第6話 室生犀星 前編

条野「さてさて、どこに行けば良い人材が見つかると思います?」


立原「えー… 軍の他の組織とかですか?」


条野「私もわかりません。」


立原「終わった…どうすればいいんだこんなの。」


条野「勧誘できる人を探すのではなく勧誘できる人を知っている人を探すのはどうです? それなら心当たりがあるのでは?」


立原「心当たりが無い訳では無いですが…」


条野「それはどこですか?」


立原「武装探偵社です」


条野「あぁ、あの隊長のご友人が社長をされている組織ですか、確かにあそこは人脈が広いでしょうね」


立原「ただ… 探偵社とポートマフィアが今停戦していて、もし探偵社に軍警として行ったらその情報がマフィアに流れるかもしれません」


条野「なるほど…。では、探偵社への聞き込みのみ私がやりましょう。」


立原「ありがとうございます。マジで俺の正体バラさないでくださいね。」


条野「安心して待ってて下さい。一応私の正体も隠しておきますね。」

条野「失礼します、軍のものですが…。」


鏡花「…なんでしょうか。」


条野(あからさまに警戒されている。それに確かこの娘、軍でも一時期話題になっていた三十五人殺しだ。)


太宰「やあやっぁこんにちは、探偵社うちに、何か用かな?」

(こいつ、ただの軍警じゃない…。猟犬か、もしかして鏡花ちゃんの情報が流出した?いや、安吾に限ってそんなこと…。)


条野「いえ、大した用事では無いのですが、少々聞きたいことがありまして。」

(こいつ雰囲気が異常だ、本当に武装探偵社か?)


太宰「天下の軍警様が探偵社に話って何だい?」


条野「人探し…と云っても具体的な人が決まっている訳では無いのですが、この辺りでどの組織にも所属していない強力な異能力者を知りませんか。」


太宰「そんな人がいたらこっちからスカウトしてますよ。」


条野「そうですか、一応ほかの方々にも話を聞くことは可能ですか?」


鏡花「知ってる。」


条野「え?」


鏡花「どこの組織にも所属してない強力な異能力者、知ってる。」


条野「その人が何処にいるのか教えていただいていいですか?」


鏡花「ついてきて。」


太宰「ちょっと待ち給え鏡花ちゃん、君には事務の仕事があるだろう、サボりは良くないと思うよ。」


鏡花「? そんなのありましたっけ?」


太宰「紙に書いて渡してあげるのはどうだろう。」


条野「いや私目が見えないんですけど。」


太宰「まぁまぁ後で他の人に教えてもらえれば良いじゃないですか。ほら、お巡りさんは大変でしょう。」


条野「何で貴方はさっきから私を早く返そうとするんですか!」


鏡花「書けた。」


太宰「仕事が早いね、流石だ。」


条野「いや一寸まってくださいその強い人がどんな人なのかも聞いてな…。」


鏡花「確か室生とかいう名前だった気が…。」


太宰「ハイハイさようなら~。」


一応鏡花と警察を一緒にする訳にはいけないので追い出したが、途中からは面白くなって来ていた太宰。

そしてこの事の文句を全く関係ない福地桜痴に云う条野であった。

既に日が暮れかけたヨコハマの街…


立原「ホントにあるんですかこんな場所?」


条野が貰った紙にはおそらく最初はちゃんと書かれていた。

しかし、太宰治が落書きをしたり余計な情報を書き足したのだろう、紙がぐちゃぐちゃになってる。


条野「ここまで殺意が沸いたのは鉄腸さん以外は久しぶりですよ…。」


立原(まぁ鉄腸さんには撃ったり刺したりと一般人なら死ぬことを日常的にやってるからな…。)


条野「せめて口頭で伝えてくれればもう少し簡単だったのに…。」


立原「その太宰という男はマフィアの幹部の中原中也も散々悩まされているようですからね、その人が云うには、『生物上最も性格が悪い』らしいですよ。」


条野「だからといって私たちに何か恨みがある訳でも無いでしょうに…。」


立原「あっ、もしかしてここじゃないですか?」


そこは、大きなビル同士の間にあるような小さな貧民街だった。


条野「確かに情報からするとここっぽいですが…。ここにそんな強い人がいるんでしょうか?」


立原「とりあえず行ってみましょう、僅かな可能性があるだけでも行く価値はあります。」


ある程度進むと確かに住んでいる人がいるようだ。しかしほとんどが子供だ。

軍の制服を見て、大層怯えているようだった。

さらに人以外にも野良猫や野犬が多いが、どうやら共存できているようだ。


立原(やっぱり栄えた街ほどこういう場所もある。こればっかりはどうしようも無いのか…。)


条野「すみませんみなさん、このあたりに『室生』と呼ばれている人はいますか?」


子供「むろう兄ちゃんのこと?ならそろそろ来ると思うよ。」


室生「俺を呼んだか?」


気が付くと後ろに青年が立っていた。

手には大量の食糧を持っていた。ボロボロの白い服を纏い、髪は伸びきっており、夕日のせいですこし橙を纏っているようにみえるがおそらく白、だが毛先は浅葱色で染めているようにも見えない。

さらに右目に眼帯を付けており、紺の硝子か何かが光っている。

その青年が来たことを確認すると、その場の者たちは皆彼の元に集まった。


立原「貴方が室生さんですか?」


室生「いかにも、我が名は室生犀星。」


立原「貴方が相当な実力者と聞いてやってきたのですが…。」


室生「あぁ、だがどれだけ強大な力を持ち合わせていようとも腹は膨れぬし、雨風が凌げるわけでもない、まあ命を狙われることは減ったがな。」


立原「…」


条野「あなたは、何故このようなところで暮らしているのですか? 戦力に成り得るなら誰かの前で実力を見せて、そこで働くということもできるのでは?」


室生「友との約束だ、弱き者には手を差し伸べると。」


立原「でっ、でもわざわざ貴方がこんな生活をする必要はないんじゃ…。」


室生「俺はさっきその男が言ったように危ないとこの用心棒をしている。そしてその金は俺の飯以外はこいつらのために使っている。」


立原はこの者を『いい人』だと思った、それ以上の表現を考えることもできない程。


条野「それで、貴方はどのような能力をお持ちで?」


室生「俺の問いかけに答えなかった者を操る能力。」


条野「は? 」


室生「あと事前に嘘を付くなといえば。本当に知らない限り真実を言わせられる、まぁ問いかけが聞こえなかったりするとだめだがな。」


立原「だとしても相当強い能力ですよ。」


室生「まあな!」


立原「あの、もしよければ我々の組織に所属する試験を受けてみませんか?」


室生「いやだ。」


条野(この人話も聞かずに断ったー)

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