第14話 ラウンドエックスの恐るべき野望?

 初期同期テストは、トラブルによるシステムダウンで終わったが、それは春香専用にチューニングが進んでいたAIアシスタントのアナちゃんのせいであった。


「おいアナキン何とかなるって信じていいんだよな?」


『もちろんですわ、それよりPCも再起動しましたし、明日のテストに支障ないか別のゲームでもやってみたらいかがですか』


「それもそうだな、じゃあ、あれ頼むわ」


『了解でございます』


 アナちゃんのアシストにより春香は特に何をするでもなく、ただテスト用のガジェットを装着するとお気に入りの世界へ降り立った。


「よう、おまいら今どこにいる?」


 リンクピアスを使い、この世界で仲間となったプレイヤーに呼びかけた。


「よう春樹じゃねえか、ルミンサの競売前だけど」


「わかった、ヒヨそこを動くんじゃねえぞ」


 テレポートを使った春香(春樹)はヒヨのいる競売までたどり着いた。


「春樹、俺忙しいんだけどさ、今週のDM(ダンジョンマッチング)まだこなしてねえんだよな」


「そか、じゃあヒヨ、俺も行くわ、ちょいと試してみたいんでさ」


「試すって何をだよ。春樹、何かたくらんでね?」


「実はさ、例のテストセンターにいるんだけどさ‥‥‥」


 春香はセンターで貸与され物で今装着しているガジェットの性能について、自慢げに語るのであった。


「そんでさ、すげえんだぜ『おいアナキン』とか言うとアシスタントが出てくるんだ。」


 春香がそう言うと競売周辺は時間が止まり、一瞬暗転しかと思うその後‥‥‥


『ぴんぴろりーん』


『は~いアナちゃんでーす。お呼びですか?』


「げげっ、何だこれ、こんな種族見たことねえぞ」


 ヒヨが驚くのも当然であった。なにせアナちゃんはこのゲームに実装されていないキャラクラーなのだから。


「おいヒヨ、お前にも見えるんか、このアナキンが」


「ああ、これってもしかして例の開発中のやつと関係ある?」


『お二人さん、そんなにビックリしなくても良いじゃありませんか。同じ会社のゲームですもん、連携できてもおかしくないでしょ、うんうん』


「おかしいよ、こんなん有っていいのかよ。鯖が吹き飛んだらどうすんの」


『大丈夫だよ多分、だって今何ともないじゃん』


 ヒヨは「触らぬ神に祟りなし」とでも言いたげな様子で、苦笑いすると後ずさりし始めた。


「春樹、俺一人でDM行ってくるわ、じゃあな」


 そして、彼は《ぷっしゅう~》とか音を立てて消えていった。


『ご主人様、アナをお呼びになったのには、何か御用があったからじゃありませんか?』


「ねえよ、まさか出てくるとは思わんかったし、ゲームパッド無しのハンドジェスチャーだけでプレイする練習しようと思ったんだけど、もういいわ」


『そんなこと言わないで、ダンジョンへ行きましょう。ちちんぷいぷい、ぱんぴれぷ~!』


「なんだよそれ、イカれちまったの……」


 春香の言葉も空しく、春香専用のインスタンスダンジョンが作成されると『シャキーン』とかいってダンジョンへ飛ばされた。アナちゃん含むAIのNPC3人と春香はクリア目指して進んでゆくが、何しろハンドジェスチャーで、かつ、ゲームパッド無しの縛りプレイなのでハチャメチャな進行となってしまった。そして、ラスボスで超ピンチにおちいるとアナちゃんの生成したヘンテコ魔法が爆裂した。すると、その想像を絶する威力はインスタンスごと破壊してしまい、春香たちPTはダンジョン外へ放り出されてしまった。もちろんダンジョンでの経験値や報酬も吹き飛んだのは言うまでもない。まあ、まとめるとこんな感じでした。


