第3話

『遅い遅いっ!ヒーローと言えど、ワタシの速度についてこられるものかっ!!』

「くそっ!!」

 

 突き出した拳が避けられ、衝撃でガラスの破片が飛び散る。

 俺——ジャスティレッドは、ショッピングモールに現れたハチ女を前にして、かなりの苦戦を強いられていた。

 

「動きが速すぎて怪人反応で捉えきれない……ブルーとイエローが避難誘導を終わらせるまで耐えてみせるっ!」

『ふははっ!たった一人のヒーローで、このワタシが止められると思うなっ!!』

「速っ——!!」


 ハチ女の姿が消え——次の瞬間には腹を蹴られていた。

 内臓が傷つく感覚。大量に吐血し、バウンドしながら地面を転がっていく。

 いつの間にか移動しているハチ女に頭を踏まれる。


『レッドよ、怪人に負ける気持ちはどうだ?ワタシの速度は幹部の中でもトップ。昨晩のタコとハサミをどう退けたかは知らないが、ワタシには勝てなかったようだな』

「……なにを、言って……る?」


 タコ?ハサミ?俺が昨日相手をしたのは、昼間のカメレオンだけだ。

 いや、そんなことはどうでもいい。俺より強い生き物なんていくらでもいる。

 今は何とか、こいつを倒す方法を——


『レッド、聞こえるか?』

「長か——」


 喜びのあまり叫ぼうとした口元を手で隠す。

 下手に仲間と繋がっているとバレたら、この通信機器を通じて本部が襲撃される可能性も。

 俺は咳き込むふりをして、信頼する上司に助けを求める。


「(何すか?今、ちょっとピンチで……)」

『分かった。相手の特徴を手短に頼む。』


 流石は長官。どんな時でも冷静だ。この人と一緒なら、俺はどこへだって行ける気がする。

 頭を踏まれる痛みすら忘れて、ヒソヒソと会話を続ける。


「(とにかく速いっす。体は人間の女、ただ羽があります。モチーフはハチです)」

『虫か……それなら何とかなりそうだ』

「ほ、本当——あがっ!」


 頭を踏む力が強くなった。地面にヒビが入り、体が半分沈み込む。

 上から殺意のこもった声が体を打ちつけた。


『なぁ、お前。ワタシに隠れて仲間と連絡をとっているのか?自分の状況が理解できてないなら教えてやるぞ。あぁ?』

「ぐぁっ!!」


 スーツのダメージ許容度が九割を超えた。あと少し攻撃を受けたら変身が解除されてしまう。

 頼む——頼むよ、荒木長官!!


『——よし、準備完了だ。レッド、念のために鼻と口を覆っておけ!』

「う、うっす!!」


 言われるがままに鼻と口を手で覆う。ハチ女も異変に気がついたのか、慌てて俺から飛び退いたが少し遅かった。


『——殺虫剤ミサイル、発射!!』


 長官の声が聞こえた三秒後。天井を突き破って落ちてきた何かによって、俺の視界は真っ白になった。



 




 

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ヒーロー長官はおばあちゃんっ子 @namari600

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