役立たずの私
翌朝、私的にはいろいろあった教室に入ると、安藤さんが勢いよく迫ってきた。
「最近この町での目撃情報が増えているらしいんだ」
「ん、何が?」
「前に私たちがあった奴を覚えてる?」
「うん、大きい鳥だよね」
「そう。あれは「無遊団(ルズトイズ)」って教えたよね?それの手下なの」
「そうなんだ…」
あれでも手下ということは相当強い組織なのだろう。
「ルズトイズの手下がここら辺をうろついていると情報があったからパトロールをしようと思って…どう?」
「わかった!やろう!」
このままルズトイズの好き勝手にさせるわけにはいかない。
私は強く意気込んで自分の席に向かった。隣では由香子がニヤニヤしていた。
「ゆーかこっ!おはよ」
「おはよう、彩葉」
「ニヤニヤしているけど何かあった~?」
「星宮先輩が吹奏楽部に帰ってきてくれて、すっごくうれしいの!」
「うん、本当によかったよ」
星宮先輩は笑顔で吹奏楽部に戻ることを決めてくれたんだ。私たちの作戦がすべてを動かした!とまでは言えないけれどなにかを手助けできたはず!
私も由香子のニヤニヤしている顔を見てニヤニヤしてしまった。
無事、ニヤニヤの理由を誰かに聞かれることもなく学校が終わると瑠花と一緒に町の巡回を始めた。
まず、あの大きい鳥を倒すために目撃情報も集めることにした。
私たちは学校の前にあるこぢんまりとした文房具屋さんに話を聞くことにした。
「すみません、こちらで変な怪物のような、鳥のような、妖怪のような…えっと、そういったものは見ませんでしたか?」
私はルズトイズの手下を一生懸命手も使って表現し、店長の丸い眼鏡をかけたおばあさんに聞いた。
しかし、そのおばあさんは聞く耳を持ってくれず、「それさっきも言ってたよねぇ」と意味の分からない言葉を発しただけだった。
私と安藤さんは文房具屋から出て次はお花屋さんに行くことにした。
「あの、水森さん」
安藤さんは花の手入れをしている若い男性に話しかけた。すると、その人は「お、瑠花ちゃん」と親しそうに言った。
「安藤さん、知り合い?」
「うん、お姉ちゃんのパートナーだよ」
「え、お姉ちゃん結婚してたの!?」
「あぁ違う違う、トイプロの話」
「あ、そうだよねー」
水森さんと呼ばれた男性は私の発言に肩を揺らして笑った。そしてぽんと手を打って瑠花を見た。
「そういえば瑠花ちゃんトイプロ選ばれたんだっけ?」
「はい」
「わぁ、おめでとう!小夜香はそういうのあんまり話さないからてっきり選ばれなかったのかと思ってたよ」
「え、そうなんですね。お姉ちゃんは家ではすごく喜んでたんですけど」
「まぁクールに見せたがるんだろうな」
「へーお姉ちゃんらしくないなぁ」
とまあそんな風に十五分くらい水森さんと話したが、何の手掛かりも得ることができなかった。
もうお日様が地平線に潜りそうだ。
私たちは急いでいろんな人に聞きまくることにした。
「あの子たちにも話を聞いてみよう!」
「そうだね」
私は二人の小学生に話しかけた。
小学生のほうが案外こういうことって覚えているんじゃないかなって思ったから。
「あの、ここら辺で大きい鳥とか変なもの見かけなかった?」
小学生は顔を合わせて驚いた表情になった。
「何か見たの!?」
私は目を輝かせて聞くと予想外の答えが返ってきた。
「私たちも探しているんです」
「え…?」
「あぁやっぱり」
安藤さんは首をコクコクと縦に振っている。
「あ、もしかして安藤瑠花か?」
女の子の隣にいる男の子はぶっきらぼうに言った。
「うん。山本緑くんと山本咲ちゃんだよね?」
「ああ」
「はい!」
私は頭がこんがらがってきた。
(小学生と知り合い?私たちも探してるって…?)
