第2話 望まない再会
「とーにーかーく!私とレインは朝たまたま会っただけなんで!!何か初めも変な事言われたしっ!」
大きな声で謎に疑われている私とレインの関係性を明言しても、本当にー?と訝しげな声があがる。
「不審者?」
ポツリ、と呟いた霜葉ちゃんに、ハッと思い出す。
「そう、不審者!急に話しかけてきて魔法が使えるって言ってきた不審者なの!!警察に通報した方が良くない!?」
慌てて捲し立てると、雪ちゃんを始めたクラスから野次が飛ぶ。
「えーっ、晴ちゃん魔法使えるのー!?」
「レインって奴もじゃあ魔法使えるって事か?すげーな!!」
「えっ、俺も魔法使いてぇ!!」
「それなら晴、魔法少女じゃん。笑える」
「笑えないってぇぇぇぇぇぇ!!」
それも皆魔法を使えるって事信じてるみたいだし!?
いやいや、そんな簡単に信じれる事じゃないでしょ!!
うん、そういうノリだよね……?
なにやら先生も口を開こうとしている。
騒がしくなったクラスを宥めるのか、はたまた怪しげなレインに上手く対応するのか。
どちらにしろ助かった――
「へー、村岡魔法が使えるのか。なら今腰痛が酷いから治してくれるか?」
って、先生まで信じるんですかっ!?
しかも腰痛って!!
魔法が使えたとして初めに願うのそれ!?
「いやー、結構辛くてな。俺ももう歳かな……ハハ」
哀愁漂うまま、遠い目をする先生。
「せんせっ、大丈夫!まだ若いっすよ、ピッチピチ!!」
風斗君、ピッチピチはもう死語だよ!?
それフォローになってる……?
「そうだな、まだピッチピチだよな!」
あっ、嬉しそう。
フォローになってたんだ……。
って違う、何でそんなに皆呑気なの!?
同い年だろうとイケメンだろうと不審者だよ!?
混乱する私に、
「結局自己紹介をまだしてないんだが、してもいいか?」
レインが首を傾げてそう言う。
「っはあ……うん、もう……いいよ……」
沢山の事に疲れてそう呟くと、レインは嬉しそうに頷いた後、口を開く。
「俺は魔法界から来た魔法使い、レインだ。晴は俺の魔法の力を授けた“パートナー”だから、よろしく」
その言葉に、もう一度教室が騒然となるのは言うまでもなく……。
パートナーって、そんなんじゃないよ!?という私の必死の叫びは、誰にも聞かれる事が無かったのでした。
一通り騒ぎが鎮まったあと。
先生が、のほほんとしながら話を始める。
対して私達は、全力疾走した後のような息切れをしている。
長らく言い合ってたせいで、体に被害が……!!
レインは変わらず飄々としていて、それを恨みがましく見つめた。
「――レインの席だが、村岡の隣で良いな」
突然先生の声が耳に入る。
それと同時に、きゃーっ、と歓声(悲鳴?)が上がり、
「同じクラスに来たイケメン転校生が実は知り合いで、しかも隣の席ー!?やばい、晴の恋愛関係面白すぎ!!」
それに、やっぱり雪ちゃんの声も聞こえた。
「は!?どうして晴の隣にするんすか、田辺が居ますよ!?」
「えっ、ぼぼぼ僕は別に何でも……」
あと、霧夜と田辺君の声も。
というかそうなんです、隣には田辺輝君が居るんです!!
なのになぜ、わざわざ私の隣?
今隣の席が空いている子いるし、その子の隣でいいのでは……。
というか、私が不審者と関わりたくないっ!
心の中で散々否定はしてみても、やはり通じる事はなく、先生は確定事項のように理由を告げる。
「だが、村岡はどうやら知り合いらしいし。レインは異国から来たそうだから、安心できる知り合いの方が良いだろう」
くっ、そう言われたら断れないじゃないですか!!
別に知り合いじゃなくて、不審者なんですけどね……。
もう信じられないのが分かってしまったから、ここは大人しくしてますけど!
皆も同じように納得、って顔をしている。
けれどどうやら、まだ先生には理由があるようで。
「それに、隣の席の人に放課後、学校を案内して貰いたくてな。その点村岡は成績が良いから適任だ」
学校を案内する、って言うのは不審者だからあまり近づきたくないと言えど、別にそこまで構わないんだけど。
それと成績が何か関係あるのかなぁ?
皆もそれには首を傾げている。
うーん……あ、もしかして――
「忘れてるのか?今日の放課後からだぞ、――テストの補習」
「あ、やべっ、そうだったぁぁぁぁぁ!!」
うん、どうやら当たりだったみたい!
先週行った抜き打ちテスト。
それを赤点とっちゃった人は今日から放課後補習なんだよね……。
しかも――
「そりゃあ適任だわ。このクラス大抵が補習だし…」
――そう、テストが難しすぎて赤点が大半。
阿鼻叫喚の嵐だったんです!!
