6歩目 少年の扱い


「ついた」

 そう言うクリスの前にはボロボロの、家と呼べるのか分からないような廃墟だった

『いやぁ、何があったら家ってこんな潰れるんだろーね』

「知らない」

『だろーね。てか1人で住んでるん?1人だと広くね?』

「違う。あと5人…いる」

『ふーん』

 興味があるのかないのかを判断できないような不思議な表情で空を見上げた

『まって!クリスあれってワイバーン?僕死ぬ?この街死ぬ?』

 先程の表情とは打って変わって絶望が見える

「死なない、大丈夫」

『ワイバーンだよ!?あの雑食の!』

 慌てるククルとは対照的にクリスは静かに否定する

『クリス!逃げよ?…どこにだよ!クリス!逃げる場所どこ!』

「…うるさい、!」

『………ごめん』

 自分でも慌てすぎた事を自覚したのか、クリスの叱責に素直に謝罪する

「死なない、あれ、警備隊」

『へ?…警備隊?わ、ワイバーンが?あの理性のかけらもないワイバーンが?』

「うん」

『うひゃー。人型やべぇー』

 それをするのは主に人族だが、獣人がよく思われるのは別に問題ないので何も言わないことにする


 そんなクリスとククルの後ろから人影が近づく

「おいムメイ!帰って来たってことはちゃんと罠張ったんだろうな!」

 その声と同時にククルは物陰に隠れる

「ん?今何か通ったか?」

 不思議そうにククルの隠れた方を見つめる

『やべぇ!クリス、バレたら助けてくれよ!』

「いや別に何もなかったけど…」

 他の子供が辺りを見回してから言う

『セーフ!助かったぁぁ』

「…まあいい!どうなんだよ!なんか言えよ!」

 その子供の言葉と共にクリスは突き飛ばされる

「ぅっ…お、終わった」

『クリス?だ、大丈夫かよぉ』

 心配そうに、気弱そうな声でクリスに声をかける

「チッ!終わったんなら早くいえよ…」

「なあ、ズーグ。今日は全然飯取れなかったし、こいつで発散しようぜ」

 真ん中のリーダーが、隣の犬の獣人の子供に話しかけられる

「あぁ、そーいや最近やってねぇーもんな。久しぶりだしいつもよりやりすぎちまうかもなぁ!」

 ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるリーダーは、先程突き飛ばされこけたクリスを蹴飛ばした

『クリス!』

 クリスはククルの方を一度見てから視線を逸らした

 まるで、来るなと言っているように、ククルがいないかのように、助けを求めずただその状況を受け入れて、やられ続けた

「うおりゃっ!」

 クリスの頬を殴る

「くらえっ!」

 クリスの腹を殴る

「とりゃ!」

 追い討ちと言わんばかりに腹を蹴り、突き飛ばす

「ゲホッ!ゲホッ、グッ…ガハッ!フッゥ、フゥー…」

 クリスは膝をつき、胃液を吐いて肩で呼吸をする

「ギャハハ!!」

 クリスの前で少年達は笑った、そして見下した

「てめぇみたいな下僕が、俺らの玩具サンドバッグとして生きれることを喜べよ?」

「なぁムメイ?あ?返事しろやゴラ!」

 返事をしないクリスに腹を立て、リーダーがもう一度クリスの腹を蹴る

『クリス!生きてる?大丈夫?返事して!』

 クリスは全然動かない

「死んじまったか?この程度で死ぬとか…雑魚にも程があるだろ!」

 その言葉で少年達は笑い出す

「ッん…」

 クリスがかすかに動いた

「んー?生きてんじゃねぇーか。ミーゴ、

 その言葉で猫の獣人の子供は詠唱を唱え、クリスに魔法をかける

「うっ…」

 傷が引いていくが、途中で止められる

「やめろ。完全に直すな」

「魔力量的に直せないって」

 ヘラヘラと笑う

「なあムメイ。俺たちに逆らおうなんて考えてねぇーよな?お前は、死ぬまで俺らの下僕として生きるよな?」

「……」

 その質問に、クリスは答えない

「返事しろや!」

 リーダーはクリスの顔を殴る

「…分かった」

 クリスは仕方なくという表情をしながら、俯いて返事をする

「あッ?分かりました、だろ?下僕のくせにタメ口で話せると思うなよ?」

「…………分かり、ました…」

 嫌な顔を相手に見せないように顔を上げながら、なんとか言い終わる

「ふんっ。最初からそーいえばいいんだよ」

 リーダーはそのまま去っていく




『クリス!クリス!!ごめん、助けれなくて、大丈夫?大丈夫なわけないよね、ごめん、本当にごめん』

 ククルがクラスの前に来て謝り続ける

「別に…いつも、だし…」

 そう言って不器用にクリスは笑う

 教養のせいでうまく伝えられないが、精一杯気にしないでと伝えようとする

『うん、ごめんね、ごめんね…』

 そう言い終わった後、ククルは彼らが向かった方向を見た

 その目には、クリスよりも彼らを憎んでいるような、怒りの瞳が見えた

 まるで、復讐の炎に燃えているような決して許すことのできない激しい炎がそこにあった

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