第3話 このアマだけは絶対! ブタもな

 さて、仮病のカウンセリングのため、施設へ行く当日に車のカギが無いと慌てる主人公春香は、母かえでの待つキッチンへ向かっていた。


「ちい、ちい……。ちゃぁ~ん」


 はあはあと、そんなに息を切らせて走るほどの、事ではないはずであった。


「春香、そんなに慌ててどうしたの、今日はカウンセリングへ行く日でしょ。早くお仕度しなきゃダメですよ」


「そお、なんだ、け、ど」


「けど、どうしたの、そんなに息を切らせて」


「私のカ、ギが(ふうぅ)、見つからないの」


「あら、言わなかったかしら? 春香の車は定期点検出だしといたのよ。ついさっきディーラーの方が持って行ってくれたところよ」


「えええぇ、なんでぇえ、今日センター(エックスの)へ行く日じゃんか」


「春香、そういった施設(カウンセリング)へ入所する時はね、タクシーで行くか家族に送って行ってもらうのが常識よ、施設の駐車場にも限りがあるでしょ」


「じゃあいいわよ、タクシー呼ぶから(やばい、お小遣いが)」


「景介、あなた今日休みだったわよね」


「母さん、なんだよ急に、ああそうだよ、たまたまね。で、なに?」


「話聞いてなかったの、お姉ちゃんを施設まで送って行ってあげて」


「えええぇ、なんで俺が」


「春香はさっきタクシー呼ぶって言ってたから、その分とは言わないまでも、料金の半分くらい貰えばいいじゃない。景介って万年金欠なんでしょ」


「あ! そおかぁ、それなら行くよ。姉貴さっさと支度しろよな」


「黙って聞いてりゃ、何でそうなるのよ。さっさと支度とか、何様のつもり」


「ご、ごめんなさい、春香お姉さま、お車準備してお待ちしておりますので、お支度が整いましたらお越しくださいませ。(しゃあねえな、ここは我慢だ)」


「あらそ、わかったわ、それならあんたの任せるわ。(ちっ、仕方ねえ、だがどうやってばれねえよう切り抜けてやろうか)」


   ◇◇◇


  ぶるるる・るるぅ~~ (すでに乗車中)


