理科室のお化け

放課後になり、由香子と私はお互い、部活があり、階段で別れた。

私は理化部で、四階の理科室。

由香子は吹奏楽部で三階の音楽室。

私のほうが一階多く上らないといけない。

いつも上っているから少し体力はついているんじゃないかなって思ったりもする。

(実際は全然体力ついてないんだけどね)

「こんにちは」

私は理科室のドアを開けた。

まだみんなは集まっていない。

(やった一番乗りだ!)

私が心の中でかすかに喜んでいると人の気配を感じた。

私は震え上がった。

(先輩、いないよね。まさか人体模型が?)

人体模型を見たけどピクリとも動いていない。

理科室を見回す。

すると理科室とつながっている準備室のドアが「ギギギィ」と不気味な音を出して開いた。

「ひぃぃぃー!」

私は驚いて実験で使うアイパッドで自分の顔を隠した。

その気配が近づいてきて私はおそるおそるアイパッドから顔を出した。

「わぁ~!おばけ~!」

私はその正体も確認せず叫んだ。

「お化けじゃねぇし!」

そこにいたのはなんと!

「ほ、星宮先輩~!?」

「あ、お前は遅刻魔だな?」

「驚きますよ?今日が初めてなんです!」

「いや、そもそも遅刻すんなよ!」

「あはは~」

「まぁ俺も他人のこと言えないけど」

「今日、公園で……」

「しぃーーっ」

先輩はとてもいやそうな顔をした。

「それだけは絶対言うなよ」

「え、あ、はい」

うなずいたものの気になるものは気になる。

私が聞こうとした瞬間、部長がドアを開けて入ってきた。

(部長!バッドタイミングですよぉーー)

部長はそんなこと気にせず星宮先輩のほうに近づいた。

「君が星宮翔太くんかな?」

「はい!よろしくお願いします!」

「こちらこそ、入ってくれてうれしいよ」

先輩はさっきの態度とは打って変わって好青年という感じで部長と接している。

てか……入部って!?

(うそでしょーーーー?私の親友の気持ちを踏みにじってのこのこと理化部入ってくるなんて!ひどい!)

そんな私の絶望と怒りに全く気づかず部長は自己紹介をする。

「俺は部長の綾瀬苺菓。変な名前だろ?苺の菓子って書くんだ。これで「めか」って読む。みんなにはメカ部長って呼ばれてる。高校二年生。実験の班は機械系だよ」

ここは中高一貫校だから高校生がいるのは当たり前なんだ。

「そうなんですね!」

「色々な班があるから見学するといいよ。藤戸さんも自己紹介してあげてね」

「あ、えっと、私は中一の藤戸彩葉って言います。やってる実験は植物系…デス」

さっきまで普通に話していた人に自己紹介をするのは少し気まずい。

「ふーん、どういうことやってるの?」

「植物の成長を促進させるための肥料を作ってます」

星宮先輩は納得したように頭を縦に振った。

そして、私の耳元で小さい声で「あのこと絶対に言うなよ」と私に口止めしてきた。

すると続々と部員が集まってきた。

「じゃあ部活を始めます!おっとそうだそうだ、今日は新しく入部した人がいまーす!」

隣にいた星宮先輩が前に出ていく。

「中二の星宮翔太です。よろしくお願いします!」

私は他の子の反応をうかがう。先輩も同輩も女子はみんな目がハートって感じ。

「めっちゃカッコよくない!?」

「あの星宮先輩だよ?かっこいいに決まってるじゃん!」

「一緒の班に入ってくれないかなー」

などの声も聞こえる。

「ってことで実験始めてね~」

メカ部長の一言でみんなは班に別れる。

星宮先輩は私の隣に戻ってきた。

そして「どこに入ろっかなぁー」とわざとらしく聞いてきた。

「自分が気になるとこに入ってくださいっ」

「しょうがないな、お前の班に入ってあげる」

「私は入ってほしいとは一言も言ってません」

「はいはい」

まぁでも由香子のためにも何とかして情報を引き出したい。

私は星宮先輩が自分の班に来ることを許した。

「彩葉ちゃん、植物のA持ってきてくれる?」

「はい!」

この班の代表は中三の佐伯乃華先輩だ。

いつもテキパキと実験用具を用意したり、実験結果をまとめてくれたりしている。

「じゃあ新しく入ってきた、星宮くんだっけ?」

「はい!星宮翔太です」

「星宮くんは植物のプランターにBって書いてあるからそれを持ってきて」

「はい!」

星宮先輩は私についてきてBのプランターを持ち上げた。

(チャンスだ)

「星宮先輩、吹奏楽部はどうしたんですか?」

星宮先輩は図星をつかれたようで危うくプランターを落としそうだった。

「なんでそれを知ってるんだ」

「ゆ…親友が吹奏楽部なんです。すごく心配してました。」

「そっか」

「担当、フルートなんですよね」

「うん」

「星宮先輩はすごく熱心だと言っていましたなんでこっちに来たんですか?」

「お前には関係ないだろ?」

「関係大ありです!親友の寂しそうな悲しそうな顔は見たくないんです!」

「その親友って誰なの?」

「えっと」

「言わないんだったら俺も言わねぇ」

先輩は取引が上手だ。私は勢いのまま言ってしまった。

「ゆ、由香子、平島由香子です」

「あっそ」

先輩はそっぽを向いた。

理科室は放課後になるとちょうど窓から夕陽のあたたかい日差しが入ってくる。

そのせいか、先輩の頬が赤らんでいるように見えた。

「先輩も言ってくださいよ」

「はいはい。俺は小さいころから家族と演奏会に行くのが大好きだったんだ。それで俺も迫力のある演奏をしてみたいと思って吹奏楽部入ったんだ。部活は全体練習以外、楽器ごとにグループに分かれて練習しているんだけど、フルートの先輩たちがひどかったんだよ」

「え、先輩が?」

私の入っている理化部はみんな優しくて憧れの先輩ばっかりだから先輩との関係を気にしたことはなかった。

「先輩たちは俺がどうも気に食わないらしい。中二の代表だからって理由で俺だけ後片付けを押し付けられたり、中二の態度が悪いって俺だけ怒られたりさ。ほんとひでぇよな」

「ひどいね」

「しまいには演奏会に出る人を決めるオーディションでそのフルートの先輩たちが俺の譜面を隠して、俺が出られないようにしたんだよ。それで先輩のほうが上手だったらいいんだけどさ、先輩は練習さぼって遊んで真面目に練習しないんだよ。もうがまんの限界だと思って退部した。」

話している星宮先輩の顔は怒りに満ちていた。

「なんで朝、公園で子供二人と話してたんですか?」

「俺、部活をやめて楽器吹けなくなっちゃったから落ち込んでて、その時公園にチヒロちゃんとリヒロくんがいたから寄ってみたら思ったより楽しくて。あ、あの子たちはよく公園に来ているから仲良くなったんだ。」

「そうなんですね、星宮先輩も立派な遅刻魔じゃないですか」

「あはは、そうかも」

「じゃあそれを由香子に伝えときま…」

「いや、言うな」

「え?」

「知られたら嫌だから」

「あ、はい……?」

またもや口止めされてしまった。

まぁ人によって弱みを見せたくない人もいるからね。

(でも、何も言わなかったらさらに由香子が悲しんじゃうよ、どうしよう)

「彩葉ちゃーん、星宮くーん、早く持ってきてね~」

私たちに乃華先輩の優しい声が届いた。

やばい!星宮先輩と話していたら思ったより時間がたっちゃった!

私と星宮先輩は急いでプランターを持って行った。

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