特訓さぼっちゃった!?
私がいつもどおり登校すると急に名前を呼ばれた。
「藤戸さん!」
「あ、はい」
「ちょっと来て」
私は空ちゃんと花ちゃんに廊下に呼ばれた。
嫌な予感がして私は聞いた。
「あの、どうかしたの?」
「なんであいつといるの?」
花ちゃんから「あいつ」という言葉を聞くと少し怖い。花ちゃんはいつもふわふわしていてかわいいイメージだから。
「あいつって?」
大体予想はついた。でもその名前を自分から言うのが怖かった。
「安藤さんだよ、なんで仲良いの?」
「仲良いっていうか…」
トイプロで一緒にいるだけ…でも、そんなことは言えない。関係者以外は話してはいけないらしい。
「公園でも一緒にいたよね?やめたほうがいいよ」
「え、なんで?」
私の質問をスルーして空ちゃんが言った。
「あ!今日一緒に帰ろう?」
(え?)
「それいいかも!」
「え、でも…」
空ちゃんと花ちゃんによってどんどん話が進んでいく。私はまるでお母さん同士の話をきょとんとして服をぎゅっとつかみながら見上げて聞いている小さな子供のようだ。
「ってことで!また放課後!」
「またね~」
「ちょっと…」
私のかすかな声を聞き取ろうともせず空ちゃんと花ちゃんは教室に入ってしまった。
「待ってよ」
私の情けない声はチャイムの音でかき消された。
私は重たい足を持ち上げて教室に入った。
やっとのことで席に着くと音楽の先生がDVDを持って教室に入ってきた。
「みなさん、今日はビデオ鑑賞です。プリントを配るので思ったことを書いてください。」
そのビデオはミュージカルの「仮面と心」という題名だった。
主人公の少年はいつも仮面をかぶって生活していたある日、王がそのことを嫌い、仮面を無理やりはがす。少年の顔はまさかの狼で、もう誰も近づいてくれず、一人で死んでいく。という悲しいお話だ。
みんなは主人公に注目しているだろう。
だけど私は主人公の親友から目を離せなかった。
主人公の親友は狼の顔をした主人公でも仲良くしたかった。しかし、町の人から「近づかないほうがいいわよ、悲しいのは分かるけど他にもたくさん友達はいるわ」と言われ、本心を出せず最後に主人公が死んだと聞いたときは悲しみ苦しんでいた。
私はプリントに目をやった。
【このミュージカルを見てどう思いましたか?自由に書いてください。】
私は「仮面をはがされた主人公がとてもかわいそうでした」とごく普通の感想を書いた。
でも、本当は主人公の親友に伝えたいことがある…
「自分の意見をはっきり言えない。私も同じだよ。」
*~*~*~*~
「ふーじーとさんっ!」
「は、はい」
「帰ろう!」
私は空ちゃんと花ちゃんの圧に断ることもできず放課後が来てしまった。
「ねね、藤戸さんって家どの辺?」
「あ、あっちだよ」
私が指さす方向を見て花ちゃんはニコッと笑った。
「方向一緒!」
(あぁ最悪だ)
私は部活や委員会がない日はいつもすぐに帰っているけれど、空ちゃんと花ちゃんは教室でおしゃべりしているから空ちゃんと花ちゃんには帰り道、会わなかった。
方向が一緒でなければ安藤さんとの特訓に行けたのに。
靴を履いて空を見上げる。
今日は雲一つない快晴だ。
それとは真逆に私の心は曇って小雨が降っている。
「藤戸さん、なんか公園で変なトレーニングしてなかった?あはは、思い出すだけで笑えてきちゃった」
「それな~あれはやばいって!」
「変?やばい?」
私がよく分からないでいると、花ちゃんがひきつった笑顔を浮かべた。
「お、おかしいよ」
(花ちゃんには「変」、「おかしい」空ちゃんには「やばい」って…なんでそんなこと言うの?)
「そうかな…」
「とにかくやめなよ」
「うちらが守ってあげるからっ」
花ちゃんは私の肩をトントンとたたいた。
花ちゃんには安心させるための方法だったのかもしれないが、それは私には嫌な予感しか感じさせない。
「花ちゃん、守るって?」
「あいつから守るってこと」
「え?」
空ちゃんと花ちゃんは何も分かっていない。私は安藤さんが嫌いなわけじゃない。
そのことをどううまく伝えようかと必死に考えていると「藤戸さんどっち?」と聞かれているのに気付いた。
空ちゃんと花ちゃんは別れ道で立ち止まり、私に向かって家の方向を聞いていた。
「こっちだよ」
「え~私こっち」
ほっとした。空ちゃんと花ちゃんと別れられてとても安心した。失礼かもしれないがほっとした。とても。
「はぁ」
家に着いて自分の部屋に入ったとたん、大きなため息を漏らした。
今頃安藤さんは公園でトレーニングをしているのだろうか。
「行ったほうがいいかな」
ボソッと口に出してみたけれど空ちゃんと花ちゃんに見られたら…きっとまた何か言われる。
安藤さんと「毎日特訓!」と決めたのにもう破っちゃうなんて…
私は一人冷房の効いた部屋でカンカン照りの外を見つめていた。
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