持ちは分かるんだけどさ。

 正直、気が引けるんだよね〜。


 海水や砂で汚れているのはカイちゃんだって同じ事。

 そんな中、自分だけ先に入浴するのはね。

 遊びにも誘った手前、罪悪感が凄い。



「あっ」



 そこで閃いた。



「良ければ私と一緒に入りませんか?」


「えっ?」



 驚きの表情を浮かべるカイちゃん。



「そうすればお互い直ぐに汚れを落とす事ができると思います」



 我ながら名案だと思う。

 だが。



「おっ、お断りします!」



 キッパリと断られた。

 え〜。



「何故ですか?とても良い提案だと思ったのですが」


「そ、それはそうかもですけど。で、でも、僕は、、」



 何やら言い難そうにモジモジするカイちゃん。

 急にどうしたのだろうか。



「そんな事言わずに一緒に入りましょう。ねっ?」



 更にブッシュしてみるが。



「い、いえ、僕は結構です!」



 そう言って。尚も抵抗を続ける。


 何故だろう。何かダメな理由でもあるのかな?

 さては恥ずかしいとか?でも本心は分からない。

 けどこれが名案なのは間違いないと思う。


 そんな訳で少々強気に出る。



「ダメです。貴女は私と一緒に入ります。これは命令です」


「そ、そんな事を、言われましても〜」


「もう一度言います。これは命令です」


「ひぇ〜」



 語気を強めながら歩み寄ると、益々萎縮する。


 なんだか煩わしくなってきたな。

 もういいや。

 この時間が勿体ないし、服を脱げば気持ちも変わるだろう。


 てな訳で強硬手段。



「それっ」



 カイちゃんのズボンを思いっきり下げる。



「っ!」



 赤面し、声にならない悲鳴を上げるカイちゃん。

 なに?そんなに恥ずかしかったの?



「何もそんなに恥ずかしがらなくとも良いの、、に、、?」



 アレ?


 言葉の途中で思わず声が止まる。


 何故か?

 その理由は俺の視線の先ーーカイちゃんのお股にある。


 本来なら何もない筈の空間。

 にも関わらず、そこには可愛らしいゾウさんが1匹いた。

 アレ?


 停止した思考が徐々に動き始める。

 お股のゾウさん。それは男性特有の所有物だ。

 前世では見慣れたモノ。

 つまりこの子は男・の・子・という事。


 その事実を認識したところで、一気に顔が熱くなる。



「きっ、、」



 そして。



「きゃぁーー!!!!!!」



 思わず悲鳴を上げてしまうのだった。



 数分後。



「ほっ、本当に申し訳ございませんでした!」



 謝辞を述べながら頭を下げる。


 あの後。

 俺の悲鳴を聞き、駆け付けたクレアさん達が目にしたのは、下半身を露出し赤面するカイちゃんーー改めカイくんと、そんな彼の下腹部前で彼のズボンを両手に停止する俺の姿。


 直ぐに事情を説明した為、変な誤解は生まれなかったのだが。


 気まずい。非常に気まずいのだ。


 知らなかったとは言え、とんでもない事をしてしまった。

 大失態だ。

 真っ赤になりながら俯くカイくん。

 恐らく俺の顔もまだ赤いだろう。


 漫画やラノベ等では定番のラッキースケベ。

 それをまさか実行してしまうとは。

 しかも男女逆で。


 確かに。今までの会話の中でカイくんの性別について触れた事はなかった。

 俺が勝手に女の子だと思い込んでいた。

 成長期前の男の子は中性的な容姿も多い。

 次からは気を付けよう。



「あ〜。えっと、その、ですね、、」



 何か喋ろうとするが、上手く言葉が出ない。

 それに彼の顔もまともに見れない。


 なんで?


 分からない。

 それに先程は悲鳴も上げてしまった。

 前世では見慣れたモノの筈なのに。


 体に引っ張られているのか?

 分からない。でもそうでなくては説明が付かない。



「あっ、あの」



 そんな時、カイくんから声が掛かった。



「は、はい」


「先程は申し訳ございませんでした」



 そして何故か謝罪される。



「何故、貴方が謝るのですか?」



 だって悪いのは完全に俺だ。



「僕だって。姫様が僕を女の子だと勘違いしている事には薄々気付いていました。それなのに訂正しなかったのは僕の落ち度です」


「いえ。それについても勝手に勘違いしていたのは私なので」


「そんな事はありません!」



 真剣な表情のカイくん。その目で分かった。

 なるほど。

 彼もまた罪悪感を感じているという事か。

 本気で防ごうと思えば防げたって。


 確かに逆の立場なら同じ事を思うかもしれないな。



「ではこうしましょう。今回はお互いに落ち度があったと言う事で綺麗さっぱり水に流す。それで如何でしょうか?」


「勿論です。それが良いです」



 笑みを浮かべるカイくん。

 うん。確かにこれが一番良いかもね。

 良い落とし所だと思う。


 でも最後にケジメは付けたいんだ。



「ですが最後にもう一度だけ謝らせてください。今回の事は申し訳ございませんでした」


「こちらこそ。申し訳ございませんでした」



 改めて謝罪する2人。


 そして。

 頭を上げ、顔を見合わせると、お互いに自然と笑みが溢れた。

 よし。これで後腐れもなしだね。


 周りの大人達も安心した顔をしていた。



「よし。これで終わりです」


「はい!」


「これからもお友達でいましょうね。カイくん」


「はい姫様!こちらこそよろしくお願いします!」



 こうして海での楽しい1日は終わりを迎えるのだった。

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