3歩目 強制の契り


「んっ!!」

 目の前にあった青い実を食べると、少年は口をすぼめた

「何、これ…食べれるけど、食べたくない…」

「毒じゃないのに、毒みたいな味…」

 少年は、まだ成熟しきっていない実を食べてしまいすごく不味そうだ

「水…」

 そのまま少年は湧き水を飲む

「まだ、実の味が残ってる…」 




 口の中の味が消え、罠について考えている少年の横を、が通り抜ける

「肉!」

 少年は捕まえようとして、手を伸ばす

「くっ!」

 手を伸ばしたが、届かない、しかしその何かの存在は分かった

「リスか…」

 そう少年が呟くと、リスは赤い実をとってきた

「…くれる、のか?」

 少年が手を差し出すと、その上にリスが赤い実を落とした

「甘い匂いがする…」

 先程の青い実にはなかった甘い匂いが少年の鼻をくすぐる

「食べる、か…」

 少し疑いながらも、少年は赤い実を食べた

「…美味しい………」

 そう少年が呟くと、リスは言葉を分かっているかのように胸を張った

「ありがと…」



 感謝を伝え少年がリスに笑いかけると、リスは少年の掌に乗る

「どうした?」

 リスは少年の言葉を無視して、掌の上でを始める

「ん?何してるん…だ?」

 少年が、自分の手の甲に文字が現れ、輝き始めた

「な、なにこれ…」

 慌てだし、パニックに陥ろうとする少年を横に、リスが行動を起こす

『落ち着けや!』

 少しジャンプして、少年の頬を殴ったのだ

「いや、だっ…て?リス、喋れる?」

 リスの方から、生意気そうな子供の声が聞こえてきたことで少年は冷静になった

『そう聞こえるだけだ。この契りのおかげで僕と会話出来てるからね』

 リスが自慢げに、少年と同じように光っている手を出しながらそう言った

「まって、契りって…どうゆう事?」

 不思議そうに聞く少年に、呆れたようにリスが答える

『右手の甲にあるそれだよ』

 少年の手の甲をぺちぺちと音が鳴る

 痛くないように弱く叩いているが、爪が刺さり少し痛いが少年は何も言わない

 その最中に見て分からないの?と煽りを加えながらリスは言う

「俺、そんなの、記憶ない…」

 困惑した顔でリスを見ると、リスは当然のように言った

『当たり前だろ?僕が勝手にしたんだから』


 そんな事を言うリスに最初は唖然とする

 だが、怒りを覚えたのか少年は言った

「何の目的。こんな事して、お前利益ない」

『僕はお前にこの森で食べれるものや毒のあるものを…つまり知識をやる。お前は僕に冬の間の…いや、どんな時でも食べ物をよこせ。それがこの契りだ』

 言い切るようで、そうでないようなリスの言葉を少年は疑っていた

「そんなもの、言葉だけ、意味ない」

 リスは少年の言葉を待ってましたと言わんばかりに言葉を続ける

『そうかよ。じゃあ、誓うって言ってみろよ。信じてねぇなら言えるだろ?』

 リスの企みに気づいていない少年が不満そうに言う、…言ってしまう

「……誓う」

 その言葉と共に少年の右手の甲がさらに光だし、しばらくして文字ごと消えた

「何が……!」

 少年の驚いている姿にリスが笑いながら言う

『騙されたな!!せいぜいお前は、僕の食費を稼ぎながら生きるんだな!』

「これは魔法…?」

『魔法の一種だな。これは契り、契約だからな…どちらにも利が有れば結べるんだ』

 上手く行った事に喜んでいるリスは楽しそうに言う

「俺の…利は?」

 対照的に、少年は諦めたのか今の現状を知ろうとした

『さっき行ったように僕の持っている知識を教えるよ』

 楽しそうにリスは言う

『ああそうだ。僕はククル。君は?』

 そんなリス…ククルの質問に少年は無愛想に答える

「…ない」

『ふーん。じゃあ周りになんて呼ばれてんの』

「……名無しとか、無名…だよ…」

 少年は、言いたくなさそうにゆっくり喋る

『なら、そこから取ってーー、えっと…ナナとかメイ…とか?』

 ククルは最初こそ自信ありげに言うが、その後は不安そうに名前を答える

「…元が名無しだと思うと、なんか…」

 少年が表現に困っているとククルが助言する

『嫌なのか?』

「うん…多分、嫌なんだと思う」

 はっきりとは言い切れないが、少年は自分の気持ちを考え直す

『じゃあ僕の名前のククルと、リスから取ってクリスってのはどう?』

「うん…いい、名前」

『じゃあ決まりだな。よろしくクリス』

 ククルは右手から、少年もといクリスの肩へと登る

「…よろしく、ククル」

 もう後には引かないと思い、クリスは大人しく受け入れた

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