またもやルズトイズ現る?
「た、助けてぇーーーー」
さっきの大きい鳥が現れた場所でまたもや誰かに追い詰められているような悲鳴が聞こえた。
「みんな、いくよ」
安藤さんは私と山本双子の前に立って走り始めた。私は必死になってその背中を追いかけた。
さっきの場所と全く同じ場所で男の子が倒れている。
「ぼ、ぼぼ、僕の人形だもん!か、かか、返してよー」
細い声で男の子は呟いている。
私はすぐさま男の子のそばへ行った。
男の子の真ん前には……
「え…?」
この男の子と同じ年齢くらいの女の子のグループがいた。
「ど、どうしたの?」
「ぼ、僕はこ、ここ、この人たちにい、いい、いじめられてい、います」
*~*~*~*~
最初はわけがわからなかったが、男の子が一生懸命話してくれて事の事態をようやく理解した。
この子は金木悟くんといって吃音を抱えている男の子だ。目の前で仁王立ちをしている女の子のグループから、いつも人形を学校に持って行っていると馬鹿にされていたのだ。
女の子たちはまるで自分たちは悪くないかのように言い張る。
「悟くんがもう五年生なのに人形を持ってきているのが面白くてちょっと人形を見せてもらっただけです」
一人の子が言うとすぐさま他の子たちが加勢する。
「そうよ、別に意地悪なんかしていないわ」
「だよねー、なのに悟くんが頑固だから」
「ほんとほんと」
すると安藤さんが口をはさんだ。
「ねえ、なんでその人形を早く返さないの?」
確かに、見せてもらうだけならすぐに返したって良いはずだ。
「そ、それは……」
女の子たちが言いよどんでいるすきに安藤さんは女の子の手からその人形をするりと取って悟くんに渡した。
「あ、ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
そして女の子たちは安藤さんの鋭い目つきに耐えられず逃げてしまった。
「安藤さん、目がとてつもなく怖いよ…?」
「あ、あぁごめん」
「お姉ちゃんたち、ぼ、ぼ、僕と同じ経験、あるの?」
悟くんは私と安藤さんを見て何の迷いもなく言ったから私は驚いてしまった。
「そうなの?安藤さん」
「え、あ、ううん。藤戸さんこそどうなの?」
「いや、私は…」
「そっか」
安藤さんは苦い顔をしていた気がしたがすぐに普通の表情に戻った。
私の顔も多分、笑えてはいなかった。
悟くんも何か言いたげだったけど私は悟くんに聞いた。傷つけないように、優しく。
「あのさ、悟くんはなんで人形を学校に?」
「な、何でもき、きき、聞いてくれる……から」
「え…?」
「みんなは、ぼ、僕をま、待たないんだ。僕しゃべるのがへ、下手で、い、いい、いつもみんなにき、気持ちが伝わらない。つ、つつ、伝わったとしてもふ、ふ、普通の人より遅くなっちゃう」
私は「ゆっくりでいいよ」と悟くんに言った。
「だ、だっ、だけどね、に、人形はせ、せせ、せかしたりしない。い、いいつも僕が言い終わるのをま、ま、待ってくれる」
悟くんは小さいクマの人形をそっとなでた。クマの人形は本当に悟くんの話を聞いてくれているみたいだった。
「あ、クマのそのお人形を大事にしてあげてね?その子もそう言ってる」
「え?わ、わわ、分かるの?が話していること」
「うーん、分からないけど、なんとなく」
「なんだ、お、おお、お姉ちゃんはひ、人の声聞こえないんだね」
「え、悟くんは?」
「ぼ、僕分かっちゃうんだ」
私はまた驚いてしまった。
「じゃあさっき、私と安藤さんに聞いたのも?」
「うーん、ちょ、超能力とかじゃないけど、な、なんとなくだけど」
私は話そうか迷った。これを話したらせっかく仲良くなった仲間が離れていくんじゃないかって。
そんな迷っている私を尻目に安藤さんは言った。
「すごいね悟くん、あたりだよ」
安藤さんはあきらめて自分の経験を話し出した。
「私も馬鹿にされたことがあったんだ。私、小学生のころ、あるキャラクターの人形が好きで、でも、それを馬鹿にされて誰も私に話しかけてこなかった。結局私はひとりぼっち」
安藤さんは下を向いたまま続ける。