幸いなことに、私は得意科目の理科だったおかげで赤点を回避!!
はあ、だから先生が私に頼みたかったのか……。
「村岡、頼めるか」
先生が問う。
本当は断りたかったんだけど、先生だけじゃなくて皆も私を断らないよね、って目で見てくるから……。
「……分かりました」
引き受けなきゃいけないじゃん!
ここで断れるほど勇気が無いよ!!
私だって別に普通の人だったら全然引き受けるよ?
でもさ、レインは不審者なんだよ……!?
不審者とは、やっぱり距離を置きたいんですけど!!
「おー、ありがとな」
先生がそう言ったあと、指示を出す。
皆で机を移動したりなんなりして――
「よろしくな、晴」
「…よろしくお願いします」
よろしくは無いけど隣に来たレインに渋々挨拶をした。
はあ、これからの学校生活は前途多難かも知れません……。
そんなこんなで、1時間目を終えて休み時間に入ると。
「晴!」
霧夜が私の名前を呼びながら席に向かって来る。
ええっ、なになに、怖いんだけど!?
「この転校生――レインとはどういう関係だ!?」
隣にレインが居るのにも関わらず、声をひそめる事も無く、そうやって私に聞く。
いや、どういう関係って言われても……。
さっき言った通り、不審者と被害者だと思うけど。
信じられないよなぁ……。
悩む私を見て、
「何か困ってるなら助けてやる。不審者って言ってたよな、コイツ何か晴にしたのか?」
と、霧夜にしては優しげに聞く。
えっ、心配してくれてる、のか……?
こんなに無愛想な子なのに!?
「あー。まあ、なんか会ってすぐに魔法が使える、って言われて。その時は全く面識なかったから、ちょっと怖いなぁって」
レインを不審者と形容しながらも、まあ同じ年頃だし、少し怖い思いはしたけど、特にそれで何かされた訳じゃないのでそこまで気にしてないんだけど。
それも含めて伝えると、霧夜は納得したように頷いたあと、くるりとターンしてレインの方を向く。
「おめー、晴に迷惑かけただろ」
初っ端から喧嘩腰で声をかけてるけど、それ大丈夫!?
一応不審者なんだし、そこまで刺激しない方が……。
ハラハラしながら見守る私の予想を裏切るように、
「?迷惑?」
と、きょとんとして返すレイン。
霧夜はそれに畳み掛けるように、話を続ける。
「会ってすぐそんな事を言ったり、さっきも晴を勝手にパートナーって言ったり。そうやって、おめーが勝手に行動する事が晴の迷惑になってるんだ。そういう嘘は辞めろ」
苛立ちをあらわにして放たれた言葉に、レインはムッと顔をしかめると、
「嘘じゃない、本当の事だ。何もかも疑ってかかるのは良くない」
と、言葉で反撃する。
それに霧夜が反応して、それにレインが反応して……。
ヒートアップしていく口論に、いつの間にか周りに人が集まっている。
「ええっ、俺も転校生と仲良くなりてー!!霧夜っ、俺も混ぜろよ!!」
「きゃーっ、晴ちゃんを巡るライバルの対決っ、面白すぎー!……あっ、私達は気にせずどんどん続けてー!!」
「雪様が目を輝かされてらっしゃる……美しい!!このご尊顔を見るがために、その2人には是非そのまま争っていていただきたい!!」
「あー、イケメンの渋滞だわ、目の保養。付き合うのはもう諦めてるからこの状況が楽しいわ」
風斗君、雪ちゃんをはじめとした、観衆たちの声が上がる。
なんかめちゃめちゃ盛り上がってるんだけど!?
その騒がしさをなだめるように、
「皆さん、もう授業が始まるので席に着いてくださいっ!」
と、霜葉ちゃんが大声で注意する。
それを聞いた皆は、えー、と不満の声をあげ物足りなさそうにしながらも、きちんと席に戻っていく。
散々言い争っていた霧夜も、
「とにかく、晴に迷惑をかけるのは辞めろよ!」
と、最後に釘を刺して席に戻っていった。
うん、こういうところは皆真面目なんだよなぁ。
だったらそこまで言い争いを大きくしないで欲しいんだけどな!?
レインは少し不貞腐れているようで、ぷくーっと頬を膨らませている。
くっ、あざとい……!!
内心悶えながらも、表面上は取り付くろって先生が来るのを待つ。
だってこういう時、絶対雪ちゃんはこっちを見てるから…。
こっそり見るとバチリと目が合う。
雪ちゃんは、しまったバレた!みたいな顔をしたあと、てへ、と舌を出して誤魔化す。
ほらね、言ったでしょ!?
親友のことはよく分かってしまうんです、こんなところも……。
先生が教室に入ってきたので、意識をそちらに向ける。
授業が始まってなお、雪ちゃんはもちろん、それ以外の人の視線もちらちらと感じて少し居心地が悪かった。
そんなこんなで授業を終えて、ついに放課後。
渋々とはいえ、レインの案内を任せられた訳ですし、きちんと案内させていただきます!
