第4話

 よし。今日も可愛い。



 姿見に写る自身を見ながら、胸の内で今日も唱える。


 今日はピンクでフリフリな甘々コーデ。

 ドレスに施された花柄のレースと、リボンの髪飾りがポイント。


 如何にもお姫様って感じでとってもチャーミングだ。

 まぁ。本当のお姫様なんだけどね。



「クレアさん。今日もありがとう」


「はい」



 姿見の前でクルリと回転しながら今日も感謝を伝える。


 此処までが何時ものやり取り。

 毎朝の日課なのだが。


 アレ?


 今日は普段と異なり、不思議な違和感を覚えた。

 なんだろう。

 言葉では表せない漠然とした違和感。


 だが、その違和感の出所は紛れもなくクレアさんだ。


 改めてクレアさんを確認する。

 視界に写った彼女は何時も通りのエプロンドレス。

 にも関わらず今日は一段と色気を感じる。


 何故だ?


 違和感の正体を突き止める為、入念に確認すると。

 分かった!

 1つの事実に気付いた。


 それはクレアさんのメイクだ。

 普段はメイドさんと言う事もあり、ナチュラルで落ち着いた雰囲気に纏めているクレアさん。

 だが今日は違う。

 全体的にクッキリとした主張が強めなメイク。

 ケバケバしい訳ではないが普段の彼女とは印象が異なる。


 そう。全体的に気合いを感じるのだ。

 この気合いの入れ様。

 もしかして外出?さてはデート?キャーッ!


 てな訳で妄想ばかりが膨らむので。



「クレアさん。今日はどこかに出掛けるの?」



 どストレートに尋ねてみると。



「はい。今日は姫様とメリル様の面会日になります」


「あっ!!」



 俺が完全に忘れていた予定を、淡々とした口調で告げるのだった。


 そうだったーー!!



 メリルちゃん。

 この辺りの地域を治めるアストラ伯爵の1人娘。

 年齢は俺と同じ10歳。

 ブロンドの髪と小柄且つ華奢な容姿が魅力的。

 優しくて物腰も柔らかな小動物系の美少女だ。


 彼女とは幼い頃からの友人で大の仲良し。

 こうして時折時間を見つけては、定期的に面会しているのだった。



「今日はメリルちゃんが来るんだっけ?」


「いいえ。訪問の予定です」


「そっか!じゃあ急いで準備しないとね!」


「はい」


 クレアさんの一言で大事な約束を思い出したところで、遅れた時間を取り戻せる様、急いで身支度を整える。

 そして数分後。準備は完了。



「可愛い?」


「はい。勿論です」


「よし。なら行こっか!」


「はい」



 馬車内で最終チェックを行った後。

 アストラ伯邸へと出発するのだった。



 アストラ伯邸までは歩ける距離なのだが。

 王族としての建前もあり、馬車で移動する。


 その道中。



「あっ!あのお店に寄って!」


「かしこまりました」



 偶然見つけた雑貨屋さんで馬車を止めて貰う。


 時間がないのに何故?と思うかもしれない。

 だがこれには正当な理由がある。


 今から購入するのはメリルちゃんへの手土産。

 つまりは招待に対するお礼なのだ。


 こと貴族社会に於いては、ゲスト側がホスト側に手土産を渡すのが通例となっている。

 貴族社会のマナーって奴だね。

 今回は俺がゲスト側。

 その為、ホスト側に対する手土産が必要なのだ。



「どれが良いかな?」


「そうですね」



 てな訳で早速。

 棚に陳列した手拭いを前にクレアさんと悩む。


 どれも色や刺繍が可愛くて甲乙付け難い。

 え〜。どうしよう。

 こんな時、優柔不断なので困る。



「あっ!」



 そんな中。

 運命にも似た導きで、ある手拭いに目を奪われた。



「これはどうかな!」



 その出会いに嬉しくなり。

 早速クレアさんへ提案する。



「確かに良いと思います」


「でしょ!」



 俺の運命の手拭い。


 ハッキリ言って柄は他の手拭いと一緒だ。

 だが何よりも目を引いたのは色。


 メリルちゃんの髪色とそっくりなのだ!



「メリル様の髪色と似ていますね」


「だよね!」



 そこがポイントなのだ!

 それに大前提で柄も可愛い。我ながら完璧な選択だと思う。



「よし。これにする!」


「かしこまりました」



 可愛くラッピングして貰い、受け取る。

 こうして無事、手土産も用意できたところで、メリルちゃんが待つアストラ伯邸へと急ぐのだった。



 時刻は過ぎ。場所はアストラ伯邸。



「お久しぶりです。リリィ様」


「はい。お久しぶりです。メリル様」



 カーテシーで出迎えてくれたメリルちゃんに対し、同じくカーテシーで返す。


 道中かなり焦ったが。

 まずは無事にアストラ伯邸へと辿り着く事ができた。


 久しぶりに顔を合わせたメリルちゃん。

 相変わらず最上級に可愛いかった。


 サラサラのブロンド髪に整った顔立ち。

 小動物を連想させる小柄且つ華奢な体型。

 水色のドレスも相まってとってもキュートだ。


 メリルちゃん!今日も可愛いよ〜。

 アイドルだよ〜。(?)


 絶賛メリルちゃんに見惚れ中だが。

 固まっていては始まらない為、彼女の案内で庭園にあるパラソル付きのテーブルへと移動した。

 そして。



「今日はとても良い天気ですね」


「そうですね」



 それぞれのメイドに紅茶とお菓子を用意して貰った後。

 ぎこちない会話でお茶会がスタートした。


 何を言ってるんだ俺は。


 久々の面会の為、至極どうでも良い事を口にする。

 駄目だ!

