第十一話 初めての召喚獣

『召喚獣クレハと契約しました』


 と、脳内に浮かび上がる文字。

 とりあえず、クレハを俺の召喚獣にすることは成功したに違いない。

 となれば今気にするべきは。


「クレハ!?」


 俺は改めてクレハの方へと目をやる。

 するとそこに居たのは。


「?」


 と、不思議そうな様子で自らの身体を見回している狐娘ことクレハ。

 外見的に見る限り、クレハには何の異常も見られない。

 問題は中身。


「どこか変わった様子はないか? 痛いところとか、調子が悪いところとかはないか!?」


「……」


「クレハ?」


「……」


 おかしい。

 クレハが何も返答してこないどころか、さっきからほとんど動いていない。

 これはひょっとすると、最悪のことが起きて——。


「すごい……コタロー、すごいぞ!」


「え?」


「身体からすごい力が沸いてくる!! 今ならゴブリンが何匹きても負けない! すごい! これ、コタローの召喚獣になったおかげなのか!?」


 ふりふり!

 と、凄まじい速度で狐尻尾を振っているクレハ。

 どうやら、俺の心配とは別方向に異常が起きている様だ。


「身体が軽い! 身体中に力がみなぎってるぞ!」


 おぉ〜。

 と、瞳をキラキラしながら椅子から立ち上がるクレハ。

 彼女はまるで子犬の様にコテージをアクロバティックに駆け回ると、これまた子犬が待てする様な体勢で椅子の上に着地。


 既視感がある。

 この感じ、まるで俺が初めて固有スキル『比翼連理』を使われた時に似ている。

 いわゆる身体的全能感。


 けれどもちろん、クレハは『比翼連理』の対象でもないし。

 そもそも、天音は今『比翼連理』を使っていない。

 ならば、彼女の力がいきなり増加した理由として考えられる理由は二つ。


 一つ。

 召喚獣になったから。


 二つ。

 俺のレベルが適応されている。


 一つ目は理由として弱い。

 召喚獣になったら強くなる、なんていうのは後付け感が半端なく。

 はいそうですか的な納得感だ。


 となると後者。

 こちらが本命だ。


 クレハは俺の召喚獣。

 そしてその大元たるスキル『召喚』は俺のスキルだ。

 当たり前のことだが、俺の能力なのだ。

 ならば、俺が強くなれば能力もまた強まるのは道理。


 すなわち。

 俺のレベル相応に『召喚』が強化された結果、召喚獣であるクレハもまた強化された。

 これがもっとも筋が通っている。

 などなど、俺がそんなことを考えていると。


 チュッ。


 と、俺の頬に当たる柔らかい感触。

 それはすぐに離れ、後に声が聞こえてくる。


「コタロー、クレハはコタローが好きな理由がまた増えた! クレハの心も身体も後世でもコタローにあげるぞ!」


 ふりふり。

 と、狛犬ポーズでニコニコ俺を見つめているクレハ。

 一方。


 バンッ!!


 と、テーブルを叩き立ち上がっている天音。

 彼女は俺の方を指差し。


「き、きききききき、きぃいいいいいっ!?」


「え、なに?」


 天音さん。

 なんかどこかの怒れる敵役みたいな声をあげている。

 というか、なんで俺の方を指差しているんだ。

 いや待て。


 よく考えろ。

 そういえばさっき、なんか頬に柔らかい感触が当たらなかったか?


「き、きききききききっ!! きっ!!」


 と、まだ言っている天音さん。

 考えろ?


 きーきー言っている天音。

 そして頬に当たった感触。

 その後のクレハの様子。

 アホでもわかる。


 え、まさか。

 き、きき——。


「きききききき、きぃ!?」


「き、きっ!!」


 この日。

 俺と天音はしばらく状況が飲み込めず、互いにきーきー言っていたのだった。



 さてさて。

 時は進んで昼過ぎ。

 場所は変わらず異世界。

 現在、俺たちはコテージから出て、近くのスタート地点近くの森林へとやってきていた。

 ここに来た目的は二つある。


「琥太郎、本当にやるんですか?」


「あぁ。俺自身が今、どれくらいの強さを持っているのかは今後、いずれかのタイミングで絶対試さないといけないからな」


「それなら、もう少し安全性を確認してからでも……あたし、心配です」


「言っても、どのラインが安全なんてわからないからな。それにいざとなったら『比翼連理』を使えばいいだろ?」


「そう、ですけど」


 と、未だ不服な様子の天音。

 一方。


「なぁなぁ! 二人は何の話をしているんだ? クレハも聴きたい!」


 と、どうやら何も聞いてなかった様子のクレハ。

 ここにくる道中、クレハを真ん中に挟んで歩いていたので、耳には入っていたはずだが。


 まぁ。

 頭の上を飛んでた蝶を捕まえようとして、クレハのやつずっとぴょんぴょんしてたからな。

 改めて確認の意味も込めて、もう一度話すのもいいに違いない。


「天音の固有スキルについての話は聞いてたか?」


「聞いてた! 固有スキル『比翼連理』だ! とっても強くなるんだ!」


「そう。そして、俺はこれまで『比翼連理』を使った時しかモンスターと戦ってこなかった」


「それだとダメなのか? 群れの力を借りて戦うのも戦法だ! クレハもよくやった! クレハが追い込んで、父様が仕留めるんだ! コタローがやってるのもそれと一緒だ!」


「いや、いいか悪いかの話じゃないんだ」


「?」


「俺は日本でブレイバーにはないとダメなんだ。そのためには、力を示さないといけない。そしてその時には、多分……というか絶対に天音の力は借りれない」


「ブレイバーって、コタローが言ってた戦士のことだな? でも、なんでアマネの力を借りたらダメなんだ? なんでだ?」


「インチキだからだよ。クレハの言う狩りとは少し違って、試験みたいなものなんだ。こっちの世界だと…….そうだな、ゲームライクに言うなら試練って言えばわかりやすいかな?」


「成人の試練だな! クレハもやった! 族長と一対一で戦って、認められないとダメなんだ!」


「例えば、その試練で誰かの力を借りるのはどう思う?」


「そんなのダメだ! 一人前じゃないぞ! っ……わかった、そういうことなんだな!」


 要するにそういうことだ。

 天音の力を借りてしまえば、俺はおそらくブレイバーとして認められない。

 だからこそ、当初の目的通り俺がブレイバー並みに強くなり、ブレイバー達に強さを証明するしかない。


 それには、『比翼連理』のない俺自身の強さを見極める必要がある。

 今の俺がどのくらいの強さかわからなければ——ブレイバーに挑める強さなのかどうかを知らなければ、そもそもが論外だ。


『クエスト発生。ゴブリンの討伐。制限時間十分』


 と、脳内に浮かぶ文字。

 同時、俺たちの前に飛び出してきたのは。


「ゴブリンっ! 殺してやる……ゴブリンはクレハが皆殺しにしてやるんだ!!」


「ちょっと待った!!」


「やだ! クレハは待たない!」


「さっきの話聞いてたよね!? あのゴブリンとは俺が戦わないとダメなんだって!」


「うぅ、そうしないとコタローは困るのか?」


「困る」


「うぅ、うぅ!! じゃあクレハは我慢する!」


 しぶしぶ。

 と、下がってくれるクレハ。

 さて、となれば。


「ある意味、俺の初陣だな」


 俺はゴブリンの前に立つのだった。

 初めて、天音の力を借りずに。

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