第二十話 異変
「これ、どういうこと……だし」
と、愕然とした様子で立ち尽くしているのは飛鳥だ。
さて、今がどういう状況なのかというと簡単だ。
時は魔物の侵入から少し後。
俺は飛鳥の希望通り、俺の家へと彼女を連れてきた。
その理由はもちろん、俺の家でゆっくりで休んでもらうためだ。
といっても。
家の中で休める場所など限られている。
両親の部屋は両親が死んでからそのままにしてある——要するにもはや開かずの部屋。
となると残っているのは必然的に。
そう、俺の部屋だ。
ベッドで横になって休んでもらおう。
俺はそう思って、飛鳥を俺の部屋へと案内し、扉を開けて彼女を中に入れた。
そして事件は起きた。
「これ、どういうこと……だし」
と、またも同じことを言う?
そして、そんな彼女の視線の先にあるのは。
裸にワイシャツだけを纏い、ベッドの上でぺたりと女の子座りをしている二人の少女の姿。
天音とクレハだ。
やばい。
飛鳥を休ませたい一心で、クレハのことを隠すのをすっかり忘れていた。
飛鳥がここまで驚くのも当然だ。
なんせ、クレハは狐娘。
飛鳥からしたら初めてみる生物なのだか——。
「どうしてここに有明が居るし!!」
ずびし!!
と、飛鳥は天音の方を指差し、さらに言葉を続ける。
「そ、それにその格好……い、いったいどういうことだし!?」
「えと、あたしはクレハとお風呂に入っていただけですけど……それよりその、どうしてここに竜宮さんが?」
「うちがここに居る理由? そんなの簡単だし!」
飛鳥さん予想外にもクレハのことをスルー。
何故か天音に超絶反応。
けれどまぁ、飛鳥の言う通り飛鳥がここに居る理由は簡単。
「うちは琥太郎の子供を妊娠したから、ここでゆっくり琥太郎と休むことにしたんだし!」
「……へ?」
と、何やら呆然としている天音。
だがこれは真実だ。
俺は飛鳥を妊娠させて……って。
「違うだろなんだそれ!? 俺は飛鳥が体調悪そうだから、うちで休ませようと思って連れてきたんだろ!?」
「違くないし! さっき琥太郎が言ってたんだし、うちは琥太郎の子供を孕んだって!」
「言ってねぇよ!?」
「言ったし! それに死んじゃったパパ以外でうち、男の人に触られたの初めてだったのに……い、いきなりあんなっ」
「いきなりってなんですか!? 琥太郎は竜宮さんに何をしたんですか!?」
と、超反応してくる天音。
まずい、何か俺の知らないところでやばい勘違いが発生している気がする。
故に俺は——。
「なるほど、クレハは全部わかったぞ!」
と、俺が何かを言う前に言ってくるクレハ。
彼女は狐耳をピコピコと自慢げに揺らし、むっふんと偉そうな様子で。
「琥太郎はそいつに種付けしたんだな!」
「種付け……こ、これ、が……寝取ら……きゅう」
パタリ、と倒れる天音。
そんな彼女の意思が再び覚醒し、それまでに俺が飛鳥にいろいろ説明し終えた頃には、時はもう深夜近くになっていたのだった。
さて。
そうして時は現在。
天音が覚醒し、事の経緯を説明し終えてから数分後。
「なんだ、そういうことだったんですね……てっきりあたしはNTRされたのかの思って、目の前真っ暗になってしまいました」
「うち、琥太郎の子供を妊娠したわけじゃなかったんだ……あんなことされたのに、うちはヤリステなんだ、ははっ」
「クレハの狐耳と狐尻尾は偽物だったのか!? それにクレハは琥太郎の妹だったのか!?」
三者三様。
なんか微妙にズレたことを言っている。
特に後者二人、飛鳥とクレハがやばい。
飛鳥には妊娠していないことを教えた。
ついでに子供がどうやって出来るのかも教えた。
教えている最中に顔を真っ赤にして、鼻血を垂らしていたがきっと大丈夫なはずだ。
ついでに、俺がしたのは救命措置の一環だと言うことも教えた。
クレハにはクレハの狐耳と狐尻尾は偽物と言った。
というか厳密にはそう飛鳥に言った——要するにクレハはコスプレしている人間だと、飛鳥に信じ込ませたのだ。
そうしたら何故か、クレハも俺の嘘を信じてしまって現在に至る。
カオス。
現在この部屋はカオスに満ち溢れている。
ベッドの上では裸パジャマの少女達が、安堵したりパニックに陥っており。
部屋の隅にあるソファーの上では、ギャルがドヨーンと淀んだ空気を放っている。
もうこんなカオスはごめんだ。
俺は場の流れを変えるために、やや唐突気味だが。
「天音、報告が遅れたけど俺は無事にブレイバーになることができた」
「ほ、本当ですか!?」
パァッ!