 てな訳で早速の話題変更。



「改めまして。本日はお招き頂きありがとうございました。こちらはメリル様への手土産です」



 自慢の手土産を渡しつつ、改めてお礼を述べる。

 よし。仕切り直しだ!



「わ〜っ。ありがとうございます」



 作戦は成功。

 見事、場を盛り上げる事に成功した。

 流石は俺。



「開けてみても良いですか?」


「勿論です」



 破かない様、丁寧に包みを剥がしていくメリルちゃん。

 なんだろう。

 そのちょっとした仕草にも洗礼された気品を感じる。


 何と言うかカッコ可愛いのだ。

 これがギャップ萌えという奴なのか。(?)


 数秒後。綺麗に包みを開封。

 そして中身の手拭いを広げると。



「わぁ。とても可愛いです」



 嬉しそうに喜ぶのだった。

 よし!やったぜ!


 だがそんな糠喜びも束の間。



「もしかして、、、手拭いですか?」



 俯くと同時に徐々に声が小さくなるメリルちゃん。


 ん?なになに?急にどうした?


 突然の反応の変化に動揺が止まらない。


 もしかして手拭いは嫌だったのか?

 いっぱい持ってるからとか?


 その理由は一切考えていなかった。

 だとしたら大失態だ〜。


 嫌な思考ばかりが募り徐々に落ち込む。

 そうだよね。要らないよね、、、。


 だがそんな俺の不安を払拭するかの如く。

 一瞬にしてメリルちゃんの表情に笑顔が戻ると。



「お花の刺繍も相まってとても可愛いです!ありがとうございました!」



 嬉々とした様子でお礼を述べるのだった。


 えっ?嬉しいの?

 本当に?


 沈んでいた気持ちが少しずつ回復する。


 そして改めてメリルちゃんの表情を見て分かった。

 どうやら心の底から喜んでくれている様だ。


 良かった〜。本当に良かった〜。

 最悪は買い直しも考えて、本気で凹んでいたのだ。

 だってメリルちゃんに嫌われたくないんだもん。

 俺の事を好きでいて欲しいんだもん。


 そんな感じに安心していると。



「実は私も渡したい物があるんです」



 え?


 そう言って。

 今度はメリルちゃんが小包を用意したのだった。



「私にですか?」


「はい」



 何故?WHY?



「良いんですか?」



「はい勿論。受け取ってください」



 満面の笑みのメリルちゃん。


 なんで。俺ゲスト側だよ?

 全く理由が分からない。


 だが純粋な好意の可能性もある。

 好きな人にプレゼントしたい気持ちは、何処の世界でも同じだよね。



「ありがとうございます」



 てな訳で有り難く受け取る。


 何が入っているのだろうか。

 持った感じは意外と軽いぞ。

 それこそ。先ほど俺が渡した手拭いぐらいだ。


 そして見覚えのある包みを剥がしながら開封して行く。


 その間。満面の笑みで俺の手元を見つめるメリルちゃん。


 てかあの笑顔。絶対に何かあると思うんだよな〜。

 この中身。一体何が入っているんだ?


 不思議に思いながらも開封が完了。

 ドキドキしながら中身を確認すると。



「わぁ!手拭いですか!」



 見てびっくり!

 中には俺の手土産と同様。手拭いが入っていたのだ。



「しかも私の髪色と同じ色の!」


「そうなんです!」



 更には色の選び方も一緒。

 凄い偶然。完全に一致だった。



「なので先程はとても驚きました。まさか同じ事を考えていたとは」


「本当。すごい偶然ですね」


 今なら先程の反応も頷ける。

 要は驚いていたのだろう。


 離れていても気が通じ合うとは、まさにこの事。

 流石はマイベストフレンド。大好きだよ〜。



「嬉しいです。ありがとうございました」


「はいこちらこそ。リリィ様にはいつもお世話になっておりますので、これはその気持ちです」



 なんていい娘なんだ。流石は俺の嫁。

 ずっと一緒にいようね〜。

 心の中で勝手に嫁認定しながらも。


 お互い。自然と笑みが溢れるのだった。



 そこから会話は一気に弾み。

 話題は趣味や兄弟。そして恋愛話へと発展した。


 中でも1番の話題はメリルちゃんの兄についてだ。

 どうやら近々、メリルちゃんの兄が一時的に帝都へ引っ越すらしい。

 何でも俺の兄ーーギル兄の公務をサポートするのだとか。


 やがては家督を継ぐ為に戻ってくるみたいだけど、俺と同じく兄っ子だったメリルちゃんにとっては、とてもショッキングな出来事なのだとか。


 分かる。分かるぜその気持ち。


 その他にも。

 誰々と誰々が結婚するだとか。

 最近新しいお花を育て始めただとか。

 もうすぐお祭りだねだとか。


 盛り上がっている間にも、あっという間に時間は過ぎ。



「では。そろそろお開きに致しましょうか」


「そうですね」



 気付けば夕暮れ時。帰宅の時間になっていた。



「今日はありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました。とても楽しかったです」



 名残惜しくも別れの挨拶を交わす。



「次はぜひ我が家へ遊びに来てくださいね」


「はい。お願いいたします」


「絶対にですよ」


「はい」



 そして次の約束も交わしたところで別れを告げ。



「それではまた。ごきげんよう」


「はい。ごきげんよう」



 馬車で帰路に着くのだった。


 今日はとても楽しかった。早くまた会いたいな。

 そんな感想を抱きながら帰り道。



「今日は楽しかったよ〜」


「それは良かったですね」



 クレアさんに頭を撫でられながら、膝でうたた寝してしまったのは恥ずかしいので秘密だ。

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