高校生の先輩に突撃!
「由香子、第二の難関行くよ」
高校生の教室だと、放課後はほぼ開いているから放課後に高校生のフルートの先輩たちに突撃することにした。
私たちは放課後になり、すぐさま高校生の教室がある三階に行った。
中二の教室も緊張したけれど高校生の教室はもっと緊張する。
私たちはゆっくりと二人でドアを開けた。
すると由香子は教室の端にいる男女のグループに目をやった。
「あの先輩たち、今フルートのケース持ってるから多分今からこの教室で自主練しようとしているんじゃないかな」
由香子の言う通り先輩たちは楽譜を広げてケースを開けようとしていた。他に生徒はだれ一人いなかった。これはビッグチャンスだ。
「あの!」
私は先輩たちに届くように少し声量を上げて言った。
先輩たちはこちらに顔を向けて眉間にしわを寄せた。
「誰?」
そこにいたツインテールの女の先輩が言った。
「中学一年二組の藤戸彩葉です」
「同じく中学一年二組の平島由香子です」
「え、なんか用?」
「はい、ちょっと話があって」
すると優しそうな眼鏡をかけた男の先輩が
「あ、こっち来ていいよ」
と言ってくれた。
私たちはそこまで行き、話を始めた。
「演奏対決しませんか?」
「は?」
「なにそれ、意味分かんないんですけど」
二人の女の先輩は次々に嫌な感じの言葉を並べていく。
「まぁまぁ聞いてあげよう?ね?」
さっきの優しい感じの先輩が私たちに話を続けるよう言った。
「吹奏楽部のひとだけを今募集していて、音楽の先生が審査員のものです。」
「うわ、めんどくせぇ」
奥でポテトチップスをむさぼり食っている男の先輩がみんなに聞こえるように言い放った。
「そのほうが吹奏楽部の演奏のレベルが上がるのではないかと考えたんです。」
「それ!いいね!」
優しい先輩はすぐにうなずいてくれた。
しかし、他の先輩は首を縦に振ろうとしない。
「いや、絶対に無理~」
「それなぁ、大体なんで私たちがでないといけないわけ?」
「それは…」
「ほら言えない」
私は悔しくて唇をかみしめた。
すると隣から堂々とした声が聞こえた。
「あの、私は皆さんのことを尊敬していて、ぜひ一度演奏を聴きたいんです!」
その声が由香子だと判断するのに時間がかかった。
そう、その声は紛れもなく由香子から発せられたものだった。
由香子は見たことのない満面の笑みで続ける。
「どうですか?きっとこの演奏対決に出れば顧問も先輩も後輩もすべての人が先輩方を尊敬のまなざしで見るでしょう!」
私には訳が分からなかったが、さっきまでさっさと出ていけと言わんばかりの態度だった先輩たちが「え、出てみる?」「ね、いいかも」と話しだしている。
そして…
「じゃあ出させてもらおうかな」
優しい先輩の一声で演奏対決に出ることが決まった。
「本番の日時はまた知らせに来ます。」
とだけ言って私たちは教室を出た。
「ゆ、由香子!すごいね!」
「えへへ、私ちょっと嘘ついちゃったね」
確かにちょっとオーバーだったし、必ずしも先輩たちが勝つとは限らない。だけれど、由香子はあたかも先輩たちが勝つ前提のように話して気分を良くさせていた。
「おそるべし、由香子」
「あはは、なにそれ」
私は由香子の笑っている姿を見てさらにさっきの由香子が本当に由香子だったのかを疑いたくなった。
私たちはついでに職員室に行って放課後に教室を借りたいと言った。学年主任の大島先生は「何をするの?勉強会?部活は…二人とも違うわよね」と言った。
大島先生は私たちの学年の生徒全員の名前と部活を覚えているらしい。
「あの、演奏対決というものをしたくて…」
「え、何それ!!めっちゃ楽しそうじゃない」
大島先生は目をキラキラさせて私たちの話を聞いてくれた。私はさらに話したくなる。
「なるほどね、もうその人たちに許可は取ってるの?」
「「はい!」」
私たちははっきりと答えた。
「あら、そうなの?先生にも?」
「先生にはメールで伝えました。直接の方がいいのは分かっているのですが、何度も忙しいからまた後でと言われてしまったので…」
私が言うと大島先生は笑顔でうなずいた。
「そうね、良い判断だわ。じゃあ放課後に教室を一個とるってことでいい?」
「「はい!」」
「了解です。楽しんでね」
「ありがとうございます」
大島先生にお礼を言って私たちは気持ちよく帰った。
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