フリーズしないで?

私たちはまず星宮先輩に許可を取りに行った。

お昼をなるべく早く食べて、教室に向かう。放課後は教室が部活で使われてしまうから昼休みしか時間がなかったのだ。

中学二年生の教室は同じフロアなのになぜか近寄りがたい。

私たちは星宮先輩のいる中二三組のドアの前に立った。

そして私と由香子は同時に真顔で顔を見合わせた。

「ねえ由香子が呼んでよ」

「いや彩葉にお願いする」

やっぱり、考えていたことは同じ。

由香子が身をよじりながら「お願い~」と言う。

「なんでよ、由香子は元同じ部活なんだから、しかも…」

「しかも…?」

「えっと…あ、私が呼んだら変でしょ!」

「変じゃないよぉー」

私は危うく「星宮先輩は喜ぶよ」と言おうとしてしまった。でも何とかうまくごまかせた。

すると、由香子は意を決したように「じゃあ正々堂々じゃんけんにしよ」と言った。

私もこのままじゃきりがないと思い、首を縦に振った。

私と由香子はゆっくりとこぶしを前に出した。

「最初はグーじゃんけんポンッ!」

私がパー、由香子もパーを出したその時、ドアがガラガラと開いた。

そこに立っていたのは……

「ほ、星宮先輩!?こんなところで何してるんですか!」

「いや、ここ俺の教室」

「あ、ですよね~」

私は由香子を見た。由香子は驚きでフリーズ状態になっていた。

私は由香子の肩をガシッとつかんで前後に揺らした。

「由香子!星宮先輩だよ!」

由香子は我に返って星宮先輩を見た。

「え、あ、あの…」

「あ、平島さんだよね?」

「はい」

由香子は緊張しているのか仏頂面になっている。そして会話を続けようとしない。だから星宮先輩は自分が嫌われているのかと思っているのかもしれない。

「由香子、言うんでしょ」

私は由香子に耳打ちをした。

「えっと、よかったら一緒に演奏しませんか?」

「え?」

星宮先輩は一瞬顔が赤くなった。

由香子は頑張って話す。

「あの、彩葉からいじめのこと聞きました。私たちも何かできないかって考えて演奏対決をしようと思ったんです。フルートの先輩方のグループと星宮先輩と私のグループで」

「な、なるほど」

「そしたら先輩方ももういじめないのではと思いました」

「たしかに、いいね!それ」

由香子は機械のように話していたけれど熱意は星宮先輩に伝わったみたいだ。

私は改めて聞いた。

「星宮先輩、来てくれますか?」

「もちろんだよ」

「一週間後の放課後教室でやろうと思っています」

「うん、空いてるよ」

由香子はまた放心状態になっている。

ここは私が話を進めることにした。

「練習日時や本番の日にちはまた連絡します」

「了解!あ、でもメールとかつないでないんだよな」

私は由香子をもう一度たたき起こして由香子が衝撃を受けてまたフリーズしないようにゆっくりと言った。

「星宮先輩が練習の日時とか連絡するためにどうしても由香子とメール繋げたいって」

「いや、そんなに言ってねぇし」

星宮先輩には悪いけど今はそういうことにしておこう。

由香子はコクコクとうなずいて先輩とメールをつなげた。

しかし、メールをつなげるとまた放心状態になってしまった。

「じゃあまた!」

「おう!」

私は由香子の手を引いて中一の教室まで連れてきた。

「由香子ぉぉ起きてぇぇ」

私は由香子の顔の前でパチンッと手をたたいた。

「あ、彩葉、ここは中一の教室?」

「そうだよ」

「ああ、よかったー」

由香子はやっと気を取り戻して普通に話すようになった。

「私星宮先輩と話せてた!?」

「うん、たまに放心状態だったけど」

「うわー変な人だと思われたかな」

「大丈夫だよ、それより星宮先輩が持ってたメロンパンおいしそうだったな~」

「え、メロンパン持ってたの!?」

「う、うん。気づかなかった?」

「私いつも先輩と話すとき緊張でぼやんとしか見えてないから」

なるほど、だから由香子は星宮先輩の顔が赤くなっていることに気が付かないのか。

「そうなんだー緊張しすぎー」

「私、緊張しすぎちゃったなー」

すると、午後の授業を知らせるチャイムが鳴った。私たちは急いで教室に入っていった。

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