   ◇◇◇


 その頃、このゲームの運営チームでは。


「推田さんちょいと来てもらえますか」


第○開発事業部の責任者でもある推田は、現在開発中のゲームではなく現行運営中のゲームのコントロールセンターへ連れてこられたのだ。


「ついさっき、とあるユーザーがプレイ中のインスタンスが、クラッシュしたのを確認したんですけど、このゲームには仕様の無いキャラや魔法が検出されているんですよ。どう思います?」


「なるほど、そう言うこともありうるのか。川元どうだ」


 推田に追従してきたAI関連チーフプログラマーの川元は、右手を顎に当てながらこう答えた。


「推田さん、例のAIはぼくが思った以上の性能ですね。どうやら開発中のテストユーザーだけのインスタンスだったから鯖落ちは無かったのが幸いでした。AIの思考ベクトルを調整しないといけないようです」


「そうか、ならそうしてくれ。今開発中の物はゲームというくくりを越えた巨大なプロジェクトとなっている。失敗もあろうが何としても成功せねばならぬ、わが社、いや我が国の未来がかかっている。頼んだぞ」


 何とも怪し気は開発チームであるが、その情熱は、ブー太君や川元だけではなかったようだ。


   ◇◇◇


 場面は変わり某ゲーム内の競売前に戻りました。


 『ご主人様、申し訳ありませんでした。つい楽しくなってしまいまして』


「あそこで何であんな魔法唱えるんだよ。あの状況からしたら、どう考えたってダンジョン事吹き飛んじまってるだろ、JK」


『アナはなんだか来てしまいまして、オルテマを超える超究極魔法ちょおきゅうきょくまほうをと思いましてですね、ついつい』


「確かに超えてるよ、お・る・て・ま。もういいわ』


『ごめんなさい、ごめんなさい』


 アナちゃんは、しょんぼりと体を縮め、まるで犬のお座りのような恰好をして両耳を伏せていた。


「おい、そんに小さくならなくてもいいぞ、結構楽しかったからな」


『そうですかあ、次も頑張ります』


「いや、あんま頑張らなくてもいいぞ」


 このような春香との会話が、AIのアナちゃんを育てていることに、この時は知る由もなかった。そしてこの日PCを落とした春香は、明日のテストに備えて眠りについたのであった。


 翌日


 《ちゃららら、らら、ちゃらら、ちゃらら、ちゃららら……》

 つけてもいないPCが立ち上がり、なにやら『朝の気分』が流れてきた。すると、


 『ご主人さまあ~、朝ですよ~』


 いつの間にか春香の使い魔にでもなった勢いで、アナちゃんが現れたのだ。


「うん? なんだよ起こしてくれとか頼んでねえぞ」


『ですよね~。でも、言われなくても気を利かせるのがアシスタントの役目なんですよ。なのです。』


「ったく、しょうがねえなあ~」


『本日はメインクエストのコンプと、次のクエストを発生させてそれをクリアするまでが予定となっています』


「昨日も言ったけど、大丈夫なんだろうな」


『もちの論でっす~』


「それで、次のクエストクリアしたら次どうなるの?」


『はい、今回計画されたテストは終了ですね~。頑張りまっしょい』


「わかった、ちょいと顔洗ってくるは」


 春香は昨日のテストを思い出しながら、何やらぶつぶつ不満やら何やらを吐き出しながら洗顔を終え、食堂に用意された朝食を戴きに部屋を出ていった。


「やっぱ日本人たるもの、朝飯はみそ汁と生卵に沢庵やろ」


 などとバイキング形式のメニューから、春香がお目当ての物をトレイに乗せてテーブルまで足を進めていると、向こうからヤジにも似た声が飛んできた。


「あれあれ、なにやら低級庶民的な餌が運ばれてくるのが見えますわ、あれってG(omi)コースの…」


「なんだあ、大きなお世話だっちゅうの…」


 春香はヤジの飛んでくる方向へ振り向くと、のどを詰まらせた。


(わっ! めんどくせえ、くそアマじゃねえか、関わらんとこ)