「あの、どういうこと?」
「この子たちは私の小学校の後輩でトイプロのメンバーなんだ」
「安藤先輩が山本咲ちゃんって言ってくれた!」
「うっせぇな別に言ってくれただけじゃん」
「うっれしい~」
「意味わかんねぇ」
「安藤さん、この子たち双子?」
私は安藤さんに聞いたつもりだったが咲ちゃんが元気に答えてくれた。
「そうです!」「一応俺が兄だけど」
「別に年齢は変わらないじゃない!」
「はぁ?十秒だけ俺のほうが先なんだっ」
双子の緑くんと咲ちゃんはわぁわぁ言い合っている。
(正直、トイプロのメンバーはみんな静かで賢いイメージだったけれどそんなこともないのかな)
「緑くんと咲ちゃんも一緒にパトロールしない?」
安藤さんが聞くと咲ちゃんは目をキラキラさせて「はいっ!」と、緑くんは「別にいいよ」とやっぱりぶっきらぼうに言った。
「そういえば安藤さんにくっついてるあなたの名前聞いてなかった」
くっついてるって……。
「私は藤戸彩葉。安藤さんのペアだよ」
「安藤さんのペアは私がやりたかったのに…」
咲ちゃんが頬っぺたをふくらませて呟いた。
みんなで楽しくパトロールしていると
突然…
「キャーーッ」と鋭い叫び声が住宅街に鳴り響いた。
「ひっ」
私はびっくりして声を漏らしてしまった。安藤さんも緑くんも咲ちゃんも驚いている。
よく目を凝らすと私たちが歩いている道の先に倒れこんだ若い女の人と謎の物体がいるのだ。
私たちがゆっくり近づくと謎の物体の正体が分かった。
「あの時の…」
後ろ姿しか見えないけれど、紛れもなくあの時の怪物のような毒々しい色の鳥だった。
「た、助けて…」
その鳥は若い女の人に迫り、今にも襲いかかりそうだ。
安藤さんに言われた言葉を思い出した。
『消える。私たちが知らないどこかに』
私は足がすくんだ。
このままグズグズしていたら女の人が……
「そ、その人を襲わないでっ」
私はとても震えた声で言った。
すると、その鳥はゆっくりと振り返って私たちのほうを見た。
女の人は腰が抜けていて、立ち上ろうとしない。
その鳥はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
安藤さんは低い声で「咲ちゃん、緑くん、鏡とペン持ってる?」と言った。
「はい」「ああ」
「お願いするね」
「了解です」「分かった」
安藤さんは私の手をつかんで回れ右をして走りだした。
「あ、安藤さん!なにをするの」
「こっちからまわってあの女の人を救助する」
「あの二人に任せちゃって…」
「大丈夫…だと思う」
安藤さんはその時少し心配な顔をした。
(そうだ。信じよう)
私は安藤さんに追いつくように一生懸命走った。
私たちは女の人のところへたどり着くと、肩を貸して立ち上がらせた。
女の人は顔がありえないくらいに青ざめている。そして手も足も震えている。
私たちはこのままだと危ないと判断し、急いで近くの公園に避難した。
*~*~*~*~
「大丈夫ですか?」
女の人と私たちはベンチに座った。
女の人は頭を押さえてうずくまっている。
思い出すだけで気分が悪くなってしまうのだろう。
あの時の私もそれと似た感覚に陥っていたから分かる。
「落ち着いたら質問してもいいですか?」
女の人はかすかに首を縦に振った。
安藤さんはどこか落ち着かない様子だ。
「安藤さん、どうかした?」
「二人から苦戦してるって連絡があって…」
「大丈夫!行ってきて!」
私ができるのはこれくらいのことしかない。人の話を聞いたり、相談に乗ったりするのは得意だ。
「行ってくるね、ありがとう!」
私は安藤さんの走っていく姿をながめて考えた。
「役立たずだな、私」
「え?」
女の人はいつの間にか顔を上げて私を見ていた。
「あ、すみません!変なこと言っちゃって」
私は恥ずかしくなり、それを隠すために苦笑いを浮かべた。
「違うの。私もそう思うことがあったなって思い出して」
「そうなんですか?」
女の人のカバンの中は資料がたくさん入っていて、そうとは思えないくらいバリバリ働いているようだった。
「そうなの。私が中学一年生の時ね…」
女の人は深呼吸をしてその話を始めた。
私、黒井優は中学校に慣れてきた九月ごろ、中学生になって初めての文化祭があった。
私はイベントを企画するのが好きだったからとても楽しみだったの。
文化祭で私たちの組は劇を披露することになった。
クラス三十人のなかで劇に出る人は十人、音響や照明、小道具と衣装づくりが十人、台本作り、監督は合わせて六人だった。
すると四人余っちゃうからその人たちは案内とか質問を受ける、いわゆる雑用係ね。
その雑用係に私はなっちゃったんだ。
劇も上手くないし細かいことは苦手。ストーリーも考えられないような平凡な人間だったのよね。
でも、その仕事を一生懸命やったわ。
黒井さんはため息をついた。
無事文化祭は終わってそれだけでうれしかった。本当に。
私の中学校では文化祭が終わった後、企画人気トップスリーをお客さんの投票で決めるんだけど、なんと私たちのクラスが三位に入ってたの。
とてもうれしかった。
投票のコメントをずっと読んでいくと「劇が面白かった」「おねえさんがきているふくがかわいかった」のコメントの中に「案内の方が丁寧に出迎えてくれました」や「おねえさんがぼくのしつもんきいてニコニコでこたえてくれた」とか、そういうコメントが多くあることに気づいたの。
その時はとても心が温まったのを覚えているわ。
「そうだったんですね」
「そうなの。これはその時に表彰式でもらったぬいぐるみのキーホルダー」
黒井さんは可愛いハリネズミのキーホルダーをカバンから取り出した。
「代表の一人がもらうからきっと劇の主人公とか監督がもらうんだろうなって思ってた。嫉妬も…してなかったと思う。」
黒井さんはもふもふなハリネズミをそっとなでた。
「でも違ったの。みんな私が受け取ってくれって。最初は冗談だと思った。だけど『黒井さんに対するコメントが一番多かった!』『優が丁寧に案内してくれたからお客さんが来てくれたんだよ!』って言ってくれて、もう涙腺が崩壊寸前だったわ」
「そうなんですね」
「ごめんなさい。変なこと語っちゃって」
「大丈夫です!」
「ありがとう。だから、これを見ると一番大事なのはどの役割につくかじゃなくて、いかに自分の役割を一生懸命果たせるかなんだって気づかせてくれるの」
すごいヒントをもらった気がした。
「話してもらってありがとうございます!」
私は急いで瑠花にメッセージを送った。
【守るもの:ハリネズミのキーホルダー
込められた思い:自分の役割を一生懸命果たす】
十分後、黒井さんはどうしても外せない仕事の会議があるらしく、「あの女の子二人と男の子にありがとうって伝えといてくれる?」と言って帰っていった。
そのまた十分後、安藤さんと山本双子が帰ってきた。
「藤戸さん、無事倒せたよ。ありがとう」
「いや、私は何も」
「あの女の人から思い出をすんなり聞き出せるなんてすごいよ」
「確かに雰囲気がふわふわしているもんね」
「なんかうちで飼ってるトイプードルみたいだよな」
「めっちゃわかるかもー!」
「ねえそれって褒めてるの?」
「うん」「まあ」
山本双子もルズトイズの手下を倒すのに協力してくれたし、とがめたりしないことにした。
これで一件落着……となったはずだったのだが…
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