作戦会議はじめ!!
私は軽やかな足取りで理科室に入る。
すると、星宮先輩が心配そうに、そして少し顔を赤らめながら私にたずねてきた。
「で?どうだった?平島さんはなんて言ってた?怒っていた?馬鹿にしていた?それとも嫌いって言ってた!?」
先輩は嫌な妄想ばかりをしているみたいだ。
私が「落ち着いてください」と言っても手を組んでなかなか妄想を止めなかった。
「あのー先輩―?」
「はっ、ごめん」
先輩はやっとわれに返りまた恥ずかしそうに顔を赤らめた。
その先輩を見て私ははっきりと言った。
「由香子は先輩のことすごく大切に思っていましたよ」
私が言い終わる前に星宮先輩の顔は真っ赤なりんごみたいになっていた。
「ほ…しみや先輩?大丈夫ですか?」
「あ、ああ。うん」
私は星宮先輩の恋心を確信した。きっと星宮先輩の想いの矢印は「平島由香子」に向いている。
私のにやつきが止まらなくなったとき、乃華先輩が私たちを優しい声で呼んだ。
「二人とも、そこにあるビーカー持ってきてくれな~い?」
私と星宮先輩は急いで乃華先輩にビーカーを持って行った。
「じゃあ実験始めるよ!」
乃華先輩の明るい一声で実験は始まる。
星宮先輩もたくさん質問をして薬品を混ぜたり結果をまとめたりと一生懸命だ。
私はふと考えた。
(こんなに自分の役割に一生懸命な人が大好きな部活を失うのってどれだけつらいことなのだろう。フルートの練習も一生懸命頑張ってきたのに意地悪な先輩たちに夢がつぶされてしまう。すごく心の中で苦しんだに違いない)
私はパソコンに結果を入れている星宮先輩を見た。
私と由香子にできることは少ないかもしれない。でも、少しでも力になりたい。そう思った。
私は星宮先輩に近づいて傷つけないように聞いた。
「星宮先輩は戻りたいですか?」
星宮先輩はパソコンに映った私を見てあきらめたような笑顔で答えた。
「うん。できるものならそうしたいよ」
「そう…ですよね」
「あ、そういえばここなんて書けばいいのかわからなくて、教えてくれる?」
「はい、えっと、ここは植物の促進のスピードを割り出すところで…」
私は星宮先輩にたどたどしい説明で教えた。一応納得してくれたようだ。
星宮先輩はここで一生懸命頑張ってくれている。でも、夢を諦めてほしくない。
「星宮先輩、私たちがきっと吹奏楽部に戻してあげますから!」
すると、星宮先輩は驚いた顔をして、それから顔をほころばせて言った。
「そっか、心強いなぁ」
そうして三時間が経った。
「星宮くんと彩葉ちゃん!今日はここまでだね、ありがとう。これで実験を終わります。」
乃華先輩は白衣を脱いで「解散!」と言った。
私はすぐさま帰る準備をして由香子の家に向かった。
*~*~*~*~
太陽の日差しで熱くなったインターフォンを押す。
するとインターフォンの向こうから元気な由香子の声が聞こえた。
「はーい!今ドア開けるね」
階段を急いで駆け降りる音が聞こえる。
ドアが開くと笑顔な由香子の顔が飛び出してきた。
「うわっ」
私は驚いてのけぞってしまった。
「そんなに驚かないでよ~」
「いや、驚くでしょ。急に人の顔が目の前に出てきたら」
「あはは、ごめんごめん。驚かしたくなっちゃって」
「え~なにそれ。おじゃまします」
私は涼しい家の中に入っていった。
由香子の部屋はザ・女の子の部屋という感じではなくて、どちらかというと森という感じ。
由香子はサボテンが大好きだから部屋のいたるところに小さなサボテンがちょこんといる。
そしてサボテングッズも複数ある。
私はサボテンに癒されながら話を始めた。
「よーーし作戦会議始めるぞぉ!」
「おー!」
私は持ってきたノートを取り出して鉛筆を持った。
「ねえ彩葉、星宮先輩が部活に来れなくなったのはいじめのせいだから、そういうものがなくなればいいんだよね…?」
「うん、楽器は演奏したいけど先輩たちに努力をつぶされるのが嫌だったみたい」
私は真ん中に「いじめ」と書いて丸で囲んだ。
「由香子、フルートの先輩って分かる?」
「うん。高一の先輩だと、武島証先輩、花崎環奈先輩。高二の先輩は岡崎夏希先輩とリーダーの鈴木直太朗先輩。」
私は右上に先輩たちの名前を書いた。
由香子は深くため息をついた。
「いじめを根っこからなくすには、その人たちに直談判するしかないのかな」
「うーん、どうだろう」
丸の中に書いたいじめという文字から線を引っ張って直談判と書いた。
「あ、由香子、私、良い考え思いついた!」
「なになに」
「由香子と星宮先輩がその先輩たちに音楽で勝負するんだよ!」
「え?勝負する…?」
由香子は目が点になったまま首をかしげている。
「審査員は音楽の先生で来週の水曜日までに簡単な曲を演奏できるようにしてくる」
由香子は真剣に私の目を見てうなずいている。
「どっちの演奏がよかったか判断してもらうの。由香子と星宮先輩が勝ったらもう先輩たちもいじめてこないんじゃないかな?」
自分で提案しているのに自信がなくなってきて由香子の顔をうかがう。
私の自信なさげな提案に由香子は一瞬黙ったが、そのうち納得した顔で「うん、いいね」とうなずいてくれた。
「よかったぁ」
私は思わず安堵の声をもらした。
「その作戦、一か八かなところもあるけどあの先輩たち、自分は恥をかきたくないって見栄を張ろうとするところがあるから、勝負で負けたら何も言わないと思う」
「そうなんだ、でも確かにそれでいじめがなくなるかは分からないよね」
私は肩を落とした。これで先輩たちの反感を買ってしまい、さらにいじめがヒートアップすれば、星宮先輩を助けるどころか苦しめてしまう。
「でもさ!」
由香子は鉛筆を持ってノートに演奏対決と書きながら言った。
「私たちがやらないと星宮先輩は一生楽器弾けないと思うんだ。そして、なんで部活に戻らなかったんだろうって絶対後悔する。星宮先輩って意外と繊細なところがあるからさ」
由香子の熱い視線はノートに注がれている。
そして文字を書き終えて私のほうに向きなおった。
「吉と出るか凶と出るか……分からないけど、私と彩葉で吉と出るようにすればいいんだよ!頑張ろう!」
「うん!」
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