ヤンキーと遭遇?カエルが乱入?
「みなさん、今から初級の実技テストを行いたいと思います。」
若い女性の司会がマイクを持ってたんたんとテストの説明を聞こえやすい声で説明した。
つまりはこうだ、五人の審査官がいて、初級コースの私たちは五人ずつその審査官の前に立って指示に従い実技テストをする。それが終わったら各自ステージを降りて、そこからは自由行動だそうだ。友達と話してもいいしベンチで休憩しても構わない。
言われたことはそれだけだった。
私はもっと実技テストは何をやるのか、話してくれるのかと思っていた。
私はその場でテストの詳細が一切明かされないのが不安で仕方がなかった。
「さぁ自分の番号が書かれている列に並んでください!」
司会の人はみんなの緊張を紛らわすように明るい声で整列を促した。
*~*~*~*~
いよいよ、実技テストが始まる。
なんと、私の番号は一桁で整列すると、前には一人しかいない。しかもさっき青風先輩が言ってた朝丘さんだ。
朝丘さんは相変わらずパーカーを着ていて、こんなに暑いというのに手をポケットに突っ込んでいる。
私がため息をつくと、前の朝丘さんが急に振り返ってきた。
「うわっ」
私は後ずさりをして眉間に皺を寄せた。
ヤンキーっぽいひとには強気な態度をとる。これが私の身を守るルールの一つだ。
「朝丘さん、何か用ですか?」
朝丘さんはなんで名前知ってるんだよとキレ気味で言った。
(やっぱりヤンキーだ。こわいよぉー)
「お前さ、試験の内容とかわかんねーの?」
この人は何を言っているのだろう。
「分かりません、言われてないので!」
「何言ってんの」
朝丘さんは私を馬鹿なやつだと言った。
「はー?仕方ないでしょ!言われてないんだから」
「いや、ちゃんと大会のしおり見た?最後のページに書いてあったけど」
「え…えーー!」
「やっぱりお前馬鹿だな」
「いや、馬鹿じゃないです」
私は人差し指を朝丘さんの前に出して左右に揺らした。
「ちっちっち、こんな時のために私はしおりを持ってきてたんです!」
「いや、当たり前だから」
私はポケットに突っ込んでおいたしおりを開く。最後のページにはこう書かれていた。
実技テストの流れ
① 呪文を唱えられるか
② 実際にルズトイズと会った場合の手順をすべて行う(被害者の元へ走って駆け付けるタイムもはかります)
③ 被害者を運ぶ
④ 大きい声を出して音量測定器ではかる
(いや、最後のいる!?)
そんな私の疑問を朝丘さんは見透かして答えた。
「一人だった場合手を貸してもらうために仲間や一般人を呼ぶだろ?そのときに大きい声を出せるかが問題になるんだ」
「あーなるほどねー」
そして私は今気づいた。朝丘さんは先輩だ。強気になりすぎて敬語というものを忘れていた。
私が気づいたときに限って朝丘さんは聞いてきた。
「おまえ、何年生の誰?」
「あ、えっとー中学一年生の藤戸彩葉です」
「あー俺の方が年上だ!敬語使わないとー」
「あ、はい。スミマセン」
私が慣れない敬語で話しているとアナウンスが聞こえた。
「実技テスト、開始です!前に進むと審査官がいますので自分の名前と学年を言ってください」
朝丘さんは「うわぁー逃げ出したいよ」とブツブツ言いながら審査官の方へ歩いて行った。
朝丘さんの実技テストが終わり、私の番になった。
緊張を押さえながら前に進む。審査官は優しそうなおばあさんだった。
私は深く深呼吸をして今までのことを思い出した。
安藤さんと公園を何週もした早足の特訓、呪文の唱え方、そして実際に会ったルズトイズの手下。そのルズトイズの手下から私たちが守った黒井さん。そして、吃音を抱えている悟くん。この機会をくれた花鳥書店の岡崎さん。
頭の中でいろんな人たちの顔が次々と出ては消え、出ては消えが繰り返されている。
私はできる。みんなに支えてもらった。だから、できる!
