転生商社マン!

サファイア

第1話 商社マンは転生しました。

 神様は俺のことが嫌いなんだろうか。家に帰ると、いや、正しくは、家があった場所に帰ると、家が、全焼していた。火は消し止められていたが、俺はその場にへたり込み、泣いた。ないて、泣いて、涙が枯れても叫び続けた。天涯孤独だったし、何か大きな財産が中に残っていたわけでもないが、ここ以外に頼れるところもなかった。消防士さんたちは、俺に気を使って、毛布をかけて離れていてくれた。とてもありがたかったが、無性に空虚な感覚に襲われた。キーッ。いつまで座り込んでいただろうか。いつのまにか、俺は眠りに落ちたようだった。




 「…ぶですか?おーい。だ、い、じょ、う、ぶ、で、すかー?」


「ん…」


しまった、寝てしまっていた。背中にふかふかとしたものを感じる。誰かの布団だろうか。それだと悪いな。そう思って目を開けた。そこには初老のおばさん、いや失礼だな。60代後半くらいの女性がいた。慌てて体を起こす。


「無理しないでよーお兄さん。あっれまー、それにしても、不思議なカッコしてるねー」


不思議なカッコ?俺は確かスーツ姿だったと思うが…確認しても、いつのまにか服が変わっている、と言ったことはなかった


「不思議?スーツがですか?」


「すうつ?それはすうつっていうのかい?」


「え…」


ますます混乱してきた。何か、夢でも見ているんだろうか。頬を引っ張ってみる。…痛い。そういえば、と改めて室内を見渡してみると、妙な室内だった。壁は石造りで、上に古風なランプが垂れている。扉と床が木。そう、木だ。フローリングとかではなく、全く加工されていない木。その向かいに、ガラス窓があった。見れば、おばさんも、室内なのに靴を履いている。まさに中世ヨーロッパのような室内だった。


「あの…俺どうしてここに?」


「どうしたもこうしたもないよ!あんたが私の家の前にぶっ倒れてたんじゃないかい!あんたこそどうしたのさ!」


と威勢よく言った。元気なおばあちゃんだ。その時、扉が少し開いて、俺より少し下くらいの、好青年が入ってきた。俺が25歳だから、20歳を少しすぎたくらいか。その後からもう1人、15.6歳くらいの女の子が入ってきた。


「お袋さん、あの人大丈夫そう?」


ああなるほど、この人たちが俺をここまで運んでくれたのかな。そんな時、またおばさんが話し始めた。


「ああ。今生き返ったよ!旅人さん、こいつはね、助けてください、つって私の家までやってきたんだよ。両親が亡くなったらしくてね。私一人で育てきたんだよ。それが今では私を養ってくれるくらいになってねぇ…感慨深いよ。」


とさっきと打って変わってゆっくりと話した。てゆーか生き返ったわけではないのだが…えっと、思い出話はいいんだけど、ここ…どこ?


「あの…日本って知ってます?」


流石に知ってるだろう。というか、この人頭を打ったんじゃないかとか思われるかもしれない。けど、いまの俺には現在地を確認することが最優先だ。そう思っていたのだが…


「ニホン?そんなものは知らないよ?なんかの機械かい?」


俺は絶句した。ということは、ここは日本ではないということになる。ただ俺がへたり込んだ場所は確実に自宅の前だったはずだ。へたり込んで、泣いて、途中でブレーキみたいな音がして…そこではっと気がついた、俺は、車に轢かれたのだと。ここは病室には見えないし、どうやら俺は死んだようである。まさか家と一緒に命も失うとは…


「え、ここ天国ですか?」


思わずそんなことを口走ってしまった。


「褒めてもらえるのは嬉しいけどね、まだ私たちは死んじゃいないよ!頭でも打ったのかい?」


ふむ、どうやらここは天国ではないようだ。となると死後の世界?いやしかし、言葉は通じるし、スーツ着たままだし、なんなら鞄も付いてきてるし…あれ?俺もしかして転生した?そうとなれば、ここでじっとしているわけにはいかない!選ばれたものとして、何かしなければ!そんな使命感に駆られた俺は、思わず会社時代の癖が出てしまった。


「俺に…仕事を下さい!」

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