親友の恋、早くも終了の危機!?
ふわぁ
私はベッドから体を起こす。
ぬいぐるみ、人形たちが「おはよう」と言って私を迎えてくれる。もちろんしゃべってはいないけど人形の中にある「ユウシ」がそう言っているんだと思う。
朝の準備を終わらせてリュックを背負う。
最近は朝からでも暑くてずっとクーラーの効いた家の中に引きこもりたいと思ってしまう。
私はそんな気持ちをグッとこらえて玄関に向かう。
「あ!忘れてた!」
私は学校に行く前に必ず挨拶をする「きなこまるさん」がいる。
私は急いで自分の部屋に行く。
そしてスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている彼女を見つける。
「おはよう、きなこまるさん」
彼女はふさふさなおなかを丸めた。
「あ、おはようじゃなくておやすみか」
彼女は小さな目をうっすら開ける。
そう、彼女はハムスターのきなこまるさん。
毛がきなこもちみたいな色だから我が家ではそう呼んでいる。夜行性だから朝から昼は寝ているんだ。だから遊べなくてさみしいけど寝ている姿もかわいい。
私がきなこまるさんに見とれているとすっかり時間を忘れてしまう……
「って!やばい遅刻だぁ~~!」
私は急いで外に出た。
腕時計を見るともう八時十分!
私はのろまな足をがんばって動かした。
しかし、そんなのろまな私ががんばっても学校に間に合うはずもなく、道の途中で時計を見ると八時二十五分だった。
もう完全に遅刻だ。私はあきらめて歩くことにした。この炎天下で走り続けたらすぐに倒れてしまいそうだ。
私が歩いているのにまだ息を切らして「はぁはぁ」言っていると誰かの声が聞こえた。
「次はシーソーで遊ぼうよ!」
「翔太兄ちゃん!はやく~」
翔太…
その名前にどこか聞き覚えがあり、私は声の主を探した。
学校の通学路の途中には小さな公園がある。
私はそこに目を向けた。
するとそこには二人の小さな子供と……
「ほ、星宮先輩!?」
私は思わず声を出してしまった。
(まずい、気づかれた!)
私は急いで学校のほうへ回れ右しようとした。でも、その時にはもう遅かった。
星宮先輩は私の肩をガシッとつかんでくるんと私を振り向かせた。
さすが人気者、顔立ちがきれいだ。
星宮先輩のサラサラな髪に日光が当たってオーラがさらに際立って見える。
って、見とれている場合じゃない!
「あ、その、違くて!」
「何が違うんだよ」
噂のキラキラ王子様のような声ではない。
敵意むき出しの怖い声だ。
「ひぃ!ごめんなさ~い!」
私は星宮先輩の手をつかんで振りほどいて学校へとまた走った。
学校へ着くと登校している生徒は一人もいなかった。
本当に遅刻しちゃったんだなと思った。
私は人気のない廊下を一人で歩いた。
一年生の教室の前には職員室がある。
遅刻をしたときは職員室に行って学年主任の先生に伝えるのが決まりだ。
私は寝坊などの理由で遅刻したことがなく、だいぶ緊張する。
私がなかなかドアに手を伸ばせないでいると、偶然、部活の顧問の先生が来た。
「あ、藤戸さん!どうしたの?」
「ゆずりん先生!」
顧問の先生の名前は杠(ゆずりは)麻央先生。でも、みんなは杠って珍しいからゆずりん先生って呼んでいるの。とてもかわいらしい先生で、部員に超優しい。たまにちょっと抜けてるところがあるんだけどね。
「あの、学年主任の先生呼んでくれますか?」
「あ、もしかして遅刻?」
「は、はい」
「藤戸さんが遅刻かぁ、珍しいね」
「あはは、ちょっといろいろあって」
「そうなのね。じゃあ呼んでくるわね」
「ありがとうございます!」
ゆず先生はドアを開けて職員室に入ろうとする。
すると、何もないところで大げさに転んだ。
「ゆずりん先生!大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。よくあることなの~」
「よくあることなの」なんて言われたらさらに心配だ。
先生はすぐに立ち上がって服についたゴミをパンパンとはたいた。
職員室にいる先生たちはいつものことだという様子でこちらを見ずパソコンをたたいている。でも唯一、新しく入ってきた先生はこちらギョッと見ている。
ゆずりん先生はすぐに学年主任の先生を呼んでくれた。
私が遅刻を伝えると、多少怒られたが、何があったか心配してくれた。
「何かあった?」
「ただ寝坊しちゃって」
「でもこんなに遅くはならないはずよ」
「えっと、途中で人に会って、話してたんです。」
本当は違う。星宮先輩に会って引き止められてたんだ。
でも、本当のことは言えなかった。具体的な名前を出すことにはとても勇気がいる。
すると、学年主任の先生は「誰にでも失敗はあるわ」と言って私を教室に送り出してくれた。
一時間目は美術だ。私は教室にリュックを置いて美術で使う絵の具を持って美術室に向かった。
美術室ではみんなが楽しそうに自分の作品を描いていた。
よかった。入りやすい雰囲気だ。この授業が数学や国語だったら静かだからとても気まずい雰囲気だったっだろう。
私は美術の先生に遅刻を伝え、自分の席に着いた。
隣にいる由香子が「大丈夫?」と声をかけてくれた。
「うん、寝坊しちゃってさ」
「そっか、ゆっくり休んでね」
「ありがとう」
そう気にかけてくれる由香子の顔が少し曇っていることに気づく。
「由香子、何かあった?」
「な、なにも!」
「絶対あるでしょ~」
由香子が動揺するときは自分の髪を触るくせがある。
「うん、実はね星宮先輩が部活を退部しちゃったの」
「えっ!」
由香子が好きになった吹奏楽部の星宮先輩が部活をやめるなんて考えられない。
「星宮先輩は誰よりも部活熱心だったからやめるなんて考えもしなかったの」
由香子は絵の具を塗る手を止めて下を見た。すごく寂しそうだ。
「なんでなんだろう」
「ほんとに謎だよね、最近学校にも来てないみたいだし」
「そうなんだ……」
あ、そういえば、今日も学校なのに公園にいて、小さい子供二人と遊んでいた。
私は由香子にそのことを言おうとした。
口を開いたところでもう一度言っていいことなのか考えた。
先輩は怖い声をしてたけれど、どこか怯えている表情をしていた。本当に知られたくなかったことなのかも。
「ちょっと待ってみたら?」
「待ってみるって?」
「もしかしたら部活に帰ってくるかもよ」
「そうだね、信じて待つ!」
由香子は筆を持ち作品に色を足していった。
私も自分の筆を持った。
さぁ描こう!とはりきる。
十分後(何を描こう……)
二十分後(うーん、思いつかない)
三十分後「思いつかないよぉーーー!!」
その時チャイムが鳴った。遅刻してきたにもかかわらず何も描けなかった。
頭の固さにはわれながらあきれる。
私は使わなかった絵の具をシンクに捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます