第十七話 隊長格の力
「ルールは簡単。うちがあんたを再起不能にしたらうちの勝ちね♪」
時は数分後。
地下にあったトレーニングルーム——というより、闘技場の中央に立ち言ってくるのは竜宮飛鳥だ。
金髪を後ろで結い、豊満な胸を大きく露出させた学生服を見に纏った健康的な肌。
初めてみた時と何も変わらない攻撃的なオーラ。
「聞かなくていいの?」
ニヤリと、俺へと言ってくる竜宮。
俺はそんな彼女へと。
「何をだよ?」
「あんたの勝利条件に決まってるし!」
「そんなの聞くまでもない、お前を倒せばいいんだろ?」
「だから、倒せるわけないっしょ?」
「やってみないとわからない。お前はそんなに強そうに見えないしな」
なんつって。
めちゃくちゃ強そうなんだけどな。
見ただけでわかる。
ひょっとしたら、クレハすら超える圧を放っている。
ブレイバーとしての能力だけでなく、肉体自体も相当極め上げられてるのを感じる。
だがしかし。
今は挑発だ。
俺の経験上、この手のタイプは感情を揺さぶるとミスをしやすい。
竜宮は見るからにプライドが高く、他者を低く見る傾向がある。
「俺はお前を倒してブレイバーになる。負けた時の言い訳は考えておけよ。お前、ブレイバーの隊長格なんだろ? 民間人に負けたら恥ずかしいからな」
「……」
ギロ。
と、凄まじい目で睨みつけてくる竜宮。
マジで謝ろう。
戦いが終わったら、即座に謝ろう。
ひどいことを言ってごめんと。
だが今だけは許して欲しい。
情けない話だが、こうして対峙して確信した。
俺はまともにやったら竜宮にはまだ勝てない。
だから。
「来いよ。それとも怖くて、弱いものイジメしかできないのか?」
だから今は、挑発して少しでも本領を発揮させない。
少しでも判断能力を鈍らせて——。
「あんたさ……調子に乗りすぎ」
と、俺の思考を断つように聞こえてくる竜宮の声。
その直後。
ダッ!
と、地面を蹴り付け突っ込んでくる竜宮。
早い……だが。
見え見えだ。
左側頭部——竜宮の視線は俺のそこへと集中している。
一刻も早く俺を蹴り倒し、地面に這いつくばらせたいのが見え見えだ。
どうやら挑発の成果はあったみたいだな。
と、俺が考えた瞬間。
ヒュッ!
と、風を切る音と共に繰り出されたのは、竜宮による上段回し蹴り。
「っ!?」
想定外の速度!
足先が全く見えない!
食らえばタダでは……否!
食らった時のことなど考えるな。
例え見えなくても、竜宮が狙っている場所はわかってる。
であるならば、そこに手をガードを置くだけ!
と、俺は腕を側頭部の横で立てるようにし、ガードの体勢を——。
メキメキメキッ!
腕に奔る凄まじい衝撃、同時腕から鳴り響く異音。
やや遅れてやってくるのは凄まじい痛み。
けれど。
「あぁあああああああああああああああああっ!!」
俺はそれら全てを押さえ込み、ガードした方の手を無理やり動かして竜宮の足を掴む。
「なっ!?」
と、驚いた様子の竜宮。
しかしまだだ!
今竜宮は格下である俺に攻撃を防がれた動揺。
さらに俺が足を押さえていることにより、動けない状況にある。
すなわち、こいつは通る!
「喰らえ!!」
俺は反対の拳を握り、それを全力で竜宮の腹部へと叩き込む。
ドッ!
と、肉を叩く独特な感覚。
同時、後方へと吹っ飛ぶ竜宮。
だがしかし。
竜宮は空中で身を捩ると、アクロバットのようにして床へと着地。
腹部を数度さすったのち。
「この威力……あんた本当に覚者じゃないの?」
「どうだろうな、試してみろよ」
「あは♪ そうね、試せば解決だし! うち、あんたに少し興味が出てきたから……少し本気出したげる」
「なっ!?」
消えた。
視界から竜宮が完全に消え——。
ガッ!
竜宮が俺の顔を鷲掴みしている。
そう認識した瞬間。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
ドガンッ!
後頭部を地面に押し付けられたまま、散々引き摺り回され。
最終的に壁へと投げつけられた。
もう痛いとかそういう次元じゃない。
「ゲホッ」
痛すぎて痛くない。
ただ熱い。
ミスった。
初撃だ。
最初の一撃で終わらせる勢いでないとダメだった。
わかっていたはずだ、力量の差は。
「すっご! ひょっとしたらと思って、ちょっと試してみたけど……あんためちゃくちゃ頑丈じゃん!」
「……」
「寸止め予定だった蹴りをガードしたのも驚いたけど、あんた本当に何者?」
「……」
「気絶した感じ? ま、いくら硬くても雑魚は雑魚……これにて試しは終わり! ブレイバーにはなれませんでした〜♪」
バイバ〜イ。
と、後ろ手を振って去っていく竜宮。
彼女のいう通りだ。
俺はまだ弱い。
彼女からしたら雑魚同然。
完全なる負けだ。
「待てよ」
けれど、この戦いには天音の命がかかってる。
はいそうでしたと、負けを認めるわけにはいかない。
「まだ終わって……ない、そうだろ?」
「……マジ?」
満身創痍で立ち上がった俺をみて、露骨に驚いた表情する竜宮。
ダメだ。
こいつに勝つにはこのままでは不可能だ。
竜宮は身体能力が高すぎて、見てからでは避けられない。
「ふーん、根性あるじゃん! だったら……もうちょっとイジメてやるし♪」
再び距離を詰めてくる竜宮。
見える、今度は見えた。
背水と極限の痛みによる集中。
それによって今回は竜宮の動きを捉えられた。
しかしこのままではダメなのだ。
見てからでは動けない——ならば。
「はい、終わり!」
と、腹部目掛けて突き出される竜宮の拳。
しかし、俺はその拳を捌きながら身を逸らすことによって躱す。
「っ!?」
驚いた様子の竜宮。
まぁそうだろうな。
万全の俺でも避けられなかった攻撃を、満身創痍の俺が避けたんだからな。
「うちの攻撃を避けるなんて、あんた……生意気!」
言って、繰り出されたのは攻撃の嵐。
ブレイバーによるゼロ距離の拳撃の嵐。
顔面を狙っての蹴り。
その勢いを利用しての後ろ回し。
その足を振り下ろし、軸足としての中段突き。
さらに身体をわざと崩し、床ギリギリの蹴りによる足払い。
躱す。
俺は竜宮によるそれら全てを完全な躱しきる。
「このっ!!」
竜宮の攻撃はどんどん激しくなる。
だが当たらない……否、俺は躱し続ける。
からくりは簡単だ。
見てから避けるのが不可能なら。
来る攻撃を予想し、未来に来るであろう攻撃を躱す。
難しいことじゃない。
戦ってわかった。
竜宮は真面目だ。
恐ろしく真面目だ。
格闘技全般に通じる至極基本的な動き。
それをひたすらに積み重ね、必殺の域まで高めているのだ。
そこにブレイバーとしての身体能力と、自らが磨き上げたであろう肉体とセンス。
それがブレイバー隊長格、竜宮飛鳥の力の根幹。
「なんで当たらないのよ!!」
より苛烈になる竜宮の攻撃。
しかし、定型分がごとき攻撃は予想しやすいし、避けやすい。
ならば。
「こっの!!」
と、突き出される竜宮の拳。
俺はそれを右手でガード——瞬間、竜宮のあまりの腕力にガードが上へと弾き上げられる。
左手は少し前の蹴りで、ほぼ動かない。
すなわち、俺の胴体はガラ空き。
「あは♪ 楽しかったけどこれで、終わりだし!!」
ボッ!
空気が弾けるような音と共に繰り出される竜宮の拳。
避けられない。
俺に避ける術はない。
故に。
これを待っていた!!
スキル『硬化』!
一時的に身体の一部を硬くできるスキル。
俺はそれをピンポイントで腹に展開。
直後。
ガァンッ!!!!!
響わたる鈍い音。
俺の腹で止まる竜宮の拳。
同時、俺の口の中に込み上げてくる血の味。
「っ」
マジ、かよ。
硬化を打ち抜いて内臓まで届く衝撃。
どれだけの威力なんだよ、竜宮の拳は。
だが。
竜宮は完全に止まっている。
おそらく俺の腹を殴った時の違和感による混乱。
チャンスは今。
俺は竜宮の顔面目掛け、込み上げてきた血を吹きかける。
「きゃっ!?」
と、目を瞑ってふらつく竜宮。
俺はそれを確認するや否や、再びスキル『硬化』を使用。
硬くする部位はフリーになっている左手。
そう。
左手はほぼ動かない。
ほぼ、だ。
気合い入れれば一回くらいは動かせるさ。
天音の命がかかってる戦いなら尚更だ。
と、俺はそんなことを考えたのち、左腕を大きく振りかぶり。
「おい、ブレイバー!」
「っ!」
「これで俺の勝ちだ!!」
渾身の一撃。
今出せる全力の一撃を竜宮へと叩き込む。
「あ、ぐっ」
と、そんな声を出しながら吹っ飛ぶ竜宮。
今回はしっかり効いたに違いない。
彼女は床で数回転がったのち、動かなくなる。
「勝てた、のか?」
マジで勝てたのか?
勝たなければならない戦いだったとはいえ、竜宮のあまりの強さに勝てたのが信じられない。
というか。
「しんどい、な」
足がガクガクする。
身体全体が悲鳴を上げているのがわかる。
今すぐ倒れて眠ってしまいた——。
「あんたさ……やってくれるじゃん」
俺の思考を裂くように聞こえてくる声。
竜宮だ。
見れば、竜宮が立ち上がっている。
ダメージはあるように見えるが、まだまだ余裕といった感じ……しかも。
「言ったでしょ? あんたみたいのが、うちに勝てるとでも思ったわけ? 無理に決まってるし、あんたじゃうちには勝てない!」
どんどん膨れ上がっていく圧。
それを放つ竜宮は右手を前へと翳し。
「来い、『グラビティコア』!!」
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