「守る」の意味
「おっはよー」
朝、教室に入ると空ちゃんに話しかけられた。空ちゃんは普段一緒にいることのない女の子と話していた。
安藤さんは…相変わらず自分の席で本を読んでいる。
「おはよう。あれ、花ちゃんは?」
「今日体調悪くて休んでるんだ」
「そうなんだ」
「あれから大丈夫そう?」
「……」
「あいつから守ってあげるからねっ!」
私は深呼吸をした。
(大丈夫。本当の気持ち、言える。)
「あ、あのさっ」
「なに?もしかしてなんかされた?」
「違うの、私…」
空ちゃんは面倒くさそうに私を見つめていた。
(怖い…けど言うんだ。あの主人公の親友みたいに後悔したくないから!)
「本当はね、守ってもらわなくていいの」
「は?何言ってるの」
「私は守ってほしくない、空ちゃんは守るって言葉の意味分かってないよね?」
「わ、分かってるよ、その人から嫌なものを遠ざけるとか、そういう意味でしょ!」
「守るっていうのはその人のすべてを守るってことだよ、その人の気持ちも全部」
「あっそ、私は藤戸さんのために守ってるんだよ」
耐えきれなくて私は言った。
「違うでしょ…私のためなんかじゃない。安藤さんを仲間外れにしたいからでしょ!」
「ち、違うし」
空ちゃんは目を泳がせている。
「違くないよ。安藤さんを仲間外れにして自分たちが目立ちたかったんでしょ?」
「別に、私は藤戸さんを守りたくてっ」
空ちゃんは今にも泣きそうな顔をしている。
泣きたいのはこっちだ。
「私は安藤さんといたほうが楽しいの」
(ああ。どうしよう、言ってしまった)
心の中で一瞬後悔した。でもこれは一瞬の後悔。このまま私が流されて安藤さんが離れていくのはたぶん、一生の後悔。
すると、空ちゃんは子供みたいに泣き出した。
「うっうっ藤戸さんさいあくぅ~」
空ちゃんがあまりにも大声で泣くからいつのまにかクラスメイトのみんなが私たちの周りを囲んでいた。
でも、私はどうしても最後に言いたいことがあった。
「私のことぜんっぜん守れてないよ、だって私の気持ちを守ってくれなかったじゃん。私の気持ちを決めつけないで」
泣いている空ちゃんにきつく言うのは本意ではなかった。
すると、誰かが「すご」とつぶやいたのが聞こえた。
(違うよ、すごくない)
私がこうして自分の気持ちを言えたのも空ちゃん一人だったからだ。花ちゃんもいて二人にののしられていたら、きっと私が泣いていた。
だから強くはない。誰かを守ろうと思って言っているんじゃない。流されたくないっていうただの自分の気持ちかもしれない。でも…後悔したくないから。
教室が一瞬静かになった後、周りのみんなはまたざわつき始めた。みんなが話しているのが聞こえる。
「藤戸さんってこんな子だったっけ?」
「なんかキャラちがーう」
私のキャラっていうのは私が我慢しているときのキャラだ。でも、我慢できなくなったときの私も私のキャラだ。
私がどうしていいか分からず、立ち尽くしていると、担任の先生が教室に入ってきた。先生は驚きを隠せず名簿を落としてしまった。大きな音が鳴って先生に気づくとみんなはすぐにはけていった。
「二人とも放課後に職員室に来てください。みんなも席について」
先生は怖い顔をして私と空ちゃんに言った。
私は安藤さんの前を通って席に着いた。安藤さんは本を開いているがおそらく読んでいない。私と空ちゃんの話を聞いていたのだろう。
最初の一ページで止まっていた。
空ちゃんは手で涙を拭きながら今頃恥ずかしさがこみあげてきたのか、それとも怒って興奮したのか耳が真っ赤になっていた。
その後の授業はどうしても集中できなかった。
どうしても視界に空ちゃんと安藤さんが入ってきてしまうのだ。
空ちゃんは授業中一切顔を上げていなくて、
私は申し訳ない気分になった。たぶんそれは本当の気持ちを伝えてしまったからじゃない。泣かせちゃったからだ。泣かせると私が悪いと自分で思い込んでしまうのだ。
安藤さんはいつも通りのような気がしたけど少し挙動不審だった。私はそれを見て落ち込む。きっと私が安藤さんの名前を上げちゃったからじゃないかなと思った。
放課後になって私はドキドキしながら安藤さんに話しかけた。
(昨日のこと怒っているかな…怒るよね)
「あ、安藤さん」
すると安藤さんは言う言葉を決めていたかのようにこちらを向いて
「待ってるから行ってきて」
と言った。
「ありがとう!」
私はゆっくりと職員室に向かった。
*~*~*~*~
「ふぅ」
何とか先生に本当のことを伝えられた。
空ちゃんは言い訳ができず不満そうだったけれどね。
「安藤さん!待っててくれてありがとう」
「公園で特訓しよう」
「うん」
外に出ると風が私の髪を揺らした。今までのモヤモヤ、ズキズキが風に運ばれて行った気がして、気持ちがスッキリした。
「すごいね」
「え?」
「あんなに直接言える人中々いないよ」
「私は弱いよ」
「なんで?」
「昨日も空ちゃんと花ちゃんに流されて特訓行けなかったし」
「あれは…正直な気持ちを言うと怒ったよ」
「本当にごめんっ」
私は頭が膝につく勢いで頭を下げた。
「いいよ。波島さんと桜井さんはしつこいからね、藤戸さんが単に面倒くさくて来なかった訳じゃないって思ってたよ」
「ありがとう。でも本当にごめん」
「もう謝んなくていいよ。特訓しよう!」
「うん!」
私たちはいつもと同じように歩きだした。
やっぱり居心地が良いのはここだ。
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