第2話 俺の仕事は商社マン!

「俺に仕事をください!」


そう叫んだ直後、俺はすぐに気がついた。え?仕事って何があるの?肉体労働とかじゃないよね?


「あっ、えっと、」


「そうかい。じゃあ…何があるかねぇ。」


「うーん、」


まあ無茶だよな。うん。肉体労働よりかマシではあるけども…家の戸開けたら人がぶっ倒れてて、介抱したら、仕事ください!なんて叫ばれるってあんまいい思いじゃないだろうな…


「まあそこまで焦らんでも時間はたっぷりあるんや。ゆっくり考えたらええ。」


なんか訛り入ってるけどありがたい…まあ兎にも角にもこの世界を知らないことにはどうしようもない。少し街歩きでもしようと頭を切り替えた。


「すいません、ちょっとそのー、この街に来たの初めてなんで、ちょっと案内お願いしてもいいですか」


なんか異世界人であることは隠さなきゃいけない気がした。別にまだここが異世界だと決まったわけではないのだが、ここが仮に異世界だとしたら、ボヤボヤしてる暇はない。


「そうかいそうかい!ただ私たちはちょっと用事があるから、このテミにまかすよ!あ、テミってのはこっちの男の方のことさ!」


「ありがとうございます。」


「そういえばあんたの名前を聞いてなかったわねー。私はルーテル、こっちの女の方がルティね。」


「お、俺は、はなのき商社営業部、課長のしま りょうです。」


「随分と長ったらしい名前だねー?えーと、ハナノキ・ショウエイ・カチョノ・シマリョー?」


「あ、いえ、島、諒です。シマ・リョウ。」


「それでフルネームかい?」


「はい。」


なんか…思ってたんと違う。シマリョーで名前と思われてそう。訂正した方がいいのかなぁそんなことを考えているうちに、沈黙は肯定と判断されたのか、おばさん改めルーテルさんに大きく頷かれてしまった。これももう訂正できないやつ(泣)


「さ、行くんなら早めに行っておいで。日が暮れるのは早いよ。」


「じゃあ、行こうか。あ、でもその前にその格好は目立つから着替えた方がいいかな。服はこれ着て。僕たちは外で待ってるから。」


と麻で編まれたワンピース型の服を手渡され、みんな一度部屋の外へ出て行った。話が早すぎて逆に悲しい。

…どうすりゃいいんだよう!あ!そうだ、カバンの中身の確認をせねば。パソコン、次回の会議の資料、…あれ?スマホがないぞ?どっかで落としたかな?そこでふと思い出した。クソ喰らえと叫んで全焼した家に向かってスマホを投げつけたことを…


「やっちまった…あんなことするんじゃなかった…」


と言っても後の祭り。あとは財布しか残っていなかった。中身は1万2800円だったはずだ。と思って確認したら、なんとよくわからないコインが11枚入っているだけだった。何か貨幣のようだが、これまでの人生こんな貨幣を持つという国は聞いたことがなかった。こちらの世界の通貨であれば嬉しいが…とそこまで考えたところで、出発の時間になった。

 服を着替えて、扉を開けると、俺の中にほんの少しだけ、3人が冗談を言っているという、ほんの少しだけ残っていた淡い希望も、脆く崩れ去った。そこはまさに、なんというか、中世の世界観に似ていた。活気があって、家は石造りで、道も石で舗装されていて、もちろん電線なんてものはなくて、スーツなんてものを着ている人はもちろんどこにもいなかった。


「こっちが長老の家、こっちが浴場、今から行くのは市場。」


テミくんが一つ一つ丁寧に教えてくれる。知らない建物がなくてよかった。平和なワードばっかりだ。


「でここは魔導館で、この道をまっすぐ行くとダンジョン、そこの道を右に曲がるとドレイクの棲家に着く。」


「え???????」


あれこれもしかしてRPG的な世界観でごぜぇますか?めちゃくちゃ危険な冒険者とかやらせれるやつ?あでも転生者って何かしらのチート属性が…感じないねん。神様絶対俺のこと嫌いだろ。俺何かしたっけ?


「そうだ!冒険者でもやってみたら?」


「いやお断りしておきます!」


「意外と素質あるかもよ?鑑定だけでもしてもらったら?」


「いえ大丈夫です!」


…あぶな。正直自分から仕事よこせなんて言っといてなんだが、冒険者みたいな危険な仕事に駆り出されるのはお断りだ。


「そういえば君の、すうつ?は売ったら高くつくかもよ?」


そうか、みんな麻の服着てるから、糸で作られた服はかなり貴重品なのだろう。では早速市場で売り払うとしよう。


「はい、ついたよ。」


「えっ…」


その市場は、俺が想像していた10倍は大きかった。通りにびっしりと出店が並び、その通りは果てしなく続いていた。赤、青、黄色、緑。店のデザインは様々であれば、またそこにいる人々もまた様々だった。


「じゃ、俺はあっちの果菜通りに行くから、きみはあっちの衣装通りに行くといいよ。」


〇〇通りという言葉に違和感を覚えたが、それだけ多くの店が出ているだろうと気にも留めなかったが、この市場の形態が、俺の今後の転生ライフを形作ることとなる。

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転生商社マン! サファイア @sapphire_sena

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