第十話 召喚獣と新たなる仲間

 時刻は昼。

 場所は異世界、例のコテージ。


「なるほど! アマネがコタローの嫁なんだな!」


「ち、違います!! それにあなたが成りたいのは、琥太郎の嫁ではなく仲間ですよね!?」


 俺の隣の席に座るクレハの言葉に対し、テーブルを挟んで向かい側。

 バンッと、頬を染めながら机を叩くのは天音だ。

 クレハはそんな天音に対し、さらに言葉を続ける。


「仲間? 群れ、家族と同じ意味だな! クレハとアマネはコタローが好き、家族になりたいと思ってる! クレハ達はコタローの嫁になって群れになるんだ! アマネもコタローが好きならこれが一番だぞ!」

 

「そ、それとこれとは話が別で——」


「別じゃないぞ! この雄の子供を孕みたい、そう思ったら嫁になるのが一番なんだ!」 


「孕——っ」


「大丈夫だ! クレハは獣人族だから、嫁がクレハ以外にいてもへっちゃらだ! クレハのお母さんも十二人居たんだ!」


 なるほど。

 獣人族は一夫多妻制というわけか。


「と、とにかく! そうじゃなくて、さっきから何回も言ってますよね!? あたしは琥太郎の幼馴染で、ずっとそばに居る家族みたいなものです!」


「それって嫁とどう違うんだ?」


「そ、それは……」


「クレハはコタローに命を救われた! クレハもこれからはコタローのずっとそばに居る! アマネと一緒にコタローの嫁になるんだ!」


「はぁ……もういいです。朝から十八回説明してもその結論になるなら、もうそれでいいです」


 天音さん、折れた。

 こうしてこの日、俺は天音とクレハという二人の嫁を獲得したのだった。

 という冗談は置いておいてだ。


「とにかく、クレハは俺達の仲間になりたいってことは間違ってないよな?」


「なる! クレハはコタローとアマネの家族になる!」


 ピコピコ。

 と、狐耳を嬉しそうに動かすクレハ。

 何かわかってないというか、根本的にズレている気がするがもういい。

 俺より頭のいい天音が説き伏せられないのなら、それはもう俺には不可能だ。

 俺にできるのは、なんとなしにいい着地点に話を持っていくのみ。


「ぶっちゃけ言うと、俺達はこの世界の住人じゃないんだ」


「?」


「地球という別の世界があってだな」


 かくかく。

 しかじか。


 俺はなるべくわかりやすく、今までのことをクレハへと教えていく。

 異世界転移のことなどを容易に話すのはリスクがあるが、ここまで心を開いてくれたクレハなら大丈夫だろうという判断だ。


 さてさて。

 そうしてだいたいのことを話し終えると。


「じゃあ、コタローとアマネはどこかに行っちゃうんだな……」


 ぺたん。

 狐耳を倒し、悲しそうな様子で言ってくる天音。

 要するにそういうことだ。

 俺と天音はこの世界の住人でないため、この世界に長期間留まることは不可能。

 今回はクレハの看病で、例外的に留まっていたにすぎない。

 つまり。


「ごめん、仲間にすることはできないんだ」


「でも……それじゃあ、クレハは……クレハは一人ぼっちだ……っ」 


 ポタポタッ。

 と、テーブルに溢れる雫。

 まずい。


「ジー(あーあ。琥太郎、泣かせましたね)」


 と、正面から見つめてくる天音。

 やばい、流石に今のは直球すぎた。

 というか、よく考えればそうだ。


 クレハは家族も友人も皆殺しにされ、もう本当の意味で一人ぼっちなのだ。

 俺や天音よりも一人だ。

 俺達には互いという存在があったから。

 

 俺はバカか!?


 もっと何か言いようがあっただろ。

 せめて遠回しに伝えるなり、異世界に来た時はまたよろしくって言ったり。

 アホすぎる。

 過去に戻って、自分の顔を殴ってやりたいレベル。


 というか、そもそもよく考えろ。

 何かないのか。

 クレハを一人にしない方法。

 例えば、コテージを出しっぱなししておいて、毎回そこに異世界転移を——いやだめだ、異世界転移はファストトラベルポイントじゃないと。


 何か。

 クレハと一緒に居られる方法は。

 と、俺が強くそれを考えた瞬間だった。


『クレハを召喚獣として使役しますか?』


「っ!?」


「どうしたんですか、琥太郎?」


「いや……」


 クレハを召喚獣として使役?

 いったいどういうことだ?

 まさかスキル『召喚』の関係か?


『クレハを召喚獣として使役しますか?』


 まるでダメ押しの様に脳内に浮かぶ文字。

 これはもう考えを変えた方がいい——おそらく『召喚』はモンスターを召喚獣にするスキルではない。

 異世界に住む人々と契約をするスキルなのだ。


 予想だけど。

 今までみたいにゲームライクに考えるなら、日本で召喚を使うとこの世界からクレハが召喚される……ってとこか?

 そしてこの世界で召喚を使えば、クレハが俺の元に転移してくる、って感じだろうな。


 なにより。

 もしも本当にゲームライクなら、あと一つ大きな希望がある。


 日本がああなる前、俺がやっていたMMOフエフエ14にも召喚獣という者がいた。

 フエフエの世界では召喚獣は一度召喚すれば、主人が転移すれば一緒に転移していたのだ。

 つまり。


 クレハを召喚獣にして出しっぱなしにすれば、常にクレハと一緒に居られるのでは?

 もしそれがダメでも、前者の様にその都度召喚すればいい。


 問題があるとすれば。

 それ以外の仕組みだった場合だ。

 全く意図しない作用が働き、クレハが別の生命体の様に変貌してしまうことすらあり得る。


 まぁ。

 要するにクレハを召喚にするのは論外だな。

 俺は『召喚』についての考えを早々に切り捨て、とりあえずクレハに謝るのだった。



 だった、が。

 しかし。


「なる! クレハはコタローの召喚獣になる!」


 ふとした弾みで、俺が先ほどの考えを語った瞬間こうなった。

 彼女はかつてない勢いで、俺へと言ってくる。


「クレハは一人ぼっちが嫌だ! コタローと一緒に居たい! コタローに尽くしたいんだ! 可能性があるなら、リスクがあっても召喚獣になる!」


「でも本当に危険がだな——」


「むぅ〜〜——っ!」


 全く譲らない様子のクレハさん。

 よく考えろ。


 クレハを召喚獣にした方が、俺にとってもクレハにとってもメリットはでかい。

 俺はクレハという仲間を手に入れ、クレハは新しい居場所を手に入れる。

 となると障害はリスク。


 だから考えろ。

 今までのこの世界の法則、それらから逆算して考えろ。

 この世界はゲームに似ている。

 それもファンタジー調のRPGにそっくりだ。

 そんな世界で、『召喚』と聞いたら真っ先に何が思い浮かぶ?


 多分それが答えだ。

 答えのはずだ。

 はずだが。


「クレハを召喚獣にしても大丈夫だと、確信に近いものはある……ただリスクはゼロじゃない。それでもいいのか?」


「こ、琥太郎!? そんなの正気ですか!? だってもし失敗したら——」


「構わない! クレハは召喚獣になりたい! コタローにクレハを使って欲しい!」


「わかった」


 俺は再び思い浮かべる。

 クレハを召喚獣にすることを。

 すると。


『クレハを召喚獣として使役しますか?』


「あぁ、クレハを召喚獣にする」


 瞬間。

 クレハを包み込む光、やがてそれはクレハに吸い込まれる様に収まっていき。


『召喚獣クレハと契約しました』

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