ごめんねの栞

私はどうすれば良いか家でも学校でもずっと考えた。

そしてたどり着いた解決策は、星宮先輩に許可をもらって由香子に本当のことを言うことだ。

私はさっそくそのことを星宮先輩に話した。

すると、私の友情の危機がどれほどのものか分かったらしく、しぶしぶ承諾してくれた。

あとは由香子に話すだけ。でもそれが一番難しい。私に対して完全に「嫌い」と思っている人に話しかけるのは勇気がいる。

私はいいタイミングが来るのを待った。

すると、三日後、図書委員の集まりでしおりを作って交換する会という絶好のチャンスが訪れた。

私は緊張しながら由香子に話しかけた。

「由香子、一緒にやらない?」

由香子は驚いて私を見た。

そして少し考えてから「いいよ」と言ってくれた。

しおりを作るための材料が配られ、しおり作りを始める。

ここで言わなければ、ずっとこの仲のままだ。それは絶対に避けたい。

私は思い切って材料をじっくりと見ている由香子に切り出した。

「由香子、ごめんっ」

由香子は顔を上げた。

「いや、私こそごめん」

由香子も申し訳なさそうに謝ってくれた。

私はほっとした。由香子も仲直りしたいと思ってくれたのだろうか。

「由香子、本当のこと言えなくてごめん」

すると、由香子からとんでもない言葉が飛び出してきた。

「いいよ、付き合ってるんだもんね」

私はあまりにも突然言い出すから、作っていたしおりを落としてしまった。

「え?誰と?」

「もう、とぼけないでよ!」

「え、私誰かと付き合うなんてこと…」

「星宮先輩だよ」

「えぇ?」

まさかの人物名が出てきて拾っていたしおりをもう一度落とす。

「そうなんでしょ?彩葉が学校に遅れてきたときあったよね?あれは星宮先輩と公園で話してたからなんでしょっ」

「そうだけど、あれはたまたま会っただけだよ」

「星宮先輩が理化部に入ったのも彩葉が勧誘したからでしょ」

「いや、気づいたらいたんだけど…」

「理化部で仲良く話してたって聞いたけど?」

「由香子のために色々聞いてたの!」

勢いよくまくし立ててた由香子は急に黙った。

「え、そうなの?」

「そうだよ。星宮先輩がなぜ吹奏楽部をやめたのか、なんで私が遅刻したとき公園にいたのかも全部!」

「それは、知らなかった」

私は星宮先輩が話していたことをすべて伝えた。

「そんな…先輩たちが星宮先輩をいじめてたってこと?」

「うん。ひどいよね」

「いじめがあったなんて何も知らなかった」

星宮先輩は先輩たちがこそこそとやるいじめのつらさを誰にも言えなかったんだ。

たぶん、言っても信じてくれなかった。先生も部長も部員も家族も。

「でもね、楽器は大好きだって言ってた。フルートが吹けなくなって落ち込んで一時間目をすっとばしちゃったくらいだもん」

「それがもしかして公園で会ったとき?」

「うん。星宮先輩が公園にいるのを見ちゃって口止めされた」

その時の星宮先輩と私を他の遅刻してきた人が遠くから見て付き合ってると勘違いしたのだろう。本当に見かけで判断しないでほしいことだ。

「そうだったんだ。私の勘違いだったんだね。ごめん」

「私こそ勢いで由香子に悪いこと言っちゃってごめん」

由香子は「私こそ…」と言いながら完成したしおりを渡してきた。

そこには「ごめん」とどでかく書いてある。

「あははっ、これは独特!」

「でしょー彩葉は?」

「私はね~これ!」

私はずっと自分が伝えたかった事をしおり に乗せて渡した。

その瞬間由香子が「ぶはっ」とふき出した。

私は由香子の笑顔を久しぶりに見て安堵した。

親友というのは、どんなに激しく喧嘩したって相手の笑顔を見ると心が穏やかになる。そういう関係なんだ。

目の前にいる彼女は絆を切っても切れない大切な人。

「どう?」

「いや、私と大して変わらないし!」

私はそのしおりに「sorry」とおしゃれに書いたのだ。

委員長の終了の合図があるまでしばらく二人で笑いあった。

しかし、その後、委員長がしおりを先生に提出すると言っていてさすがに焦った。

結局、私たちはどうすることもできずそのまま提出した。

すると、先生に呼び出されてしまった。

「平島さんと藤戸さんは何かあったのかしら?」

私たちはけんかして仲直りをしたのだといった。

「そうだったの、よかったわ」

先生はにこやかに私たちの仲直り報告を嬉しそうに聞いてくれた。

そして、私たちは一緒に学校を出た。

「彩葉、私、星宮先輩が好きな楽器を好きなだけ演奏できるようにしてあげたい!」

「私もだよ、由香子の恋と先輩の夢、どっちも応援したい」

由香子は「ありがとう!」と花が咲いたような笑顔で言った。

「彩葉、明日空いてる?」

「うん、午前は部活だから午後からなら」

「じゃあ私の家に来て星宮先輩が吹奏楽部に戻ってきて楽しく楽器を演奏するのための作戦考えない?」

「いいね!」

私たちは夕日に向かって歩き出した。

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