 なんだか、へんてこりんな排気音と共に、エックスのテストセンターへ向かう姉弟であった。


「姉貴、この道なんかちげくねえかあ?」


「いいの、ほらあの信号の先にある、看板のところを左に曲がって」


「おk了解丸」


「それよか景介、あんたいつ免許取ったの?」


「知らなかったのかよ、つうか無免の弟に運転させるつもりだったのか。高校卒業後に免許取得合宿でとったんだ、いっぱつでな」


「そうだったの・・・あ! ほらそこそこ、そこ曲がって」


「あいよ、それで次は?」


「あっちにも看板出てるでしょ、『〇〇研究所はこちら』とか」


 他愛もない姉弟の会話はこの位にして、場面は現地へ。


「景介、荷物大事に扱ってよね」


「わあぁったよ、で、なにこれ『〇〇研究所魔導転送技術開発センター』って、どゆこと?」


「いいのいいの、この施設内にあるのよ、あ! 受け付けはあっちか」


「姉貴、もういいだろこの辺で。ところでお代金は〇〇になりまあす」


「たっか、もっと負けなさいよ」


「あのですね~、このみょうちくりんなですね、『〇〇研究所魔導転送技術開発センター』まで来るのにだいぶですねえ、手間がかかったわけですよ(マジ怪しい)」


「なにその目(やばい、ばれそうだ、つかばれてる)、今回は特別よ、ほらっ」


「まいどありがとうございやす、それでは、お体お大事になすってくだせえ、ほいじゃ」


   ◇◇◇


ごろごろごろ、春香はキャリーバッグを引きずりながら受付へ到着しました。


「いらっしゃいませ、当選者の方ですか?」


「はい、先日テスター当選の通知を受けたものです」


「さようでございますか、それではこの画面にIDとパスワードをお願いします」


 といって、エックスのゲームキャラのコスプレをする受付嬢は、タブレットを差し出してきた。


「ええと、なんだったっけ、そうそう」


ID   :h4ruk4

Password:********


といいつつ、ごそごそとメモを取り出して確認すると画面入力を終えました。


「ぽちっとな」


「音声認識の必要は、ありませんわ」


 などとサポートしてくるうさ耳の受付嬢にイラっとする様子の春香であった。


「・・・・(うるせえ、くせだよ、つか、なんだよ、そのあざとい垂れたうさ耳わ、ここはコスプレ喫茶か)」


「ユーザー確認できました、お客様はGコースになります」


「そうですか、他にはどんなコースがあるんですか?」


「ええとですね」


 といい、タブレットを操作して解説するうさ耳の受付嬢は、引き続きタブレットの画面を差し出してきた。


Sコース:なんたら極上へけもけ

Aコース:それなりさんたち、へけ

Bコース:必須スキル持ちとりあえず組

Gコース:まああれだ(gomi)以下略


「なんすかこれ、じいおおえむあいって」


「それは、あはは、応募ユーザー様の弊社ゲームにおけるプレイスタイルを、AIが判定して振り分けたコースでして、今回のテストにはもっとも必要(無い)な方々ですの」


「そうですか、わかりました(納得いかねえなあ)」


「これからは、ロビーに設置してあります、当該コースの誘導に従ってお進みください。テスト頑張ってくださいね」


 ぺこりと垂れ下がるうさ耳の下から、こらえきれない笑みを隠そうともしないプークスがもれる。すると、ロビーから春香に近寄る影があった。


「ちょっとあんた、さっき追い越した、だっせえ車に乗ってたやつじゃん」

 

 影の言うとおり、来る途中のバイパスで、ものすごい勢いで、しかもそれを上回る、ものすごくいかれた車の助手席から「遅せんだよ、ばあぁか」っつうがんを垂れてきたと、春香の思うところであろう、くそアマの登場であった。


「なんかいった? 空耳かしら、いるのよねえ、ギャアギャアわめくだけのモブが」


「ああ、そうかそうか、そちらさんは、このセンターへゴミを回収に来た清掃局の方ね、だったらGコースへ急いだほうがいいわ。余計なお世話だったかしら、ごめんなさあい」


 うさ耳受付嬢よりもあざとかった。


「ふんっ」


 これは擬音だよ、春香が何にも聞こえなーいバリアはったところだ。


 なんか、今後の展開に影響を及ぼすライバルの登場を予感する、出来事のシーンと思わせることも、無くなく無くなくは無い。どっちでもええやん、ただの勢い。


   ◇◇◇


 ここで少し、弟景介の場面をみてみよう。


「これで何とか資金がたまったな、姉貴ありがとなあ」


「お客様、もうおかえりですか?」


「いや、当選者の姉を送ってきただけで、その帰りです」


「そうですか、それでは当施設のパンフレットです。まだ未発表のものですがご家族様の協力も必要ですので、ひととおりご覧いただけると助かります。どうぞ」


「ああ、そうですか、わかりました。ありがとうございます」


 車に乗り込み、パンフレットをのぞき込むこと数分ののちだった。


「なになに、ラウンドエックスの誇るフルダイブ没入型OPW・RPGベータテストへの後参加まことにありがとうございます、だあ?」


 OPW(おーぷんわーるど)・RPG(ろーるぷれいんぐげえむ)一応解説な、それとローンチ(立ち上げ)後にはネットでの協力プレイも実装予定とあった。


 どうやら、うすうす勘づいてはいたが、ここに確信を持つ景介であった。


「今ここに、最強の俺さま専用ATMゲッツ」


 どっかで聞いたことがあるようなセリフであるが、姉からちびちび小遣いをせびるネタを取得したという事だったのであろう、しらんけど。


   ◇◇◇


 場面がたびたび変わるが、すまん、こういう流れで進むんだ。もう気づいてる、あっそう、ありがとう。つうことでGコースへ向かう春香を見てゆこう。


 「あのアマ覚えてろよ、インであったら容赦しぁあしねえからな」


 と、ひとり言をぶつぶついいながら案内通りに進み、扉を開けるとブタさんの着ぐるみを着たブタがたっている。ブタをダブって言っちまったようだ、まあいいや。これもエックスのキャラだろうか、Gコースに何故かマッチしていると思うのは俺(ナレーター)だけだろうか…‥‥