教室に鞄は置き、素早く補習室に向かう生徒に手を振って、まず初めの特別教室に向かう。
あ、ちなみに私は部活も入ってないんだよねぇ…。
それも案内役に選ばれた理由かも。
補習無い生徒は、部活行ってたし。
雪ちゃんにテニス部誘われてたし、入ってたら良かった……。
まあ運動苦手だからそれは無理なんだけど!!!
向かった先は、教室から出て右に見える、本が沢山ある教室……そう、図書室!
私も図鑑だったりをよく借りてるんだ。
「ここは図書室です!!」
図書室を指さしそう言うと、レインは興味深そうに頷いたあと、
「人間界の書物か……面白そうだな」
と、呟いた。
うーん、人間界の、ってついてると、なんていうか厨二病感が……。
やっぱりレインは厨二病なのかなぁ?
「ま、まあいいや。気になったら休み時間に借りに来れますよ!よし、次行きましょう!!」
「ここは職員室です」
次に向かったのは職員室。
中を見れば、何やら校長先生と教頭先生を中心に話し合っているみたい。
「職員室の前では静かにしなきゃいけないんです」
そう囁くと、
「分かった」
と、同じくらいの大きさで返ってくる。
ほっ、言うこと聞いてくれて良かった……。
魔法の話とか、そういうことを私の否定も聞かないで話してるから、ちょっと信じれてなかったかも。
ダメだよね、ちゃんと信じなきゃ!
そう決めた私に、レインが思い出したかのように言った。
「そういえば晴、魔法の力を授けたから――」
「っ、信じれるかぁぁぁぁぁ!!」
はっ、やばい、つい大声を出しちゃった――
「……村岡晴さん?」
職員室から出てきた教頭先生が、そう地を這うような重低音で言う。
「すっ、すみません……」
縮こまって謝る私に、なぜかレインも、
「そうだぞ、静かにしなければ」
と、少し偉そうに注意する。
くっ、確かに大声出したのは私だけど、その原因はレインでしょ!!
とも言えず、教頭先生(とレイン)からありがたーいお説教を頂いたあと、次の教室に仕方無く向かうのでした。
「ここは保健室です!!」
3番目に向かったのは昇降口近くにある保健室。
歯の磨き方のポスターや、お知らせが貼ってある。
「保健室……怪我は魔法で治した方が早いだろう」
「はあ、あのですねぇ、普通は魔法なんて使えないんです。だから保健室があるんですよ!」
レインが訝しげに言ったのに、そうやって返す。
先生はレインを異国から来た子だって言ってたよね。
レインのいた国には保健室が無かった……なんてことはないよね?
学校に通えてなかったのかな。
それにしては日本語が上手いんだけど……。
もしかしてハーフ?
聞いてみたいけど、どうせ魔法使いだから、なんて言うんだろうなぁ。
そう考えている私に、レインが、
「はやく次の教室に行くぞ」
と、いつの間にか移動して急かすように言う。
「はいはい、分かってますよ」
まったく、先に行って場所分かるのかなぁ。
私は慌ててレインの背中を追った。
「ここは理科室です!!」
4番目に向かった先は2階にある理科室。
私の一番のお気に入りの教室なんだ!
「生徒たちなら勝手に入っても大丈夫だから、友達と一緒にここでお昼ご飯を食べたりもしてます。理科の先生も面白いから、結構人気なスポットです!!……まあ、昼以外の休み時間は人少ないんですけど」
そう説明すると、レインは不思議そうにする。
どうして昼以外の休み時間は人が少ないのか、って気になるよねぇ。
「理科室には骸骨があるので、怖がる人が多いんです。私は平気だからよく来るんですけど……」
「ふむ、そうなのか……。ならこの学校にスケルトンが来るのはダメだな」
スッ、スケルトン!?
えと、確か骸骨の魔物、みたいなヤツだっけ?
うう、また魔法界、とかの話かぁ……。
「というか、スケルトンを連れてこようとしないでください……」
「ここは美術室です!!」
5番目に向かった先は同じく2階にある美術室。
賞を取った絵だったりが飾られてるんだ。
「あ、これ……!」
「む?なんだ、この絵がどうかしたのか?」
ある絵を見て私が声をあげると、レインがそう聞く。
優しげな水色の空に、真っ白の雲が少しと、明るい橙色の太陽が浮かんでいる絵。
タイトルは、『晴』。
絵についた札には……夢鐘雪、と描かれている。
レインが軽く目を見張った。
「あはは、恥ずかしいんだけど、これ雪ちゃんが私をイメージして描いた絵なんです」
少し照れながら言うと、レインは、
「確かに、晴らしいな」
と、優しく微笑む。
心臓がドキリ、と1度大きく跳ねた。
「っ、これでとりあえずこの校舎の案内は終わりですっ!!」
私は、これまでに無い速さで鼓動を打つ心臓を誤魔化すように、そうやって宣言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます