5歩目 その門番の名は
門が見えてくると同時に、リルラの実を食べ終わっているククルはクリスの背中に張り付いた
「…なに、?」
『い、いや。見つかったら食べられそうじゃん?だから!』
何かを隠しているようだが、気にせずにクリスは言った
「見つかると、売られる…か、食べられる」
冗談には見えない顔で言うクリスにククルは恐怖を覚えた
『ほ、本当に食べられんのか…しかも売られる可能性もあるのかよ!』
「がんばれ」
『相棒に対してひどすぎない?』
そんなククルの言葉を無視して歩き続けると
「おー!!昼のガキじゃねぇーか!よく帰ってきたな!」
門番がクリスに向かって手を振る
『知り合い?』
「街、出る前、喋った」
喋っている事を門番に知られないよう、ククルにだけ聞こえるよう小声で伝える
『へー。名前は?』
クリスに知り合いがいるという事実を知り、楽しそうにククルは言う
「知らない」
『え゛!?そ、そんなん他人じゃん!騎士団?冒険者ギルド?つ、通報!子供に声をかける不審者がぁぁ!!』
慌て始めるククルを横目に門番に近づき話し始める
「ちゃんと戻って来たんだな!」
「ん、…名前」
「あぁ、そうだったな!俺はガウル!ガウル・タイトだ!」
そう自信満々に胸を張って笑うガウルには野生の狼のような覇気があった
「ガウル…」
「お前の名前は?」
「……別に」
クリスは無愛想に言う
「なんだよ!俺のは聞いてそっちは答えないのかよ!名前わかんねぇと不便だろ!」
「…ガキ、でいい」
「…お前がいいってんならそう呼ぶけど、いつかは教えろよ」
不貞腐れたようにガウルはそう言い切る
「…あげる」
明らかに話を逸らしたが、ガウルは何も言わずにそれを受け取る為にかがむ
「なんだ…?」
空いている左手でそれを受け取る
「木の実、か?」
「ん」
そのガウルの言葉に、クリスは肯定する
森でククルにもらった赤い木の実を一つ、ポケットに隠していたのだ
「貰っていいのか?」
明らかに痩せ細っているクリスを心配して、食べるのを
「パン、お礼」
「あぁ…じゃあ遠慮なく」
パクッと口の中に赤い木の実を放り込む
「うおっ!甘いなこれ。ちっちゃいのに口の中がかなり甘い」
予想外の甘さに驚きを隠さず先程より少し大きくなった声で言う
「おいし?」
甘いのが好きだったのか分からないので、不安そうにクリスは問う
「おう!ありがとな」
そう言ってガウルは1度目より激しく少年の髪をくしゃくしゃに撫で回す
「あ゛!!すまん!息子と同じ扱いをしちまった…」
「……別に…じゃ、行く」
少し寂しそうな表情をしたが、すぐに無表情へと戻った
「おぉ!またな!」
クリスの素っ気ない対応でもガウルは笑顔で返した
『クリスー。なーんで優しくしてもらってんのにあんな塩対応で返すんだ?』
クリスは塩対応が何かわからなかったが、先程の返し方だろうと自己解決する
「別に…そんな対応してない」
『いやいや!完全に塩だよ!僕凍るかと思ったよ』
そんなククルの大げさな反応を無視して歩き続ける
『いやー、それにしてもかっこよかったなぁ』
クリスが無視を続けるのでククルは独り言のように話し始める
『ガウル・タイトさんかー、漢って感じでサイコーだよ!もう兄貴!って感じ』
一匹で楽しそうに語り続ける
『もう兄貴って呼ぶ?呼んじゃう?』
周りには聞こえないことに調子に乗りどんどん声量を上げていく
『ガウルの兄──』
「うるさい…!」
クリスは背中にいるククルを軽く放り投げた
『─へ?』
そんな間の抜けた声を上げるククルだが、意外にも脳は冷静なようですぐにクリスの背中へと戻る
『な、なにすんだよ!僕が売られたり食われたりしてもいいのかよ!この薄情者!』
先程より声量を抑えつつも自分の意思をクリスへと伝える…が、クリスにはその言葉の意味を知らないので理解できない
「口が減る、うるさくない…暑くない、利点…ある」
もう秋に入るが、日が隠れていないいい天気とも言える今日に、冬毛に変わろうとするククルの毛は暑いと感じたようだ
『暑い?ごめん。今どうしようか考えるから…』
そのままククルはうーんと悩み始める
『いや話ズレてるから!僕の情報ってかなり使えると思うけどいいの?捨てちゃう?捨てちゃうの?』
「捨てない。捨てる、なら俺が食べる」
『…そ、そっか。捨てられないならいいか…いいのか?』
クリスの言葉のどちらに反応しようか悩むが、どちらも無視することに決めた
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