「そのキャラクターの人形が好きっていうだけで馬鹿にされたんじゃないの、私はコミュニケーション能力がないらしくて、いつも一人だった。それでみんなに気持ち悪がられてた。」
咲ちゃんはそっと安藤さんに話しかけた。
「あの、安藤先輩。私は静かで自分の意志が通ってる。そんな安藤先輩がかっこいいなと思って今推してるんです!だから落ち込まないでください」
「ありがとう」
「や、やっぱり、お姉ちゃんも…」
安藤さんはしゃがんで悟くんの頭を撫でた。
「悟くん、あの女の子たちのことは気にしなくていいよ、いつか最高の仲間が現れるから。ね?」
「うん!ぼ、ぼぼ、僕、お姉ちゃんみたいなか、か、かっこいいひとになる!」
「うん、頑張ってね」
「はーい!じゃ、じゃあね!」
男の子は手を振って元気よく走っていった。
「はー、よかったー」
私は安堵の表所を浮かべている安藤さんに手をかして立ち上がらせた。
そして私と同じ目線の高さになった安藤さんはまっすぐな瞳で私に聞いた。
「藤戸さんも何かあったの?」
「え…っと、私は……」
ここで話さないと安藤さんが離れていく気がして、でも話したらもうトイプロの活動を続けられなくなる気がして、私は黙った。
「話せないならだいじょう……」
私がいつも言われてきた言葉を安藤さんが言い終わる前に私は口を開いた。
「いや、話すね」
私はゆっくりと記憶の蓋を開けた。
私は小学生のころ、大好きな親友がいたの。
いつもその親友と居て、きっと中学校が変わっても会える。だから別れなんて想像していなかったの。
別れは急に訪れた。五年生が始まって一週間くらいたったとき、その親友から転校するって言われたんだ。私は本当に悲しかったし、はなればなれになるのが嫌だった。でもそれと同時に怒りもこみあげてきた。一緒に卒業しようって言ったじゃん、私をひとりぼっちにしたんだって思っちゃったの。まあ、それくらいは心の中にしまっておけた。でも、その親友が転校を知らせてきた次の日、私が気分を上げようと思ってつけてきたキーホルダーをちょっと馬鹿にされたんだ。いじられたって感じかな。普通だったら「やめてよぉー」って笑いながら言うんだけど、その時は笑えなかった。昨日、心の中にしまっておいたものがあふれて、怒っちゃったんだ。引っ越しを見送るはずだった日も仲直りできないままで、私は集合の場所に行かなかった。もちろんお母さんは「行きなさいよ」って言うんだけど、仮病を使って私は行かなかった。
私があの人形のキーホルダーを好きでいなければ、つけていかなければ私の怒りがあふれることはなかったのに。
話し終わると空気がどんよりしていた。
「あ、あぁごめん。重い話しちゃって」
私はこの場の雰囲気を明るくしようと必死で笑顔を浮かべた。
でも、安藤さんは真剣な顔をしたままだ。
「あの、私は大丈夫だから。ね!」
「本当は大丈夫じゃないでしょ?」
安藤さんは少し怒るような口調で言った。
「私もさっき言ったように同じような経験があったよ、だから分かるの。藤戸さんは記憶をなかったことにしようとしてる。ずっと心の奥底にしまってる」
安藤さんの言う通りだ。私は悲しい記憶を忘れようとしている。忘れないと苦しいから。
「でもさ、蓋をしている方が辛いと思うんだ。だから私には話してよ。同じように悲しい記憶があるもの同士さ!」
私は自分の目に涙がたまっているのに気づき、慌てて拭く。
「ありがとう、安藤さん」
「うん、もう夜になっちゃったし帰ろっか」
すると、タイミングを待っていたように咲ちゃんは安藤さんの方を向いて目をキラキラさせて言った。
「あの!安藤先輩!連絡先きいてもいいですか!」
安藤さんはクールな表情でうなずいた。
「いいよ」
「やったーーー」
咲ちゃんはとてつもなく大きなガッツポーズをした。
「ほんとに意味が分からねぇ」
「あはは、だね」
私と緑くんは安藤さんの発言にいちいち感動している咲ちゃんを微笑みながら見ていた。
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