演奏対決、勝負の行方は……!?
本番当日、借りた教室はまさかの私と由香子のクラスの教室だった。教室には音楽の先生と吹奏楽部のコーチの計五人が長テーブルで腕を組んで座っていた。
私は観客席の椅子に座っている。
観客席というのは私たちの案ではなくて、大島先生が出した案だ。
「その方がやりがいあると思うわ」と真剣に言われ、決定した。
といっても観客席は十五席くらいで私以外の子はほとんど中二か高校生だった。フルートの先輩たちの友達や星宮先輩のファンまたは友達だろう。
そして吹奏楽部のコーチらしき人がフルート先輩チームから始めるように言った。
先輩たちは優しい先輩以外、不服そうな顔をしたが、コーチには逆らえず、すぐに楽譜の準備をした。すると私はあることに気が付いた。
あの優しい先輩はフルートではなくギターを用意し始めた。
「なるほど、フルートとギターか」
周りの誰かが言った。私はあまり見慣れない組み合わせだから少し驚いたが、音楽に詳しい人からしたら「なるほど」と納得する組み合わせなのかもしれない。
そうして演奏し始めたのはやわらかで鳥のさえずりが聞こえそうな曲だった。演奏が終わると私は思わず拍手をしてしまった。それくらいきれいな演奏だったのだ。
次は星宮先輩と由香子の演奏だ。フルートとホルンだけでは難しかったようで、私と由香子のクラスメイトでピアノが弾ける、佐々木未央奈ちゃんを誘ってフルート、ホルン、ピアノで演奏することにしたのだ。他の人を誘うのはズルじゃないかと先輩たちにとがめられたりもしたが、「そもそも人数は僕たちの方が多いのだから」と優しい先輩こと鈴木直太朗先輩が許してくれた。
いよいよ、演奏が始まる。ピアノの未央奈ちゃんとフルートの星宮先輩とホルンの由香子がアイコンタクトをして息を吸うように曲の演奏を始めた。落ち着いていて、だけどどこか壮大な迫力を持っている。こんなに小さい教室なのにまるで大きなホールに響いているようだった。
星宮先輩も気持ちよさそうに吹いている。由香子も練習の成果が出ている。
そして、無事に演奏が終わって審査の時間になった。
先生たちは真剣に話し合っている。私は手をぎゅっと合わせてお願いした。
(星宮先輩と由香子と未央奈ちゃんの努力が届きますように……)
そして吹奏楽部のコーチが「ゴホン」と咳払いをして口を開いた。
「演奏対決、優勝は……」
教室全体が緊張に飲み込まれそうだ。
「星宮チーム!!!」
私は思わず大きくガッツポーズをしてしまった。
そして由香子の方を見る。由香子も同じくガッツポーズをして笑顔で星宮先輩と未央奈ちゃんと優勝をたたえあっている。
そして、
「彩葉~!」
楽器を置いて私の方に飛びついてきた。
「やった、勝ったよ!」
「おめでとう!」
私は由香子の手を強く握りしめた。
吹奏楽部のコーチは「とても素晴らしい演奏でした」ととても褒めてくれた。
対決が終わり、楽譜などを片付けると星宮先輩はフルートの先輩たちに「人の努力をつぶすな」と言い放った。
先輩たちはすぐさま反撃してくる。
「はぁ?なにいってんの」
「調子乗ってんじゃないよ」
「俺たちなーんにもやってませーん」
そんな先輩たちとは全く違う反応をしていたのは鈴木直太朗先輩だった。
「え、どういうこと…?」
私はようやく理解した。鈴木直太朗先輩は何も知らなかったんだ。
「鈴木先輩、俺は花崎先輩、武島先輩、岡崎先輩にオーディションの時、楽譜を隠されてオーディションに出られなかったんですよ」
星宮先輩からの突然の告白に鈴木直太朗先輩は目をぱちくりさせている。
「俺はそんな先輩たちが嫌でやめたんです」
「え…そんな…」
鈴木先輩に目を向けられた他の先輩たちは目を合わせることができず床を見つめている。
「ごめん、本当にごめん。僕が気づいてあげられればこんなことには……僕はみじめだな」
落ち込んでいる鈴木先輩を見て由香子が口を開いた。
「違います。鈴木先輩のせいじゃないです。後輩も友達も裏切った先輩たちが悪いんです」
「そうです、由香子の言う通り、オーディションで正々堂々勝負できなかった先輩たちが…一番みじめです」
私も鈴木先輩に言った。でも、鈴木先輩も信じていた仲間にずっと裏切られていてショックだろう。
「でも、俺はやっぱり吹奏楽部でフルートを吹いていたいんです」
星宮先輩はゆっくりと言葉を選んで言った。
「俺は正々堂々勝負して、良い演奏を作り上げたいです。だから、一緒に部活やらせてください」
「けど……」
鈴木先輩は星宮先輩をうかがうような顔になった。
「大丈夫です、この勝負ではっきりと上手さの優劣が付きましたから。それと、鈴木先輩が相談相手になってくれれば大丈夫です」
鈴木先輩は目がウルウルしていたけれど、他の先輩はずっと下を向いて悔しそうな顔でヒソヒソとしゃべっていた。
星宮先輩は言いたいことを言えて涼しい風を吹かせながら教室を去っていった。
私と由香子もカバンを持ってその教室を後にした。
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