1歩目 野望を持つ


 親なんて、知らない


 希望なんて、ない


 夢だって、持てない






 そんなことを思っている俺を前に、彼女はこう言った

「可哀想」






 その日は、この街の現状を知るために貴族が来た

 あの高い壁の向こうから来た、俺たちとは比べられないほど綺麗な服を着た人たちだった



 名無しの少年はその日、あの少年たちに立てないほど殴られ、道に倒れ込んでいた

 そこに、やってきた貴族が名無しの少年を蹴って道から離した

 名無しの少年は、「汚ねぇガキが!」や「俺ら貴族様に道を開けろ!」と言われようが何も感じなかった

 屈辱も、羞恥も、怒りも、悔しさも、何もなかった

 ただ、痛い…と傷への感想だけがあった

 、いつ終わるのかな…と考えた

 ただ、自分の一生が早く、苦しくなく終わる事を願った

 そこに現れたいかにも貴族の格好をした銀髪の小さな少女が、小さく呟いた

「可哀想」と




 その言葉を聞いて、少年は生まれて初めて激しく動くというものを自分で感じた

 いくら、「惨め」「醜い」「役立たず」

 …そんな見下すような言葉では思ったこともない、知らない感情が湧き出た

 胸の奥底にあった蓋が急に開いたかのように、突然に

 幼い子供には扱いきれないほどの大きな感情が現れた

 その感情は、自分の意思の中で強く、強く主張した



 僕が、可哀想?


 僕は、可哀想なんかじゃない


 僕は、お前らなんかに同情されたくねぇ


 もう二度と、同情されてやるもんか


 もう二度と、言葉で憐れむことしかできないこんな奴らに、下に見られてやらない





 今はまだ、傷のせいか言葉は言えないけどいつか言ってやる!


 …いや………


 壊してやる……


 人との差別を象徴するこの壁を………






…………ぶち壊してやる!!!






 少年はその日、決意した

 いつか必ず、どんな手を使ってでもあの大きな壁を壊す…と






 今の俺には力がない、


 俺たち獣人は種族によって能力が変わる

 この街は大まかに四割が犬族もう四割が猫族

 一割がドラゴン族、そして残り


 俺を手駒にするあいつらは犬が3の猫2だ


 犬族の中に狼、狐などが入り、猫族には虎や豹が入る


 俺は、残り…

 見た目にはほとんど変化はなく、能力もない

 背中に小さな羽が生えているだけ

 背中に手を回すと、俺の手から少しだけ余るサイズの羽が二つある

 ここには鏡なんて高級品はなく、色も、何の羽かも判断ができない





 強くなろうにも力がない、生まれ持った才能もない


 


 けど、元々何もなかった俺には諦める理由なんてない

 いつか死ぬのをただ待つ一生

 そんな、いつかも分からない事に期待して、縋って

 こんな俺でも出来ることを無視し続けてたくない

 くだらない事で死ぬよりは、頑張って死んだ方がいいだろう

 ここで俺が死んでも、変わらないのなら…

 俺は生きて変えてやる!この国を…いや、世界を!


 だから………俺は、初めて努力をする



 これまで努力なんてしたことがなかった

 ただ死ぬだけの自分がしても無駄だと思い、してこなかった

 だが、半壊した天井のない家の端っこで時間を潰すより、努力というものをやってみるほうがいいと思った

 学のない俺でも、その方がいいと思った

 だから、自分のやれる事をやってみた

 冒険者として生計を立てている人たちの会話、行動を探ってみたり

 喧嘩をしている人たちの戦いから動きを盗みながら、自分でできそうな最善の行動を自分で考え、それをできるようにする筋トレを始めた

 腕立て伏せは、一度もできずに前に倒れ伏せてしまった

 腹筋も一度もできる事なく体力の限界に達した



 だから、俺は目標というものを立ててみた


 まずは腕立て伏せ、腹筋共に一回できるようになる事だ



 一月以内にどちらも10回いく事を目指して頑張ってみる

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