早足特訓開始!!
翌日、帰り道で安藤さんに声をかけられた。
「私の行きつけの本屋さんに行こう!」
(いや、さっぱり意味が分からないんですけど?)
しかし、安藤さんは私に有無を言わせずスタスタと歩いていく。
そこは通学路から少し離れた通りにある「花鳥書店」という本屋さんだった。
安藤さんが慣れた足取りで入ってゆくので私も目をキョロキョロさせながら本屋に入った。
中は思ったより広くて奥に自習室のようなものがある。
カウンターには店長さんらしき若い女性が立っていた。
その女性は安藤さんを見ると満面の笑みになって「瑠花ちゃんじゃーん!」と元気に言った。
「どうも詩織さん」
その人は名札に岡崎と書いてあったから多分岡崎詩織さんって言うのだろう。
「その子は?まさか、友達っ!?」
「違うよ、ペアの子」
「なんだー」
岡崎さんと安藤さんの反応からすると転校する前からの付き合いなんだと思う。
「こちらが岡崎詩織さん。花鳥書店の店長だよ」
「こ、こんにちは」
私は緊張しながら挨拶をした。
「こんにちは〜!名前は?」
「あ、藤戸彩葉です!」
「可愛い名前だね!」
「あ、ありがとうございます」
「彩葉ちゃんが瑠花ちゃんのパートナー?」
「はい」
相応しくないと思われたのかな…でもそうかも、昨日も私はルズトイズの手下を倒せなかった…
「絶対相性抜群だよ!」
私は驚いた。
「え、そんなことないです!」
「なんで?」
「だって、私まだ何も覚えてないですし、昨日も全部安藤さんや小学生に任せちゃったし…」
自分のみじめなさまを言葉にしていくうちに体が小さくなっていくような気がした。
「何言ってんの!」
私は肩をパンパンと叩かれた。
「そもそもパートナーが相性悪かったらどうするの!彩葉ちゃん心配しすぎだよー」
「え、でも…」
すると私の言うことが分かったのか、安藤さんが「大丈夫だよ、今から特訓すれば」と言ってくれた。
私はなんだか少しほっとした。
「あ!じゃあいいこと教えてあげるー」
岡崎さんは後ろの棚から一枚のチラシを取って私たちの前に突き出した。
「トイプロ、全国、大会…?」
私が頭の上にはてなマークを浮かべていると安藤さんが「なるほど」と呟いた。
「つまり、私たちがその大会に出たら力がつくんじゃないかってこと?」
「あったりー!」
「ぇぇえ!!」
「大丈夫だよ。彩葉ちゃん、この大会は初級、中級、上級、プロに分かれているから、まずは初級に出たらいいし…ね?」
「そ、そうなんだ」
(それなら、頑張ってみようかな…?)
「よしっ!そうとなったら特訓だよ!」
「うわっ!!」
安藤さんの急な意気込みにびっくりしたけどおかげで私も頑張ろうと思えた。
*~*~*~*~
「ちょっと、速いって」
「え、まだウォーミングアップだけど」
安藤さんと私は毎日、学校の帰りに公園で特訓をすることにしたんだ。
私も最初は「ま、毎日!?」って思ったけど1ヶ月後に大会があるから休んでいる暇はないんだ。
(にしても…)
「速すぎるってーーー!」
私は安藤さんの背中に向かって心のままに叫んだ。
安藤さんは公園を1周歩くって言うから私は「なーんだ!簡単じゃん」って大口を叩いちゃったんだ。
「はぁはぁ」
「大丈夫?」
そこには、安藤さんが居た。
(さすが、戻ってくるのも早い…って感心している場合じゃない!)
「いやいや、あれは歩くって言わないでしょ」
「走ってない」
「でもさぁ…」
「時間ないから早く立って」
安藤さんから差し伸べられた手を使って私は力を振り絞って立った。
「私が後ろを歩くから」
「え!安藤さんが後ろで私が前?」
「うん。だってすぐに居なくなるから」
「は、はいー…」
(それはこっちのセリフ!)
私たちが気を取り直して歩いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「え!まって、そのヘアゴムちょー可愛いんだけど!」
「でしょ!キラミナで買ったんだー」
「いいな〜」
そこでは、クラスメイトの花ちゃんと空ちゃんがベンチに座っておしゃべりしていた。
「あ、彩葉ちゃん!」
「空ちゃんと花ちゃん!」
空ちゃんと花ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。
私も手を振り返そうとした。
すると、さっきまで 二人は私の方を向いていたのに、私の後ろに目をやって、眉間に皺を寄せた。何かヒソヒソと話している。
後ろには……そう、安藤さんがいる。
(でも、ここで後ろを向くと安藤さんに追い抜かれちゃう)
私は安藤さんがどんな顔をしているかがとても気になったが最後まで前を向いて歩いた。
「安藤さん」
やっと特訓が終わって私は汗だくになりながら聞いてみた。
「さっき花ちゃん空ちゃんが居たけど、えっとー…」
「なに?」
私は言葉に詰まってしまった。
(「仲悪いの?」もおかしいし、「嫌いなの?」もやっぱり変)
「あの…なんかあったの?」
結局あやふやに聞くことしか出来なかった。
「別に」
「え、ほんとに?」
「あっちが色々言ってくるだけ」
「え?」
花ちゃんと空ちゃんは常にクラスの中心にいる女の子だから、安藤さんと意見が食い違うことがあるのかもしれない。
安藤さんは頭がよくて運動神経も抜群だ。そして無口。残念ながら標的にされそうな感じではある。
考えてみれば別に不思議なことではない。
「あいつの考えていることはやばいとか、クラスに協力してないとか、生意気とか…」
「なにか意見の食い違いとかがあったの?」
「違う、ただいつもの教室でいつもの席に座ってただ本を読んでいたら言われる」
私は複雑な気持ちになった。
なんて言ったらわからない「モヤモヤ」と「ズキズキ」だ。
「もう暗くなってきたから帰ろう」
「そ、そうだね」
結局私は何も言えず家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます