はれときどき

幻想りと

第1話 魔法って何ですか?

「――お前はもう魔法が使える」

皆なら突然現れた謎のイケメンにこう言われたらどうする?

私ならきっと信じずスルーしちゃう。

でも、現実はそう甘くなかったんだ……。


はじめまして!私は村岡晴、13才!

実験と勉強がだーい好きな理系女子!

いつも通り学校に向かう途中、突然現れた謎のイケメンに、

「お前はもう魔法が使える」

と、言われちゃった人です。

……って、

「そんな訳あるかー!」

渾身の力を使って大声で反論すると、ビックリした様に飛び跳ねる謎のイケメン。

薄く水色に染められた髪が風に揺れる。

――うん、にしても飛びすぎじゃないかな!?

3mくらい離れたんだけど!?

「ビックリした……」

「えっ、何かごめんなさい!」

胸を抑え本当に驚いたという顔をする彼に思わず謝る。

無駄に顔が良いからそんなションボリされると心が痛むというかなんというか……。

「別に良いぞ」

それに何故か偉そうに返した彼に、今の状況を思い出し怒りが湧く。

「いやいや、貴方なんなんですか!?急に現れて魔法が使えるなんておかしな事言って!!見た所同い年位だと思うんですけど何処の誰ですか!?」

怒りをぶちまける様に言葉を積み立てれば、ぽかーんとした後、ああ、と言葉を発し納得した様な顔をしてこう続けた。

「俺か?俺は魔法界から来た魔法使い、レインだ」

それに対しての私の反応はこちら。

「は?」

いやー、たった1文字でこの時の心情を表現出来るって、やっぱ日本語は奥が深いねぇ。

そう、彼――レインの言った事に対する驚愕や呆れが読み取れる!

あははー、と心の中で1人笑っていると、

「だから、俺は魔法界から来た――」

「大丈夫です聞き取れなかった訳じゃないですっ!」

もう一度繰り返そうとしたレイン。

慌てて遮ると、

「そうか?」

と、不満そうに顔をしかめる。

「そうですっ!」

首が取れそうな程カクカクと頷くと、

「なら良いが」

そう言って、にこりと笑う。

顔の良さと相まって眩しい……!!

まあこの方不審者なんだけど!!

「とっ、とにかく!聞き取れはしたんですけど、意味が分かりませんっ」

「ふむ、そうか。なら詳しく説明しよう」

「おっ、お願いしますっ!」

私は独特な雰囲気のレインのペースに巻き込まれ、つい話を聞く事になってしまった。

「まず、今1度言うが俺は魔法界から来た魔法使いレインだ」

同じ様に告げたレインに、

「取り敢えず分かりました……。それであの、魔法界って?」

と、疑問に思った事を聞いていく。

「魔法界はここ、人間界とは違い魔法使いやそれに準ずる力を持った種族が暮らしている。例えば、エルフやゴブリン等だな」

わっ、それ何かゲームとかでよく見るヤツだ!

はしゃぐ心の中とは反対に、冷静に質問する。

「はあ、なるほど?じゃあ何で私はもう魔法が使える(らしい)んですか?」

「それは、俺がお前に魔法の力を渡したからだ」

ふむ、でも一体何の為に?

「何で私に渡したんですか?」

「それは、この人間界に危険が迫ってるからだ」

ええっ、危険……!?

思わず、ゴクリと息を飲む。

「魔法界でも暴れていた『カンバトロス・サンダー』という魔人が魔法界と人間界を繋ぐ扉から人間界、しかもここ、日本へと来てしまったみたいでな」

カ、カンバトロス・サンダー?

何か凄い名前…。

それがこの世界に来た、って事か!

ふむふむ、なるほど。

「それに魔法界屈指の実力者である俺が退治に来た訳だ。まあ、他にも何名か来たが」

えっ、レインって実力者なの!?

それでもどうして私にわざわざ魔法の力を?

「だが、魔法界の者はこの世界では存分に力を発揮出来ない。その点、ヤツは魔人だから人の血が混じっている。だから人間界でも力が発揮出来る。その中だと、そうそう勝てなくてな」

へえ、そういう弱点があるのか……。

少し面白がりながらも口を挟まずレインの話を黙々と聞く。

「ただ、元からこの世界に暮らしている人間に魔法の力を授ければ、その人間は魔法を授けた者――俺の本来の力を俺よりは多少、使えるようになる」

はっ、つまり!!

「つまり、お前はカンバトロス・サンダーを倒さなくちゃならない」

ははあ、なるほど、分かりました――

「いや、馬鹿なんですかっ!?」

何て訳もなく、話を聞き終わった後、本音を漏らすどころか叫ぶ。

いやいやいやいや、そんな夢物語みたいな事信じられる訳が無くない!?

仮にも私は理系女子っ、魔法や幽霊やそういった科学で証明できない非現実的な物は信じない派なんです!!

「馬鹿じゃない」

「馬鹿でしょっ!」

頬を膨らませて否定したレインに私も間髪入れず否定する。

「あのですねっ、そんな嘘はもっと小さな子じゃないと信じませんよ!!って、小さな子に嘘ついちゃダメですけどね!?」

「嘘じゃない。事実だ」

変わらず真実だと否定する不審者。

ええいっ、イケメンだからって何でも許されると思うなっ!

「何が目的か分からないですけどっ、嘘つくの良くないですよ!?」

「――なら、試してみるか?」

「えっ?」

思わぬ言葉に驚いて反応する。

「疑ってるのなら、試せば良い」

そう言って段々と近付いてくるレイン。

待って、何で近づいてくるの!?

ちょ、ちょっと、誰かっ、

「――晴ちゃん?」

「っ、雪ちゃんっ!!」

助けを求めた先、救世主が現れる。

その名も私の親友、夢鐘雪ちゃんっ!

私が怖さから雪ちゃんに縋り付くと、

「どうしたの、晴ちゃん!大丈夫?」

と、心配してくれる。

私は答えないまま、そっと周りを見渡すとレインの姿はいつの間にか無くなっていた。

安心して、ほっと息をつく。

「うんっ、大丈夫……!雪ちゃんが来てくれて助かったよぉっ、ありがとう!」

「?よく分かんないけど、どういたしまして?」

きょとん、とした顔でそう言った雪ちゃん。

そりゃあ分からないよねぇ……。

でも本当に助かったぁ。

「あっ、晴ちゃん、そろそろ学校行こ?遅れちゃうよ!!」

「はっ、そうだった!ごめんっ、行こっか!」

雪ちゃんに声をかけられ、私は先程の不審者・レインが少し気になりながらもそのまま学校へと向かった。


「おはよーっ」

「あ?晴じゃねぇか」

教室に入って挨拶をすると、幼馴染、というより腐れ縁の高梨霧夜が、何故か少し不満気な顔をしながら私の名前を呼ぶ。

「――おめー、朝喋ってた奴居るだろ。あれ誰だよ?」

「うえっ!?」

それって絶対レインだよね!?

特に隠してる訳じゃないし、不審者だから大人に話した方が良いんだろうけど……。

「あー……、たまたま会った子だから、私もあんまり分かんないや」

「……ふーん、あっそ」

なんとなく適当にかわすと、自分から聞いてきたくせに興味無いです、って目をして離れていく霧夜。

一体なんだったんだろう……?

「今日も霧夜君かっこいいねっ」

こっそりと私にそう囁いた雪ちゃん。

雪ちゃんは霧夜の事が好きなんだって。

「ええーっ、そう?」

私としてはあんな無愛想で口の悪い霧夜なんかを、すっごく可愛くて優しい雪ちゃんが好きなのは納得いかないんだけど…。

雪ちゃんから見るとかっこいい、らしい。

「そうだよー!晴ちゃん、霧夜君と幼馴染で良いなぁ……」

「幼馴染って言うよりただの腐れ縁だよーっ、全然良くないって!」

首をブンブン振りまくって否定すると、雪ちゃんは羨ましそうな溜息をついた後こう言う。

「えー、そう?霧夜君は晴ちゃんの事好きに見えるし……」

「へ!?」

思わず反応すると、雪ちゃんは少しニマニマと私に詰め立てる。

「絶対そうだよぉ、霧夜君いつも晴ちゃんの事見てるし!」

「いやいやいや、絶対そんな事無いよ!?というか雪ちゃんって霧夜の事好きなんだよね?何でそんなニマニマしてるの!?」

「それはそれ、これはこれ!人の恋愛話ほど面白いものは無いよー??」

可愛くて優しくて最高の親友、雪ちゃんの唯一の問題は人の恋愛話が好きすぎる事!

っていう位そういう話が大好きで、自分が好きな人が別の人が好き、って話でもニマニマと楽しそうにしてるんだよね……。

「そういえばっ、晴ちゃん朝誰かと話してたんだよね?どんな子っ!?」

「えっ、と……。か、かっこよかった、かな?」

「へええええーーー」

またレインについて聞かれて、確かにイケメンではあったからそう言うと、何故か生暖かい目でニマニマと見られている。

「ちょっ、何その反応!?」

「べっつにー?かっこよかったんだぁ、って」

「絶対それだけじゃ無いでしょ!?」

「それだけだよぉ?あっ、もうすぐチャイム鳴るから、後でねー!」

あっ、逃げられちゃった……。

絶対あの反応は何か誤解してる、レインはただの不審者なのに!

私は気付かなかった。

そう思うならやはり大人に相談すべきだったという事を。

……馬鹿じゃないからね?

キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴り、急いで席に座る。

荷物をしまっていると、初めて見る誰かが廊下に立っているのが視界の端にチラリと映る。

その子もレインとは違うタイプのイケメンで印象に残った。

うーん、1度見たら忘れなさそうなんだけど、見た事無いんだよな。

一体誰だろう?

しっかりと見ようとそちらに頭を動かす。

すると、いつの間にかその子は居なくなっていた。

ええっ、どこ行ったの……?

素早い動きにぽかーん、としていると、扉から先生が入ってくる。

「起立!」

先生が教卓に立つと、委員長の琴谷霜葉ちゃんが号令をかけた。

慌てて立ち上がり、軽く制服を整える。

おはようございます、と挨拶を終えると座って、いつもは先生が話し始めるのだが。

なぜか今日は先生もソワソワと落ち着かなさそうにしていて、話が中々始まらない。

「あー、えっとだな……」

口を開いたと思ったらそれっきり。

先生どうしたんだろう?

辛抱強く待ち続けていた私達だけど、それが長すぎたのか、クラスのムードメーカーの光崎風斗くんが突如声を上げる。

「せんせーっ、どうしたんですか、そんなモジモジして!!」

ワッ、と教室が湧いて束の間笑いの渦に包まれる。

先生は、笑いが収まるとようやく話を始めた。

「実はな、このクラスに転校生が来るんだ」

「まじすかっ!?」

風斗くんの驚きの言葉に続いて沢山の声があがる。

「ええっ、イケメンかなぁっ!?」

「いやー、やっぱ美少女じゃね?」

皆も転校生に期待大の様で、そういった声も聞こえてきた。

私も楽しみだなぁ、仲良くなれると良いんだけど!

「そろそろ呼ぶぞー」

先生もワクワクを隠し切れないようにそう言った。

更に騒がしくなった教室に、先生は満足気な笑みを浮かべて呼んだ。

「それじゃー、入ってこい」

キャーッ!と甲高い悲鳴が上がる。

扉から入ってきたその転校生は……。

「っ、レインッ――!?!?」

「ん?ああ」

そう、まさかのレインだったのです……!!

思わずガタッと席を立つ。

何だこの展開は!!

どこぞの少女漫画か何かか!?

心の中で1人ノリツッコミをしていると、

「何っ晴ちゃん、このイケメンと知り合い!?しかも呼び捨てじゃんっ、これは恋の予感……!!」

と、雪ちゃんがキラキラとした瞳で叫ぶ。

「っええっ、ちがーう!!断じて違うからっ!!」

「えーっ、本当にー?」

疑わしげな声を上げた雪ちゃんに、レインが私の援護をしようと口を開く。

「まあそうだな、俺達は魔法つか――」

「ちょっとレインが喋るとややこしくなるので黙っといてもらえますか!?」

が、更に場に混乱をもたらす言葉だったので、慌てて遮る。

辞めてっ、そんな信じれない事を当たり前の様に言おうとしないで!?

「レイン……っておめー、朝、晴と話してた!」

すると思い出したかの様にそう声を荒らげた霧夜。

「ええっ、晴ちゃんがかっこいいって言ってた、あの!?」

「はあっ!?晴、アイツの事かっこいいって言ったのかよ!?」

素っ頓狂な声をあげた雪ちゃんに、霧夜が責め立てる様な声色でそう叫ぶ。

確かに言ったけどさ、今関係無くない!?

皆呆然としてるよ!?

「おいっ、晴!アイツとはどんな関係なんだよ!!」

「きゃあっ、霧夜君が嫉妬してる!これって三角関係!?萌えるーっ!!」

「なになにっ、どういう事!?レイン?と晴が人に言えない関係なの!?」

「転校生の子、魔法って言ってなかった!?にしても、すっごいイケメンっ、付き合いたい!!」

「雪様ぁぁぁっ、三角関係に萌える雪様に萌えますーっっっっっ!!」

ザワザワどころかガヤガヤうるさくなる教室。

私とレインの関係!?

不審者と被害者だけど!?

イケメンだけど虚言吐く人と狙われた可哀想な人ですけど!?

ブチッ。

自分の中のどこかで堪忍の尾が切れた音がした。

「――一旦ホルマリン漬けになりたい?」

「「「「「すみませんでした」」」」」

口について出た脅し文句を放てば一瞬にして静まる。

これで良しっ、後レインは通報しよう!!

不審者が転校してくるの危なすぎないかっ!?

そんな1人決意を固めている私の耳に入った言葉は……。

「そういえば自己紹介をしてないな。俺は魔法使いの――」

「一度口を閉じろください!!」

空気の読めない不審者の虚言でした。

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