私はもう一度息を吸って空に届くくらいの声で言った。
「中学一年生!藤戸彩葉ですっ!!」
思ったより声が出てしまい慌てて口をふさぐ。
審査官のおばあさんはニコニコしながら「お願いします」と頭を下げた。
私も頭を下げる。
「じゃあまず手鏡とペンを用意して、呪文を唱えてくれる?」
「はい」
私は「IROHA」と刺繍されたケースからきらりと光っている手鏡と特別なペンを出した。
そして手鏡に書くふりをして、
「ユウシノミコト我らあそびものを守り抜け!」
と魂を込めて言った。
おばあさんはフムフムと書類に何か書いている。
「では次にあのマネキンが被害者だと思って手順をすべて行ってください」
これは自信があった。なぜなら、瑠花の動きを見てきたからだ。
私は瑠花に鍛えられた足で被害者の元へ駆けつけ、すべての手順を順調にこなした。
「そして被害者を運んでください」
私は言われた通り被害者のマネキンに肩を貸し、歩いて元の位置に戻った。
「最後に「誰かいますか」と大声で叫んでください、誰かに助けを求める感じで」
私はこのステージ上の空気をすべて吸い込む気持ちで息をおなかに溜め、大声で叫んだ。
「誰かいませんかぁぁーー!」
少し恥ずかしかったけどなんとか自分の力を出し切った。
安心しておばあさんに目をやると書類にまた何かを書いて私の方を見た。
「これで終わりになり……」
言葉の途中でおばあさんは口を開いたままになってしまった。私が何かダメなことをしたかなと思ったが、おばあさんは私の後ろを指さしていた。
私がゆっくり振り向くとそこには……
私が見たこともないようなでっかいカエルがいた。
「か、カエル!?」
そのカエルは私の方にぎょろぎょろとした目を向けた。
「そ、それはルズトイズの手下よ!」
「え!?」
前の大きい鳥もルズトイズの手下で怖かったけれど、それよりも強そうな手下のカエルだ。
(そうか、手下はあの鳥だけじゃなかったんだ。もっとたくさんいるんだ)
周りを見ると私以外のトイプロメンバーや審査官はすでにステージから避難していた。
残されていたのは私だけ。
私は無意識に自分の手鏡とペンに手を伸ばしていた。
手鏡には守るものとその想いを書かないといけない。明らかにこのカエルは私を狙っている。
あぁ、そうだ。
私、小学校の親友、如月風香にもらったイルカの小さい人形がポケットに入ってる。これは私のお守りみたいなものだ。
私に手のひらサイズのイルカの人形をくれたとき風香はこう言っていた。
「彩葉、これからも親友でいようね、離れても覚えていてね?」
私はペンを握り、風香を思い浮かべながら手鏡に書いた。
守るもの:イルカの人形
それに込められた想い:いつまでも親友
それをカエルの前に突き出して魂を込める。
でも、そのカエルは手下とは思えないくらい強くて私が魂を込めようとしても邪魔をしてくる。
私が苦戦していると誰かがステージに飛び乗ってきた。そして私をかばうように大の字になって私の前に立った。
その人は振り返って私を見た。
「大丈夫?」
「あ、青風先輩!?」
それはさっきベンチで話した青風先輩だった。
「ど、どうして」
「それはこいつを倒してから話すよ」
私が魂を込めるのを邪魔してくるカエルを青風先輩が引き止めてくれている。
今なら、いける!!
私は胸にそっと手を当てる。
風香、ごめん。私ずっと悲しい記憶を忘れようとしてた。でも、忘れちゃだめだよね、風香のことは覚えていたいから。
すると、光の布がどこまでも伸びてあんなに大きかったカエルを包み込んだ。
そしてあっという間に私の持っている手鏡に吸い込まれていった。
青風先輩は私の方に歩いてきて私の肩に手を置いた。
「よくやった!」
私は嬉しくて、安心して、膝から崩れ落ちてしまった。
瑠花も駆けつけてくれて私は安心で涙をこぼしてしまった。
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