と、急に明るくなる天音。
とりあえず作戦成功、俺はそんな彼女へと言葉を続ける。
「あぁ。飛鳥と同じ部隊になるみたいだ」
「あの、琥太郎……さっきから気になってたんですけど、どうして竜宮さんのことを名前呼びなんですか?」
「ん? あぁ、なんだか名前呼びの方がいいんだってさ」
「そ、そうですか……変な意味はないですよね?」
「変な意味?」
「な、なんでもないです!!」
と、なにやら恥ずかしそうに手をぶんぶん否定してくる天音。
いったいどういうことなのかは不明だか、あまり深く追及しない方がいいに違いない。
それに俺の話もまだ続きがあるしな。
「でだ。明後日の橋本駅ダンジョンの攻略についてなんだけど、俺と天音は飛鳥の隊に配属されるみたいだ」
「琥太郎と一緒の隊! よ、よかったです……」
「まぁ上からしても当然の判断だろうな。俺と天音は二人で一つみたいな能力なわけだし」
「そうです! だから本来なら、琥太郎は無条件でブレイバーになれるべきなんです!」
「あ、あぁ……だよな!」
黙っておこう。
飛鳥が天音に伝え忘れたことがあったことに。
すなわち本当は俺、無条件でブレイバーになれたんだが案件については。
今日から俺たちはチーム。
わざわざここで、過ぎたことを掘り返して波風立てるべきだはない。
それにおそらく飛鳥、わざとやった感じではない。
などなど。
俺はそんなことを考えて飛鳥の方を見る。
彼女は現在、未だに先の勘違いのせいでポケ〜っとしている最中。
そう。
おそらく飛鳥は少し抜けている、というかズレているのだ。
見た目と性格がアレだから、なにしてもマイナス方面に受け取られがちだが、彼女は確かに悪いやつではない。
となると、飛鳥は少し抜けていると考える方が自然だ。
実際、俺が試合中に挑発のために暴言スレスレの事言ったのもすぐ許してくれたしな。
本当に悪い奴ならば、あの程度では許してくれなかったはずだ。
「ちょっとあんた!どうしてうちの事を見てるし!」
キッ、と睨みつけてくるのは飛鳥だ。
俺はそんな彼女へと言う。
「いや、ちょっと飛鳥のことを考えてた」
「そ、そんなこと言っても遅いし! あんたがうちの初めてを奪った罪は消えないし!」
「変な言い方しないで!? 少し触っただけだろ!?」
「うちは男に触られたの初めてだったし! 責任……取ってもらうから」
「わかった……取れる範囲なら取るよ」
責任。
女の子から言われるこの言葉のなんと重いことか。
とまぁそれはともかく。
せっかく飛鳥と話しているのだ、彼女に聞きたいことを聞いてしまおう。
「なぁ、すごく話が変わるんだが」
「なに、責任逃れ?」
「違うって! 純粋な疑問、それもブレイバーの話だよ——明後日の橋本駅ダンジョンの攻略って、どうして攻略時期が前倒しになったんだ?」
「ダンジョンの異常活性化」
「なんだそれ?」
「ここのところ橋本駅ダンジョンからの魔物の排出量が、四倍近くになってるの。さっきの魔物侵入も多分その影響だし」
「四倍って……そんなことこれまでもあったのか?」
「普通にないし。ダンジョンが活性化することはあっても、魔物の排出量はせいぜい二倍……それも1日のうちに終わってし……でも」
「まさか、続いてるのか?」
「今日で三日目。もうこれ以上は看過出来ないから、橋本駅ダンジョンの攻略を早めたってわけ」
妥当な判断だ。
魔物が増えるということは、先のような魔物の侵入も増えるということ。
そしてそうなれば、多摩境駅のように住民壊滅の恐れも高くなる。
「ま、やられる前にやれってことだし!」
と、飛鳥がそんなことを言った。
まさにその瞬間。
凄まじい音と振動。
あたりを覆い尽くすほどの黒い光が、俺たちに襲いかかったのだった。
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