第八話 ゴブリンキング

「gugaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 と、大斧を振りかぶってくるゴブリンキング。

 獣人達との戦いでかなりの傷を負っているはずとはいえこの圧力——三メートルの巨体から繰り出される、あの斧の一撃を喰らえばどうなるかわからない。


 というか。

 多分死ぬよな普通に。


「だからこそ!」


 俺は地面を蹴りつけて前に進む。

 大斧はリーチがデカい。しかし、刃の部分がついているのは斧の性質上先端近くのみ。

 故に。


「guraaaaaaa!!」


 俺が間合いに入ったからに違いない。

 雄叫びと共に繰り出される横薙ぎの一閃。

 俺はそれを身を屈めることにより躱し、さらにゴブリンキングへと接近する。


 ここまで近づけば、大斧を最大限の力で振るうのは難しいはずだ。

 なんせもうこの距離では、どうあがいても刃の部分は当てられない。

 すなわちすでに大斧は無効化したと言っても過言ではない。

 あと警戒するべきは——。


「gaaaaaaaaaa!!」


 ゴブリンキングも悟ったに違いない。

 大斧を投げ捨て拳を握り、それで俺を叩き潰すように振り下ろしてくる。


 俺はそれを横っ飛びに交わしたのち、その場で次の一手を見極めるべく、ゴブリンキングに集中する


 そう。

 警戒すべきはゴブリンキング自身の肉体だ。

 ゴブリンとはいえ、この巨大から繰り出される攻撃を喰らえば、どうなるかなど考えるまでもない。

 だがしかし。


 やっぱりゴブリンキングは満身創痍。

 今も動くたび怪我が痛むんだろ?


「gaaaaaaa!!」


 と、変わらず拳を振り下ろしくるが、今度の一撃は先の物とは明確に違った。

 硬直したのだ。

 まるで人間が行動する際、痛みにより一瞬固まってしまうように。

 つまりそう、獣人達が紡いでくれたダメージが、ゴブリンキングをついに絡め取ったのだ。

 すなわち狙うなら。


「ここだ!!」


 俺は全力で駆け、ゴブリンキングとの距離をさらに詰める。

 同時、振り下ろされる拳。

 俺はそれを直前まで引きつけたのち、前方向にスライディングの要領で回避。

 さらにそのまま、ゴブリンキングの股を通り抜け、奴の背後を取る。


 一気に畳み掛ける!


 俺はすぐさま立ち上がり、ゴブリンキングの背中に刺さっている槍を踏み台に、奴の身体を駆け上がる。

 そして肩車よろしく、奴の肩の上に乗ったの後。


「これで、終わりだ!!」


 俺は奴の片目に刺さっていた小太刀を引き抜き……勢いよく、もう片方の目へと突き刺す。


「gugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」


 と、絶叫と共に暴れ回るゴブリンキング。

 やつは俺を振り落とそうと、手を伸ばしてくるが。


「言っただろ、これで終わりだってな!!」


 俺はさらに深く、全力で小太刀をゴブリンキングへと突き入れる。

 その瞬間。


「a……ga 」


 だらん。

 と、力無く両腕を垂らすゴブリンキング。

 やつはまもなく、地面へと崩れ落ちる。


「っと!?」


 俺はゴブリンキングの下敷きにならないように、咄嗟に飛び降りる。

 するとその瞬間。


『ユニークウェポン、怨讐おんしゅうの小太刀を入手しました』


 なんだ?

 と、俺がそんなことを考える間もなく。


「っ!?」


 俺の手に闇色の光と共に現れたのは鞘に入った小太刀。

 抜いてみると、どうやら先ほど俺がゴブリンキングに突き入れた小太刀だ。

 これがユニークウェポン『怨讐の小太刀』なのか?

 ってことは何か効果でも——。


ユニークウェポン『怨讐の小太刀』

 獣人族の怨みが込められた小太刀。ゴブリン系種族特攻。また、攻撃した対象を呪い状態にする。


 と、脳内に浮かぶ文字。

 なんだか物騒な効果だ。

 で、呪いってなんだ?


