ごめん。ホントのことは言えない。

「彩葉、星宮先輩が理化部に来たってホント?」

翌日、由香子が朝一に私に聞いてきた。

あの星宮先輩だからもううわさが漂っているようだ。

私は「そうだよ」と素直に言った。

由香子はショックをもろに顔に出していた。

「吹奏楽部には帰ってこないってことだよね、もう超悲しいよぉ~」

頑張って笑顔で言おうとしている由香子を見ると胸が痛んだ。

「なんでやめたか聞いてない?」

「えっとー」

(聞いたよ。聞いたんだけど口止めされたんだよー)

「ふーん、なにか聞いたんだ」

「そうなの。聞いたんだけどね…」

由香子はニヤッとした。

「ってばれてるーー!?」

「いや、彩葉引っ掛かりすぎだよ」

「由香子があまりにも自然に言うから」

私は由香子にかまをかけられてしまった。

「ごめん!言えない。なんでもないから!」

私は簡単に先輩の口止めを破ることはできず、由香子をつきはなしてしまった。

「ねえ、彩葉、教えてよ」

「無理。ごめんね、本当に」

すると、由香子はプイっと反対側を向いて授業の準備をし始めた。

(悪いことしちゃったかな、まぁ由香子のことだし大丈夫でしょ)

私はこの時は軽く見ていた。まさかあんなことになるなんて思いもしなかった。

由香子は翌日もそのまた翌日も話しかけてもそっけなく、まるで他人のように接された。

一週間たってもいつものように話してくれないから、さすがに私も頭にきて、放課後、堂々と聞くことにした。

「由香子、なんでそんなにそっけないの?」

「彩葉には分かんないよ」

「なんでよ!私たち親友じゃん」

「私はそう思ってない」

その時私は深い深い谷に落とされた気分だった。

親友じゃない?だから急にそっけなくなったの?

「私、悪いことした?由香子にとがめられるようなことした覚えないよ」

「彩葉ってホントにひどい」

「なにが?ねえ教えてよ」

「自分で分からないのっ?」

「だから分からないってば!恋心なんて分からないし、由香子の恋なんて興味ないっ!」

私が由香子の目を見るとそこには大量の涙がたまっていた。

私はその瞬間、親友として。いや、人として言ってはいけないことを言ってしまったと理解した。

「あ、そのっ、違う……」

私が声をかけたときには由香子は背を向けて学校の外に出て行った。

私は一人、後悔に押しつぶされそうになりながら帰った。

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