「つか、これってGコース指定何で、へへへ、へへ」


「お似合いですわね、G(omi)コースのテスト、せいぜい頑張ってくださいね」


 春香はクッソまずい朝飯をかっこむと、部屋へ戻ってきた。


『ご主人様、どうかされましたか? 』


「ご主人様ってやめてくれる、春ちゃんの方がましだ。それにしてもあのくそアマ、どうしてくれようか」


『その方(くそアマ)って、Sコースの植杉様の事ですね』


「なんで分かるんだよ」


『はい、テストセンター内には防犯カメラがありましてですね…」


「わかったもういい、大体想像つくから」


『さすが春ちゃんです、Gコースに選ばれるだけの事はありますね、うんうん』


「で、テストは何時からだっけ?」


『もうすぐですよ~、その前にアナちゃんが特別な準備をしておきますから、楽しみにしててくださいね~』


 と言うと、プツンとランプが消えるようにアナちゃんは姿をけした。


「特別ってなんだ、これまでの状況から考えるとヤな予感しかしないぞ」


   ◇◇◇


場面はゲーム内の五十子陣。


《ちゃんちゃら~ちゃーちゃ、ちゃっちゃら~、ぴrっぴろりろり~ッ》

 大分遅れてやって来た、クリア完了のファンファーレと共に朝がやって来た。


義兄上あにうえ(景春のこと)、ぼくは思うんですよ。松陰しょういん様のお考えになっている、岩松持国いわまつもちくに様をたぶらかすってやつ、何とか協力して成し遂げましょう」


 景春の義弟となった長野五郎は、どうやらこの事を昨晩から思案していた結果、答えを出してきたようだ。


「五郎がせっかく考えたことだから任せようと思うが、で、どうするんだ?」


『それなんですけど大人数だとまずいんで、義兄上とぼくの二人でこっそり松陰様の所へ行きましょう』


「わかった、それなら準備出来次第に単独で抜け出し、馬小屋のとこで落ち合おう」


 景春と五郎は計画通り八木原たちの目を盗んで、馬小屋の物陰までやって来た。


「義兄上どうやらうまくいったようですね」


「そうだな、それじゃあ五郎、増国寺ぞうこくじへまいろうか、なんちゃって」


 そう言って二人が歩き出そうとすると、突然物陰から行く手を阻む影が現れた。


「春ちゃん、このおタマ様をおいて、どこへ出かけるつもりにゃ?」


「うわっ、おタマ大きな声を出すなよ、何でここにいることが分かったんだ」


「このアタイが地獄耳だってこと、しらにゃい分け? おぼいおぼえといてよね」


 どうやら景春・五郎・おタマの3人での冒険が始まる事になってしまったようだ。

増国寺の裏口から覗き込むように寺内を見渡すと「ダイジョブにゃ」とおタマの猫招きを合図に門をくぐる一行は、忍び足で本堂の方へ向かう予定であったが、「何か御用ですか?」と声をかけられた。どうやら忍び足は無駄だったようである。


「はい、裏門から忍び込むようなことをしてすみません、これには訳がありまして……」


 五郎は身分を伏せて、自分たちが白井長尾家の者だとだけ告げて、景春から受け取った家紋の入った脇差を差し出し、松陰様と内密に話がしたことを申し出た。


「確かにここにある紋、板倉巴紋いたくらともえは長尾家の物、どうぞこちらへ」


 本堂端の板の間へ案内された景春たちは、松陰が来るのを待っていた。


「五郎、これからどうするつもりだ」


「義兄様、お話した通り、はかりごとのお手伝いをしたいと素直に申し出るのです。昨日松陰様は義兄上をご覧になると、何か含みのある笑みを浮かべておりました。それがどうしてかは分かりませんが、きっと吉と出るに相違ありません」


「相違ないにゃあ」


 おタマの相槌はあまり宛にならないが「ここは五郎を信じることにしよう」と呟く景春であったが、はてさてどうなることやら……


つづく










   








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