状態異常『呪い』

 弱体化および継続ダメージを受ける。


 要するに毒みたいなものか。

 ゴブリン系種族特攻も使えなくはないだろうし、かなりいいものだな。

 ひょっとすると、獣人達からのせめてもの礼ということかもしれない。

 これは大切に使おう。


 って、普通に受け入れてたけど。

 これは相当すごいことだ。


 能力がついた武器!?

 日本じゃそんなの有り得ないぞ!!

 人間由来のスキルじゃなく、武器由来のスキル…..こんなの日本で発見されたら、革命どころの騒ぎじゃない。


「琥太郎!!」


 尋常じゃない。

 そんな様子の天音の声が聞こえてくる。


 まずい、思わず考え事に集中してしまっていた。

 ここは異世界だ。

 危険な場所なんだ!


 それなのに天音から意識を逸らすなんて!

 今の声、ひょっとしたらゴブリンの残党なりが居たりして——。


「この獣人の子、まだ生きてます!!」


 見れば天音は、道の端に倒れ気を失っている狐娘と思しき少女を抱き抱えている。

 しかし、遠目からでもわかる。

 ほとんど生気がない、というかもう今にも死んでしまいそうだ。


「っ」


 とにかくこうしては居られない。

 俺がそちらへと駆け出そうとした。

 まさにその瞬間。


『小規模クエストクリア!』

『報酬として700ポイントを獲得しました』


 同時。

 俺はとあることを思いつく。

 それは。


「天音! アイテム取得だ! こういうゲームライクな世界なら、アイテムは装備か消耗品——後者なら回復系アイテムって相場が決まってる!」


「回復アイテム…..それでこの子を助けるんですね!?」


「あぁ! 今から二人でポイントを消費して、回復アイテムが出るのに賭けるしかない!」


 ここにいるのは俺たちのみ。

 医者が居るかもわからない世界、これが最善策だ。


 俺はそんなことを考えながら、天音の元に到着。

 そして。


「準備はいいか? チャンスは700ポイント——お互いそれぞれ7回だ」


「は、はいっ!」


 まず1回目。

 出たのはチュートリアルアイテム『収納ポーチ』。

 能力は大きさを無視して持ち物をしまえるという物。

 チュートリアルというだけあり、天音も同じものが出てしまった。

 ハズレだ。


 二回目。

 天音が出したのはアイテム『マジックコテージ』。

 能力は瞬時に魔物避け能力を持ったコテージを建てられるアイテム。使用制限はなく、その都度内部に食料がリポップする。というもの。

 かなり当たりの部類だが、今はハズレだ。

 そして俺が出したのは——。


 回復ポーション。

 対象が死亡していなければ、対象の怪我を全回させる。


「きた!!」


「琥太郎!」


「わかってる!」


 俺はすぐさま狐娘の子の口へと、回復ポーションへと流し込んでいく。

 呼吸はまだある。つまり死んでないならばこれで——。


「あ、うっ」


 と、わずかに動く狐娘。

 直後、凄まじい速度で彼女の怪我が治っていったのだ。

 同時、狐娘の呼吸も苦しそうなものではなく、普通に眠っている少女のようなものへと変わる。


「とりあえずは一安心、か?」


「ですね! 琥太郎の引きの強さのおかげです!」


「なんかソシャゲのガチャ運褒められてるみたいで、素直に喜べないんだけど」


「ガチャ運で人助け出来たんですから、きっとすごいことです!」


 キラキラ。

 と、眩しい視線を向けてくる天音。

 彼女が言うのならば、きっとそうなのだろう。

 さて、それはともかくだ。


『帰還しますか?』


 先ほどから脳内に浮かんでるこれだ。

 この狐娘を放置して帰るわけにもいかないし、獣人たちの墓も作らなければならない。

 どうしたものか。


「……なぁ、天音。さっきなんかちょうどいいアイテムを入手してなかったか?」

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