 「G(omi)コースのお客様でいらっしゃいますか?」


「ああ、そうだけど、なにか?(つか、なにそのかっこ?)」


「受付でお渡ししたプレートを、付けていただいていれば、お手間をおかけせずに済んだのですが、お見せいただけますか?」


「ああ、これか、わりいわりい」


 春香は、さっきしまったプレートを、再び取り出して見せた。


「確認いたしました、ありがとうございます、それではこの通路の先を左へ曲がりますと、53番のプレートがかかった仮説ブースがありますので、そちらへお入りください。少し狭いですがお客様専用となっておりますから、ごゆっくりなさってください(ぶぶぶw)」


「ご丁寧にありがとん。(聞こえてるぞ、ぶぶぶって豚だから当然てか、くそが)」


 53番の扉のノブを回すと春香の目の前には、寝起きするのに必要最低限の用具とゲームに必要なテーブル、イスなど、上質な設備が整えられていた。


「なにこれ、わたしプロにでもなったのかしら」


 らしくない言いかたをよそに、館内放送があった。

 ぴんぽんぽんぽーん「弊社開発中のテストへご参加の皆様、本日〇〇時よりガジェットの初期テストを行いますので、各部屋に備え付けの解説書をご覧いただき、準備のほどよろしくお願いします。くりかえします・・・(以下略)」


「なになに、このイカツいトップガンかい、つう位のメット被るってわけね」


 嬉しそうに被る春香は、ゲーマー御用達ふうの椅子に腰を下ろした。するとシュルルーとか、するかしないかスレスレの音と共に腰回りがつつみこまれていった。


「なになに、え! いいじゃんこれ、なんか楽だわ。動きずれーかと思ったけど、ホールドされてる部分はそのままで、他の支えてる椅子の構造全体が追従してくるわ。これすげ~」


 続けて指示通りに、手足にガジェットを装着して、メットをかぶった、というよりまるでロボットアニメに出てくる、コクピットにのり込んだパイロットのようだ。


きゅいいいいいい~~ん、まるでジェット戦闘機の起動を思わせるような音が、ヘッドセットに心地よく響く。


『メインシステムスタンバイ、マスター本日の予定は?』


「え! なんか言ってきたぞ」


『はい、私、春香様にお仕えする《アナ》と申しまして、アナクンでもアナキンでも、お好きなようにおよびください、マスター(決してすたーおーずじゃない、きりっ)』


「それじゃあアナキン、どんなことが出来るの?」


『(アナキン?のってくるんかーい)okマスター、弊社のゲームでしたらここからでもログインできますよ』


「あらそう、それじゃお願いしようかしら」


 なんか急になんかよそよそしい春香。


『おkマスター、それでわどうぞ、ゆっくりしていってね~』


「どっかのまんじゅうかよ、あれ、どうしていきなりインしてんの」


『マスター、このシステムには、お客様のすべてのデータがインプットされており、お客様の行動履歴や世界中のびっぐでえたから解析されたアルゴリズムにより、なんたらかんたらから・・・』


「でも、これって一人称モードじゃん、プレイしずらいぃっ!」


『それではこちらをどーぞ』


 どこからか出てきたのか、いつものとおんなじゲームパッドを手に取り、3人視点にきりかえる。


「OK、これならフツーにプレイできそう、それにこのメット思ったより軽くて画面も追従だし、いい感じね」


『よかったです、それではお時間までお楽しみください』


 しばらくゲームを満喫する春香であったが、休憩が必要となった。


「あれ、トイレとか行きたいんですけど、どうすればいい、おいショ、ぬけねえ」


「なに、まじですか~、もれちゃうんですけどおおおおぉ~!」


なってこってすかい、さて、緊急事態に陥る春香の運命やいかに、いかに・・・


つづく

























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